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嘘つきと詐欺師しかいない世界では分かりきっていたことだが、ヨウの依頼で護衛は名目でしかない。正しくは採取、最早動物である獰猛な植物の捕獲に駆り出された。
異世界では全域に生息し人間としての食材としてもなりうる、魔法の行使は極めて低いが肉食。念には念をと、植物園に赴くついでに手製の要綱を手渡された。
エンデ・ルスカセプーニャ、体長は平均して1m、最大で2mにまで成長させる肉食植物。あらゆる気候に耐え、雑多な小動物を好んで食べる。全域に生息しているが、地下にも臓腑を埋め、そこから地中生物を捕食する機能のため個の活動範囲は狭い。その為拠点が固まりやすく、生きると次第に、その気候の耐性を得る特徴がある。
今回捕獲するエンデとは、色欲国の
強力な消化酵素を持ち、人間の成人男性の声を模写す為、人間を捕食対象として補足しているのが山岳型の特徴。なお土地への順応が早く、毒も例外ではないがこの種は捕食特化に対毒に加え毒を用いる物として注意される。異世界から持ち出されるものは山岳地帯にて、淡水域生息の魚人が用いるヒレの毒、これが唾液から検出された。亜種以前に地域によっての耐性や特徴は異なり、捕獲には常に細心の注意を払わなければならない。
人食いを代表とする魔物だがこれを刈ることで成人の意味をなす、いわば儀式として重宝される。そして先住民には高い生命力と植物とは思えない肉厚さから薬剤や食物、果ては武具を目的に狩られている。異世界と人間との風俗に近隣する、生態だけではなく文化も知り得ることができる。人文系研究には、欠かせない種の一つである。
というのが、異世界としてのエンデ・ルスカセプーニャ及びルスカセプーニャ。
既に取引先との座標を設定し終えている為、本格的な捕獲の予定も定められている。明日、今日ではないがパックンは手にした資料が示す通り、生半可な知識では太刀打ち出来ない。人間でも熟練された狩猟者か、化物でなければ裏打ちされた知識で仕留める他ない。なるほど、だとしたら頑丈な人間に自分を人選させるのは正しいと言える。
――本人に支配願望はない
だが、パックンそのものは現実世界の生態系を簡単に崩壊させる。どんなに趣味で押し通そうが、全体はそれを理解するわけがない。普通ならばそれを脅威と感じて、ヨウを警戒する。となると「イルディアド家の人間という出で何者かに狙われている」の方が公になっても厳重注意で許される。
それ故に、一度公開した者に対してはヨウはえらく寛容に情報を提供した。
パックンの捕獲による最大目標は、それを使用した上での人体の移植。治療目的の研究として昏睡状態に陥らせる沈静化を望まれている。現実世界の機関にもいくつか
――僕には関係はないが
佐藤イブの生花の移植はその前身だろう。首都を掻い潜っての医療行為は趣味の範疇を遥かに超えているが、ここまでが自分の踏み出せるところだ。自分がメスとして切り開くべきは、別の、明日のことを考えなければならない。
ヨウから手渡された文書を読み込み、植物園に辿り着く。だが従来の大掛かりな設備投資を必要とする、ビニールハウスではない。室内の渡り廊を進んで、その一室に植物園を造設させていた。
それだけでも現実的にはおかしいが、ここはヨウの家であってヨウの全てが詰め込まれている。人は太陽に勝てない、何故かと問われても考えるだけ無駄なことと同じだ。
どうしてか室内で稼働する植物園の中を巡り、転送される地点へと足を運ぶ。丁度、休憩スペースの空間に配置させるらしいが、毒性のあるものなら手数を少なくして仕留めたい。毒の散布を回避か、設備や草木は避ける先を指示書に記載しているが、温度調節の問題で動かせない物もある。
――貴重品なら別でやればいいけど
始末場所をここに選んだのは独立した者としての限界だろう。今でさえ爆弾を火薬庫の中でタバコ吸いながら磨いている立場だ、この場所だけの限定でないとラインを超える。
魔力だ、直感がそう示すように踏み入った途端に痺れの強い香りが匂い立つ。獰猛で攻撃的だ、摘まれ散らされることを人間が我が物顔で悲嘆される立場を持たない。色とりどりの
「あっ1時間ぶりです」
『まず植物の整理だっけ』
「そうそう、それじゃ頼みます」
先回りしていた佐藤が顔を出す。彼は慣れているのか、へにゃっとした笑みを浮かべて作業着のまま寄る。彼の足元に同伴している子狸も、彼に合わせて歩く……ような動作をした。
「人に四足歩行を教える際に、膝の擦り切れた痛みで不自然に歩く物は鞭打て」と部長からの教授で直ぐに分かる。彼は右前脚と右後脚を同時に動かし、そして左脚も前後共に踏み締める。歩行よりも足のスライド、明らかに動物の動きではない。
そしてつぶらな瞳、瞳孔の真中から亀裂を走らせ、人の手を付き出す。
狸はそこで倒れるが、目の奥から突き出た手は目を刳り抜いてぽたり落とす。手を始めに、這うようにして小人が目の奥から這い出たのはそれから直ぐだった。そして計15人が体内から帰還を果たす。一寸ばかりの小さな者か、体液で濡れそぼった全体をジャンプで弾き飛ばす者もいた。
「ランダム転移ってやつです、この人達ここに飛ばされて、今は狸肉が好みなんですよ」
やっとそこで、死臭を嗅ぎつけることが出来た。ここはとうに現実を食い殺す異世界だと、
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