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【或る研究者との通話】
【前書き】
ちょっとした休息で一ヶ月に一回は更新したりしなかったり。コメント返信は後ほどに返します、本当に待たせてしまい続けて申し訳ないです。
そして漸く台詞が登場したヘルさんこと児堂天屯さんの親御さまであるししば様に感謝
親御様のリンク(下記)
https://twitter.com/sisisib117
君は『機関』の三輪智樹か。
去年2月11日に実施された社内適性検査と、今の君のレスポンスに大きな差異はないと考えられる。この結果、そして君が専攻する技能を参照するに、君は生物学として多少の関心があるのは
笠井竜胆が編成した「箱庭」は、ベースは魔法学位相認識学。座標固定された上で行使される空間魔法とは異なり、普遍的に言うのであれば「世界創造」に近い。
位相認識学についてその極北を位置する暴食国の「イデア」、その責任者として着任していたミーシャ・ディの子息として当人の計画した編成を、彼は流用した。その概貌はアカデミーのデータベースからも確認出来るが、概ね似た状態と考えられる。
暴食国は「イデア」を編成するに当たり、課題点であった「概念の定着」に際し領域内に何万回かの構築と分解を繰り返している。これはミーシャの理論の根本であり、今回は竜胆はその再現を目的にしていた。
月並みで言うのならば、キリストにおける「洪水」、ギリシャ神話の「ラグナロク」……そういった大規模な流転作業を人為的に行う。こうすると、領域内の生命体の残滓を何層にも重ねることによって、概念として強固なものに変えていく。「箱庭」というだけあるか、父子共々自分が管轄とするより、ある種の神格とも言える「管理者」を配置する。管理者は世界の破壊と再生を起こすが、それは機構に他ならない。実質の支配下は自分である、これが今も受け継がれている構図だろう。
竜胆の用途としては体系の再現の他に、機関からの開発要請が上げられる。位相認識学における空間創造と着手は、私達のような世界には及ばない低次元的な物に変わりない。いわば泡沫、無理に干渉しようとものなら崩壊もやむなしだが、それ以外であれば特に崩壊もしない密閉空間とも言える。
梗概は機密と言うらしいが、私の予想だと大罪に相応する兵器だろう。暴食国のイデアとは多少異なる毛色であれ、原点に触れられるのであるなら質は申し分ない。シュミレーション、としては問題なくその役割は果たしていると言える。
「児堂さん」
然し憂慮すべき点はある。ミーシャ・ディと笠井竜胆の関係性に当たる、強い妄執により「箱庭」の私用は考えられる。笠井竜胆は計画の筆頭にあるにせよ、主導権は松山零一が保持している。
その妄執からの脱却は、ほぼ不可能と考えていいだろう。第一にミーシャ・ディ本人と笠井竜胆は血縁関係と言って間違いはないが、笠井蓮との実の兄と自称する。正当性、というよりもそれをアイデンティティの軸に据えているが故だろう。つまりはそれが虚偽であることを彼自身は容認し、その是正を試みない。その点を踏まえると順応性は期待出来ない。
私からの話は以上かな。
「児堂さん」
私は要求された通り『笠井竜胆が創造した特定位相領域』について答えた。それ以外についての質疑は直接送信で構わない。レスポンスは明日の同時間帯に応えるが、その質疑は松山零一に尋ねるが適当だろう。
「『アイデンティティ』と仰いましたが、笠井蓮は出生から17年に対して、竜胆は200年と記録しています。何故断定出来るのです?」
二者の相関性は私の興味の埒外にあるが、彼の直近の動向から容易に取れる。強欲国の亡命者がいたようだが、笠井竜胆は明確に笠井蓮への干渉を許し、アネラハノイ当人に教唆していた。松山零一が「Tに対して正当性のある瓦解」を根差しているとしても、手口としては非常に迂遠だろう。加えて、あの資料の通りであると
瓦解させることを目的とするなら激情家の犬たちをけしかければ良いだけのこと……そうなると、松山零一の目的の追従は名目でしかない可能性が伺える。エダの一件でさえも関わっていたようだが、痺れを切らして強行に及んだ。そこまで笠井蓮に関与する意図は分かりかねるが、笠井蓮を自分の手元に置くことを目的としていただろう。考えられることは実父であるエスが笠井蓮と接触していることだろうが……再度言うがその詳細は私には分かりかねる。
然し、行動とは例えるなら独楽だ。軸の新旧には特別な意味はあるまい。ただ使い減らしたら減らさずか……あるいは、一つだけでもないだろう。当たり前だが、独楽が二つあれば軸は二つになる、それに問題はない。原理を全うしているから。
「ヘル」
気の利いた対応は不要だが、君は誰かな。答える必要性は無いのだから不答も構わないが。
「協会、『ティンダロス』、
成程、三輪智樹に質疑の旨がなければここで切るが。
「我関せずって物言いだが、その『箱庭』の『管理者』が逃げ出したらしいな」
その旨は三輪と推測するが、君が想定し得る『首都機関の信頼の失墜』には至らないだろう。松山零一がその責任に自刃しても尚。いや、元々『首都機関の信頼』そのものは皆無に等しい。多様な対象者に向けて精通した現地の知見者に任命している限り、本部は維持を望んでいない。諜報、というよりも臨時的な枷や警鐘として我々は置かれている。
ある程度肖るにせよ、責任問題には関与しない。『管理者』が逃げ出した、にせよ私は追わない。いや、多少脳は覗くかもしれないが、それだけ。研究職として全うするのみだよ。
「……研究で思い出した、お前俺の商品何処にやった? いねえんだわ、5日ぐらい1人が」
君の、とは判然としない。名は覚えるつもりはないのだから、身辺情報は言い給えよ……ああ、表層情報は当てにならないな。識別要素として耳朶か、歯を覚えていたら良いけれども。
だが爪は剥がしたんじゃないかな、勝手に死なれたら困るからね。
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