【笠井蓮/愛の侭に我が侭に誤魔化さないで】1

 そういえば本当に君で合ってる?目が物凄く青だぞ、真っ青。青紫って贔屓目に見てもすげえ青い、そういえば「贔屓」って漢字に直すと貝がやたら多いの何でか分かる? 俺滞在して間もないから分かんねえんだけど……あっ電子辞書持ってる? それ貸して見せて。


 ――「贔屓」の「贔」は貝が三つある。これは古代に遡って金銭の代用とされた貝としていて、「贔屓」の「屓」の方は部首に死体を意味する「尸」、そして金銭である「貝」を供物として抱いている。だが死体は生きてないので金銭交換は出来ない。そこから見れば、「死体には物を返す能力がないにも関わらず、ある特定の死体は多くの供物を与えられる程に立場がある状態」、という意味から派生している。


 ……調べたけど全然違うんだけど、何当たり前みたいに嘘を言えるの君って……ええ……? 何……それが機関の処世術って……うわこわー……俺トーキョーやっぱ無理っぽいぞ……。

 まあいいや。ええと、そう、贔屓目に見てもすげえ目が青いんだよ。あと黒モヤがえげつない、少し癖のある髪と、目が大きい可愛い子というのはまだ分かる。指定された場所と行動は確認は取ったけど……これが呪いみたいなものなら、ちょっと写真ね、はーいパシャ。うん、これは、紫。問題ないから会話続けるか、一応午後の授業には出たいってことなら、昼飯まで俺に付き合ってくれると助かるよ。

 とは言うけど……君朝帰り? 二重で匂いがする。部屋の匂いだな、一つは……あー嗅いだことある、松山……の内の一つか。それでもう一つは新しい。


 まあ細かいことは置いとけ。言わんとしてることは分かるけど、一晩別の人間と一緒にいたって事実はどうなの? 家で怒られない?


――怒られるほど人間として見てくれるとは思えない


 そういうことじゃなくてよ……あーごめんって話変えよう、この話はやめるか。

 俺については……まあ今回は「共同開発地区」の逃亡者で。んでもって、君はテープレコーダーみたいな扱いだと聞いてる、「部長」だったか? そいつが知りたいことを君に言うだけで一字一句綺麗に届くらしいからそのまま言う。君の立場からしてみればまるでそぐわない話ばっからしいが……まあそれを社会科見学とする辺り懐深いんだろうな。

 でも確か、君の界隈って意図的な虚偽とかそういうのあったりしてるって聞いてる。最低限辞書三行ほどしか知らなさそうだから、適当に掻い摘んで説明する。地理的情報と、怠惰の成り立ちが簡単に理解できてるならその辺すっ飛ばすわ。


 とは言え、流れ説明するのに魔法とかそんなの教えないと行けないけど……暴食の魔法ねえ……イデア、というのは知ってるかな?

 簡単に言うと……例えば、君はギディちゃんとかミュップィーちゃんとかを犬だとは思わない。頭の中で忠実な犬のイメージを元にして、ギディちゃん達は犬じゃないと考えるはずだ。この忠実なイメージってのが皆の中にあって共通している。その辺りの領域というか世界をイデアとか……なんかそういう話だった気がする。

 それでまあ、この世界で言う「イデア」ってやつを魔法に利用したのが暴食。魔法のための「イデア」を国があらかじめ創ってから、皆と共有しちゃう発想だ。分かりやすい活用方法だと人間擬態。

 暴食国民の一人に体長5mのドラゴンがいて、そいつは人間の世界に行ってみたいという。そのままじゃ行けないから人間の姿に変えなければならないが、イチから作るなんて難しそう……そんな時にイデアだ。国民達から見たドラゴンのステータスをイデアに登録そておけば、そのまま楽に人間に変換できる。イデア的にはドラゴンが「美しい」なら、そのまま美人さんになる。


 まあでも「美しい」は抽象的過ぎてな、まだ試作段階でそこまで国民が当たり前のように行ってない。

 実際使われるとしたら、暴食が管理している前提でイデアを利用して「ドラゴン」という情報ごと書き換えて「人間」にする……負担が大きいらしいから、成功例は少なそうだけど。


 ――そのイデアは人為的である以上、魔法を研究するには枷では?


 枷、というか魔法を機械として造った感じにも似ている。だから研究出来やしないのは否めないが、イデアは人為だが実体化されていない謎の空間。その魅力辺りを解明していこうとする、のがイデアに対する暴食の姿勢かな。

 ただまあ、それは魔法としての体裁であって、普通に考えれば国民の監視には向いている。何から何まで、焚き火から戦火までをイデアに頼るから、その履歴とかあれば暴食も、国民がなにしているか安心して見守ることが出来る。

 まあアレだ、そんな感じに民草のことを考える優しい君主だから。そのままイデアの開発と究明を続けている。


 ――その国民の意向は、イデアの活用と


 おっと駄目だ。それは駄目、ミュップィーちゃんがなんで可愛いかって、口がバッテン印だからとか習わなかった? つまりそういうこと、だけどそうではないことだ。俺があの国の人間じゃなくて良かったって感謝してくれ……言わんとしていることは分かる……アレは、まあアレだがそれを何回も使えるわけじゃない。

 良き国である為には悪いことをしない民が必要だ、ならば法律とかが必要だが、いかんせん暴食国は種族の種類が豊富すぎる。

 人間のデータは足りていない。人間の問題は別に暴食だけじゃない……お隣の怠惰もそうだけど、まだ出来上がったばっかりで人間のデータがどうなの調べる余裕はないように見える。

 この両者の願いを叶えるべく、まず手始めにやってみたのが「共同開発地区」だな。ただまだ小国の怠惰には揃うべき金はないだろうから、怠惰国の人間を指定された土地に住まわせて社会を作ってみる。管理は現実世界をある程度は知ってる暴食がやってあげる。すべて怠惰の領地でやるから税は怠惰だけで良いし、暴食は集計を取れる、良い事尽くめってこと。


 ――良い事尽くしなら、ここでわざわざ言わないだろうけど


 分かるなら黙って聞くのも仕事だと思うんだけど……いいや分かった、本題だが俺はそんな良いこと尽くしが嫌になって逃げちゃった甘ったれだよ。

 原因は色々あるが……まあ九割が怠惰が知っちゃ駄目なことを地区内でもやりまくってたとか。


 そういう職についているから分かるだろうけど、怠惰が未だに強く出れないのは、元の背景が暴食が魔法の開拓地として使っていた所を、国として成立したことにある。正直周囲から見れば、国の一部を盗まれたとしか思ってないだろうし、それを国として認めた暴食は聖人のように扱われる。

 それに加えて、「共同開発地区」なんてものを設けているんだから聖人とかじゃないな、神様だ。

 暴食にくっついている以上は怠惰は安定、独り立ち出来るようになるまで同盟でも組んであげればさらに安心だ……というのが周囲が見ている状況だな。

 かなり不穏に言っちまえば、怠惰国の中でも共同開発地区は暴食の好き勝手に出来るってこと。地区に住んでる人間には、純粋に怠惰国の為に頑張ってる奴もいる。けれどまあ暴食が色々好き勝手にやっちまうから、反発がひでえ所もある。俺がそれが嫌で適当に暮らしてから逃げちゃった。


 ――じゃあ怠惰には分からない地区の内情を


 そう急かすなって、順序的に話してんだから……だからそう、その時にイデアを使えば無事平穏に治まる。だけど地区の怠惰派から見たら独裁だの何だのうるさいから、奴らは勝手にイデアでは対抗できない新しい魔法だって考える。これが確か……カゲキハっていうんだっけ?

 ぬるぬるアイツらの側に生きてるとすぐに変わっちまうものだな。その中でやべえ奴とかが、リストハーン村のエダ。噂にしか聞かないけど、イデアって魔法がやばいのは分かったから、イデアそのものを機能させない兵隊をつくろうとしたとかなんとか……それくらいしか知らないよ。

 あとは、怠惰国にしか生えない植物を使って、シャブ作って兵隊を「イデア」の対象外にしようとしたとか、その植物がなくなった途端エダが生死不明になったとか、そういう話しか分かんねえな、ほんと、それだけ。


 ただまあ初恋の綺麗な姉ちゃんがある日突然居なくなってたりして、暴食から派遣された看守みたいなおっちゃんがすげえスッキリした顔ですれ違っちゃうと萎えるってかさ。何の為に、働いたかも分かんねえし、適当に逃げさせてもらった手口は秘密な。


 ――ただの逃亡者なら、こんな場所に泊まるはずはない


 ああそうそう、対人特別派遣員でもなければ全くな。暴食とか強欲ならまだしも、怠惰とか色欲ならそのレベルじゃないとまず無理だ、加えて君の携帯に電源を既に切り落とす芸当も出来ない半端者なら、どだい無理だな。あとは現実世界でのお嫁さん探しの協力とか……ああいやいや、ごめん何でもない、そうは言ってもお前さんには関係ないだろうし、なーんも言ってないのと同じくらいどうでもいい話だな。

 ……まあ、肩書はまあ格好つくが何もしなければただの無職だ。無職で住所不定のホテル暮らし、それが今の俺。今後ともよろしくな。

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