【☓に嫌われている。】1 ※1月20日更新

【前書き】

 今日二回更新したのでまだ読んでない方は前話も何卒(´・ω・`)


 帰結から入ろう。

 社会的驚異となり得るエダ・リストハーンの子機は、君の自己防衛で本体そのものの焼失。回路そのものも暴発による永久停止と判断する。手法は物理的干渉、今回は火炎による物質的断絶と魔力の過多な量の介入。これにより細胞分裂からの再生及び治癒は発揮されず、予備補給とされる回路も損壊。外部魔力、には互換性としては異なる特性として、エダ本人のダメージも著しい。


 周囲のマガジンも瀬谷鶴亀により破壊……ここまで来ると再起は難しいと判断されるだろう。リストハーンの想定される能力値から、彼はこれ以上の活動は望ましくない。瀬谷鶴亀の発生した魔法的流動から、少なくとも運動機能の停止と呼吸困難は難くない。負担が強く、脳のリソースを割いてまで稼働したのがあの子機だ。だとすると……復元はおろか、ストックも燃やされた以上は社会侵攻のリスクを遠ざけた。後遺症も考えられるだろうから安心してほしい。

 ……重傷は住所不定の二十代前半の青年のみか。ああ、バレーナ、彼のダメージレポートは割愛するが、左右前腕は関節までを断裂。前腕そのもの複数箇所も粉砕骨折したが、これは問題ない。先程首都機関から高難度魔法による治癒と社会復帰の許可が下った、承諾者は小野寺清。対象者が我々に干渉する意図を取る場合、彼が代行して支持を下す。我々の意向として、彼はこのまま一般人として解放する。エダが媒介として使用された子種が微量に残っているとはいえ、驚異でもない。

 子機は燃やし尽くして……児堂天屯チゴドウタカミチは、私からやっておく。恐らく小野寺からの又聞きで思いつきで言ってみただろうから、彼も固執していない。少し状況説明してやれば、彼だって今回の資材価値は皆無だと検討付ける。多少、変わってはいるが見る目がないわけではない。それに代替物は見つかったから、煩わせることはない。


 首都から開示された情報か。エダは反社会的勢力の末端構成員を中心にチャネルを展開。媒介物質は自身の肉体と一部の動植物を利用した薬剤。関連団体のフロント企業には飲食店があるが、そこでは調味料を挿げ替えていたそうだ。

 瀬谷鶴亀か今回掃討したもの以上に、被害範囲はやや広大だと思われるが驚異はない。何度も言うが、核である本人と、プログラムである回路は酷いダメージを負った。予想感染者についてはそのまま不発に終わるだろう。仮に彼が復活して、回路を復元させて試みるとしても……その頃には操作不可能な程に希釈化されている。排泄させているか、細胞の微かなレベルにまで。

 まあそれでも起こりうるものであるのならだ。彼は再度「価値あるもの」として、我々の奉仕を望んでいるにすぎない。その際は私も歓迎しよう。

 私からの報告は以上だけど、何か疑問は?


『えすーえすー』


 ……何か質問は?


『いどねー、つるなおした、えすとちがってえらいでしょ、えらいね!』


 お前には聞いてない


『さんじゅうななさいひとりごとかわいそ』


 ここに鶴がいるだろう盆暗


『えーじもね! えらいってほめてくれた! やーいばいばい!』


 ……


だれ?


 ……ああ、いや、失敬、野良犬が来てしまって。

 誰とは……成程、理解したよ。君か、初めまして、そして久方振りか。


 誰、と言われても聊か広義が過ぎるか。現時点の話をするなら瀬谷鶴亀は私の部下。忌憚なく言うと飼い犬に他ならない。勿論比喩であって、実際にそうではないが、いやでも、本物よりはそれらしいな。

 あくまでも言い方の問題であって、君が比喩だ。そして少し散歩や風呂を嫌がるきらいを見せている気がする。雨に打たれることを風呂と彼は覚えているらしい、それも構わないのだけれども。


ぶか?


 部下、とは……そうだな、私が私でいてくれる存在。

 下があるから上があるとは当たり前だろうが、上は下がいなければ成り立たない。空飛ぶ鷹は、地を駆ける小兎によって生かされる。そこまで殺伐としたものではないが、等しく無くては成らない。


 そうだな、鶴亀は私を助けている、と言ってもいい。仕事を割り当てるのは私の責務だから、仕事の代わりは幾らでもいる。だが、私がその為に仕事している、その為に活かされているなら、それは鶴亀のお陰でもある。だとしたら鶴亀の代わりは何処にもいないし、私が大事にしない訳が……いや、然しこれ、飼い犬に詭弁だと言われたな。

 撤回、は、しないな。大事だ、私がここにいる理由がある。しかしこの説明と来たか……退行、というより停滞というべきか……ああ……まあ、そうかな、26歳の瀬谷鶴亀が働いて、そうして良くも悪くも、私がいる。

 瀬谷鶴亀は、面白いな。人間として興味深いし、魔法使いとしては酷く危なっかしい。好きなことに全力で頑張っている分、毎度私は手を焼いているけれど、楽しいな。いい年して子供っぽい、嗜好品はそれなりに楽しむよりかは、それを魔法の一つにしたがったり、今も変わりはない。

 今年17になった息子がいるんだが、あの子よりも落ち着きがない。不満があればそれを解消することもままならずに、どうにかしてほしいと、我儘を言ってくる。


たのしい?


 もっとも鶴亀は私の配慮を知っていようが知らないようが毎度不平を漏らしている、からその点分かりかねるが……少なくとも充実している。「利口」の類義語は「賢者」であって、「天才」ではない、「馬鹿」……とまでは言わないが


ねえ


 何かな


おじさんはどこ?

なにもみえない


 ……だろうな。理解できるかはさておき説明の責任は果たしたい。

 今の君には肉体というものがない。血肉、臓器、皮膚、ありとあらゆる部品ないし生体は持ち合わせていない。勿論耳もだが「何故私の声が聞こえるか」は、私の声がここでは反応という形で君の耳に届く。君という気体に向けての私の振動が正常に反応している。そしてこれに嘘がない。

 君は実際には聞こえていないが、その振動と波形は確かに君を伝えている。「君は死んでいる」も共に。故に、君はまだここにいるな。立体的実存。君には聴覚器官、というものは皆無に等しい。が、実在は物理学的見地から同次元であることは保証する。

 ……不整的になっているが、安心してくれ。これは今に限ったものではない、君はもう昔から精神と肉体は乖離している。物理学的多次元でも低次元でも還元できない。ここよりも次元の低い虚無を漂うはずだった。


ぼくは、死んでる?


 せやつるぎは死んだ、だが肉体はまだ生きている。この証に、今撫でているのは瀬谷鶴亀の脳そのもの、まあ先程は目も当てられなかったが。

 こんなこと、もう何回言ったか分からないな。多分もう、いや、奇跡に適した回数になるまでは繰り返すかもしれない。私はそれに付き合っているに過ぎない。そうだな、君は私の児戯に付き合わされている。瀬谷鶴亀の脳が矢張り損傷を起こしていてね、許せ。

 ……人間としての君はいないな。頭目闘争の果てに暗殺された、という真実があるとされている「セヤツルギ」は死んでいる。ただし「セヤツルギ」という存在の価値ゆえにいる。そして「人間になりたい何か」がいたことによって、君の元ある肉体は生きながらえている。

 私は彼を現実世界にて実在を示す戸籍謄本により「瀬谷鶴亀」と呼んでいる。ただそれだけのことで、本当は君が瀬谷鶴亀であって、彼は「瀬谷鶴亀」ではない。

 いや、それは迂遠か。簡単に言おう、「瀬谷鶴亀そのもの」は死んでいるが「瀬谷鶴亀の肉体」は生きている。今現在、平素私を悩ませている可愛い部下が


ぼくじゃない、ぼくのからだをつかうだれか?


 概ねそれで間違いないが、ここからはややこしいな。君の肉体は停止したと同時に、精神を司る脳は一度破壊されている。瀬谷家の一人であっても、その部品も再利用されて……君の精神体をも皆無に近い。今私が触れている脳は、今の「瀬谷鶴亀」が使っている。君ではない。私からの感触を伝って、まあ嫌悪だろうが不快だろうが、何れかの感度へのリアクションを行う。


ぼくは


 君は、「瀬谷鶴亀今の何か」の肉体だ。

 確かに君そのものの物体はもうどこにもない。だけどまだいる、彼の中で生き続けている。

 「瀬谷鶴亀今の何か」は君の肉体を使い回して生きている。人間の体として、何かを恐れる感情を持つ人間として。


わからない


 分からなくても良い、だが何度も言うが君は生きている。

 「瀬谷鶴亀」が元は欠落していた恐怖を君が補って生きている。彼にはない怯えを君は嵌め込んでいる。悲しみも、欲求に反する抑制全てだ。「瀬谷鶴亀」は欲求のすべてを兼ね揃えていると言ってもいい……君はその逆だ、肉体は人間を覚えている。君は、彼の「抑制」だ。


わからない


 私もだ、長らく私は全知だの囁かれたが、言った推測が当たったに過ぎない。

 ただ……決めていることがあるとすれば、瀬谷鶴亀の肉体は喪わせない。彼が人間の肉体にいる限りは、砦だ。彼が人間として全うして、最後まで追及されるまではいる。

 君に連続的な知能が残されていたら、君の要望を聞きたかったが……すまないな。「瀬谷鶴亀」そのものは死者じゃないんだ。あるかどうかも定かではない君を、社会は手を伸ばさない。

 ただ君自体に恨む……感情もないな、悲しむことも。機能するのは「瀬谷鶴亀」の肉体だけ。私が語りかけている残滓は、それすらも果たせない。私が君に物を聞く道理もない。

 ああ、バレーナもそうだな。彼もまた知らないまま生きていく。


 おじさん


 彼も君と似ているな、結局は何も知らないまま生きていくことになる。こうして、私達の煩雑に巻き込まれても知らずに。あの時の感情はどこに行くのだろうな。


 ありがとう


 ……言ったろう、私の児戯に付き合えと。

 私は君の事を何度も語るだろうな、君は永遠に彷徨い続けていると。地獄と言うには、生温い楔を君は与えられている。それを告げるのも、また地獄だと思うが。


 またね

 

 ……またそう言うのなら、もう一度言おうか。

 私は、不利益は好かないんだ。照らされた以上は這い上がってくれ。私のいない、人間のやり方で。地の底には私はいるが、それだけだ。わかるまでは、私は何度も君という死体を蹴り続ける。

 だから、そうだな――君が勝つまで待つ。彼の如く思惑を超えろSee Line Again、健闘を祈るよ。

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