【一ヶ月前】一日目/午前
ある新聞記事/ある男への手紙/ある女子大生の能書き
XX日午前XX時XX分ごろ、N市A町X区にて「血だらけの女が近くでうろついている」との通報が入った。女性は付近で発見され市内の病院に搬送されたが、1時間後に死亡が確認された。
☓☓県警によると、女性は市内の公園にて発見されたが外傷はなく、自宅には彼女の血ではない血痕が数多く残されていた。☓☓県警は女性と同居していた男性が不在していたことから、何らかの関係があると見ている。なお、自宅から男性の私物らしい薬物が押収され、向精神薬取締法等の疑いがあるとして慎重に捜査を続けている。
◆
親愛なる友へ
もう一度今回の内容を確認したい。
アジェンダと資料で確認されているだろうが、CCC(この国では「協会」って言葉か)の関係者との対談への随行、及び逐次通訳を希望。内容は彼女らによる国内CCCにおける内部情勢と俺の解説。
言語は日伊、詳しい対談相手の人物とその旨は分かっているだろうけど、原則として相手が何であれ、彼女らの言葉は一字一句、正確に伝えてほしい。場所はT区A町の喫茶店で予定時間は午後2時。拘束時間と情報量に変動はないから見積もりは変わらないが、そちらの上司から「俺が運ぶと大人しくなる」と言伝を受けている、だからその分そちらの送迎費の■■■■■円は差し引かれている。
そしてこちらにも、上司から君の義肢のテストの見張りを頼まれている。魔法学的かつ科学的生物工学だの御大層なことは聞いたが、傷付かない範囲での行動を頼む。もっとも俺は戦うとか人死は御免だからさせるつもりもないけど。
それじゃまた明日、そろそろ実物のお前さんが待ち遠しいから楽しみだ。一時にはそちらに向かう。
仲介屋
◆
姉が連れの子とお話しているので、僭越ながら私が先に話を進めようかと思います。あちらの、クリームソーダを食べている子はちょっとした仕事の一つです、何故こちらも多忙で秘匿性は低いものとの判断をしています。
改めて紹介します、彼女は私
お忙しい中、貴方がた機関と社会の支柱達を牽引する方とお話できる機会を頂き非常に嬉しいです。協会の一員として、そして庭三の名を背負う者として、出会えてとても光栄です。
お話は伺っております……貴方、は、身分証明書の名義ではエグチハルアキ様。社会の側面にて、並外れたギフテッドにより困難を極める就労希望者への業務斡旋と相談を担う、
さて、エグチ様とお話するのは私達には初めてです。海外にも類似したものはあるにせよ、私達の国として多少の相違点があることは予想されます。それ故、改めて協会についてお話させて下さい。
まず原則として、現実世界の私達は昨今の異世界との交流を通じて、大きな三つの勢力があると考えています。一つは異世界に住み、異世界諸国の意に沿わんとする者、あるいは元首たちで構成される「大罪」。「大罪」の意思によって行われるある程度の現実世界への侵攻を、時には緩和させ、時には和解させ瓦解させ、だが根本的には現実世界の平和を最たる者として望む「協会」。「大罪」と「協会」の行われるであろう人智を超越した厄災、それに伴う滅亡を回避するべく、情報という不可視的価値を取扱い、図らずとも相互の調停をとる「機関」。
私達はこの「協会」に属しています。ですが、強い意志の群体でも連合でもある「大罪」、徹底した管理を前提として行われるが故の組織的に構成される「機関」とは違い、私達は「総称」という括りで成り立っております。「協会」の中にもそれぞれ個々の派閥はあり、勿論大きな家では支族や分家をかき集めた団体もあります。経済的に、能力的に、血筋としてそういった大きな派閥といったものは存在するにせよ、軍勢を成すには少々骨が折れる個々の主義の強さがあることが我々の特徴です。
「大罪」という異世界の脅威、といった大きな敵は皆の敵と、ある程度の意思は一致しております。ですが、私達「協会」は、「大罪」を敵を見なせるだけの人智を超えた能力を備えている、という名実があると自負します。その個々の力故に分散がされがちかつ、大きな力故に至上を一つ置くことすら、纏めきるのが難しいのです。
――僕から良いかな、一介のアシスタントだけど
ええどうぞどうぞ、貴方様についてはここでは唯一の鉄壁を語る者ゆえ。
――相変わらず自分達に甘いね、大罪の魔法を自分達の実力だとまだ声高に言う訳?
手厳しい、確かにそういったことを認めた家もあります……代表的な家は「
大部分の「協会」はそれまで一般人の平和と豊潤を祈る神仏祈祷を中心とした活動、そして天上のものから与えられた加護を「大いなる力」と呼んでいます。けれど神や仏という形而上的存在を利用して、不届きにも神と自称した異世界侵入者がいたことは認めます。異世界の魔法を神通力と、万能叡智の代物であると踊らされ、私共も看過していたことは認めます。
その冒涜的な存在に踊らされる無垢な蒙昧の同志がいたことも、退廃と淫習のソドムを儀式として継続してしまった者どもも――しかし「機関」が、異世界の者を「大罪」などと意図的な宗教的名称を付けたように、実際のところ本当に神がいるか否かはまだ明らかにされていないのがこの世界の現状です。
ですから「協会」は、この世界の神が異世界の魔法に染められない、ただ一つの神秘であり領域であると強く信じています。どの国が、どの聖書がどの伝承が何を語り綴ろうが、ここにはまだ神秘があると信じ続け、共存和平を図る者達、それが「協会」です。
こう思う方もいるかと思われます、「神がいるとやらは庭三家は信じているのか?」と
そこはご想像におまかせします。ですが、私達は私達としての現実世界を守る義務がある。
私達の主な仕事は「神秘を破られた者」に対する救済措置です。それ故お恥ずかしながら、私達の内部に対する見方は時に厳しいものです。ですが神秘を偽証として、あるいは幻想とするものを相手とする以上は避けられないものです。
それに私達はこの世界に生まれたこと、桜君に出会えたことを強く感謝しています。ですからそんな愛すべき世界を守る義務はある、それだけです。
それ故の「協会」、私がここにいる理由です。
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