【或る嘘吐きと焼失資料】
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識別記号:■■■■■■■■
仮称名義:笠井蓮(カサイレン)
統御条件:以下が識別記号:■■■■■■■■の統御条件の暫定行動とされる。
恒常的な活性型■■■■■■■■の不発及び停止を推奨とする。その上で偏桃体の微活性と前頭前野の強制作用を施行した上で半径2mの檻に安置、常に無性愛者及び、魔法学に学識のない監視員を二名以上駐在させる。
活性型■■■■■■■■の再発の場合、管制下に関わらず直ちにエスに要請を送る。駐在員及び管制下先の組織四名以上の麻酔銃を手にした状態で共同に監視を行う他、当該への刺激を極力行わず、多団体への相互監視を実行する。
説明:識別番号■■■■■■■■は生物学的成長を続けていることから、現時点ではヒト型の二足歩行動物であり、体長は現在1.3mである。紫紺色の虹彩と白い体毛を持ち、接触を10秒以上継続すると不定の情動作用を誘発される。
識別番号■■■■■■■■からは以下の異常行動が確認されている。【割愛】
備考:識別番号■■■■■■■■は元傲慢国初代から末代に当たる【割愛】から生を受けていたとされる。
人体としての出生年は20XX年9月26日、出生地は日本東京都K区に在住する一般人女性(既に約十年前に処理)から出産されたと推測される。また当該の女性は交際相手からの家庭内暴力において、子宮機能が停止及び著しい低下にあった。
識別番号■■■■■■■■は生後直後は通常の新生児同様の運動能力であったが、独自のコミュニケーションを試みる等知能的行動は活発な動きを見せた。特に便宜上血縁者である一般人女性の一親等直系卑属の男性に対して
君なら なんだ 一言言ってくれれば良いが 君にも気紛れというものはあるのだろう。何であれ、そういった珍しい側面を見せるのなら いや 少し 驚いてしまったな。 この書類については、これからは一言声を掛けてくれれば有難いな。
しかし小さな文字じゃあ見辛いだろう。塗りつぶすのはやめにしてこれにしよう。こうまで書き換えられると何だか傍から見たら恋文か何かになってしまうだろうが、悪くない。
君も この話は初めて知ったわけではないだろう? 何だか視線が恋しくなってしまったからこれで良いかな。それに今風呂の湯加減だっていい、もう少し入りたい。さっき見せていたフルの、君の眼の色によく似ていたアレを入れてみたんだ。だからもう少し、シナプスとしてこれと私の体は直結しているから心配する必要はない。
いやあ、気を抜いてしまった 本当に。今までにないくらいに切り替えが出来ていない。
私に偏桃体という概念があったとするなら、まだ高次的思考への互換性には至っていないのかもしれないな。いや それじゃ君に回りくどいと言われてしまうか、まだ人間の体には慣れていない。外形はそのままマーティンの物を継続して借りているにすぎないけれど、内部構造はまだだ。脳とは、もうとっくのとうに解明しているがまだ未知数だ。興味深い、人間との差異を縮めていくのもそう楽でないのだろうな。
彼女が亡くなって、もう随分経ってしまった。
蓮がまだ小さかった頃だから もうそろそろになりそうか。早いが、彼女の死はこうして今に渡って 誰も深くは知られていない。知られていたとしても、蓮の価値には及ばなかったのだろう。遅かれ早かれ、彼女は死を免れなかったかもしれない。
彼女は、生きていたことそのものが奇跡だったかもしれない。そういえば君に出会う前のことを言っていなかったことを思い出した。彼女が死ぬ前に、私は結婚するつもりだった。無論受け入れられたことなど一度もなかったが あそこまでいくと、馬鹿も哀れになるな。そうしておけば彼女は死なずに済んだって分かるはずだった。
何度だって言ったな、「苦しくなる前に来い」と。その結果残ったのがあの家だったが
本当に 愚かな女だった
馬鹿な
話を変えよう。これじゃあ恋文にもならないな、見様見真似では恋人に向かって些か不義理な話か。いいや、いつだって愛しているよ。君もそう、蓮も あやめだって
それでも、蓮がここまで全うに育ったのは奇跡と言わざるを得ない。ただ完全に無傷でもない、いくつか精神的な面で瑕疵が見えている。局所では深刻な場面もあるのだから、その点の理解は踏まえて、私はあの子を引き取ろうと考えている。
機関には「実験の一貫」として 少々腐心したがそれで認可は降りている。一般人が蓮を引き取るのは困難だから、この件についての適任は私だろう。執行者、だのエスだの好き勝手言われたが、ここで口実が出来上がるのなら、悪くない。だが長くはないのだろう 数年あればいい方だろう 下手すると数か月だろうか。
君にはまだ働いてもらわないとな 相手は、機関も大罪も協会も、君のことが目が離せなくて仕方ないらしい。その状況下だが、数か月でいい。持ちこたえてくれ。
いや、
嘘をついてしまった。
一年。一年くれないか、それだけでいい。私は自分のやることを忘れたわけではない。多くの恐怖感情と激情を私の方へ集中させる、その行動も理念も絶えたわけではない。
ただ一年だけでいい、私がその間何をするべきか分かっている。彼にとって許されないことを私は自分が好んで実行することを選ぶ。
だから 良いや、今は言わないことにしよう。
というのも、君は漢字で「呪」って言葉があるのは知っているだろう?「呪」とは、唇の「口」で「兄」のような部分は、どうやら人が跪いてこいねがう部分らしい。人間が言葉を発することによって、願いを叶えていく。似たような文字で、しかし正反対の文字に「祝」があるが、これとは別らしい。「ネ」は、神に供える生贄、そして跪く人間で「祝」と言われている。
これは、そのどちらにも属さない。誰かの為の「呪」で蓮の幸せを成り立たせることはない。だから、君に言わせようとした言葉は、もう少し待ってほしい。それが「呪い」になる前に、なんだかジンクスのようなものだが、こういうのだってしてみたいんだ。人間だからな、人間になってみたかったんだ。とかく、私は真剣なんだ。人間になっても嘘ばかりつくかもしれないがな。あの子の前で嘘しかつけなくなってもいい。
だから
「……それこそ、”ソレ”で言うだけじゃ駄目だな、今言う為にここに戻ってきたんだ」
「蓮を祝福してくれ」
「……いや、それだけじゃないな、もう一つあった」
「私を──」
第三章【ユーアム・ライアー】始
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