201X年某日/ファミレスにて、ある男子高校生の証言

 俺が思うに、魔法少年団体ってのはどこにでもあって、結構若くて体力のある即戦力って感じで選ばれているらしい。俺はその組織がなんとやらは分からないけれど、お前らの言う世界の命運とやらは今は他の人が担っているのではないかと考えている。

 お前の班は壊滅的でも、別の方で活躍できる人間がいればその分休める……だろうし、恐らく通信手段として使われていたポルルンは組織にとっては重要だろうし、いつかその手筈が出てくる。


 何で俺の話しなくちゃならないの?

 別に、聞いていいこととか全然ないし、面白くもないから……人外がどうたらこうたらとかそれ?

 あれ冗談だから、確かに父親の顔とか見たことがないし、母子家庭で育てられたけどそれ以外全然普通。普通に17年飯を食ったし普通に勉強したし……あと、そう、よく寝たし。


 ただ、俺ってそうらしいよ、前言ってたその、魔法少年団体?

 アイツらが住んでる世界の住人の一人が俺の父親で、これは何かの縁だからって聞いてんの。別に悪の組織は俺のジョークだって、本当に分かんないって言ってる。


 力? 俺だってそんなの欲しいけど、特になかったよ……小学校高学年頃だったっか。7月半ばで夏休みを長く過ごしたくて眠れなくて、そのまま一睡も出来ずに9月に登校した。その程度だったし……勉強時間に使わせて貰ってる、瞬間記憶能力とか、魔法とかはない、あるかは知らんけど。


 あと確かに変な目の色をしているって自覚はある、菫色、ヴァイオレットだっけ? でもそこまで気付かないだろうし、そっちだって俺が言わない限り気付かないものでしょ? 

 小学生の時とか、子供だし残酷なアレで出来てるじゃん。多少とやかく言われたけど……それ以外は全然普通、よく見たら変わってるなってだけ。

 本当にこんな奴の話聞いて面白いって思う訳?


……あ、分かった、前の俺の真似とか?

 だったらやめた方がいいよ、面白くないから。これは誓える、物凄く誓える……目新しい話とか言えば、陰キャラの習性についてとかだけでしょ。

 それなら俺は結構話せるし、当たり前っちゃ当たり前の話だけど、そっちにとって新鮮じゃん? というかそれ以外、俺は話すことないっての。


 今日も誘った話は言ったけど、もうちょっと話を聞いてくれって先輩に怒られたの……ああ、そう、バイトの先輩、厳しいんだよね俺んところ。

 けどまあこうやって、出るものは出尽くしたし、時間潰ししかないんだよな今。まあ怒られるだけだしそれで良いけど。


 って言うか、俺が語るんじゃなくてそっちが語れよ、何かあるんじゃないの?魔法少年とはなんぞやとかなんとか。

……それ交換条件?俺に分が悪すぎないか?なんでそっちに出生秘話とかなんだの……つまらないって言ったじゃん。


――どうせ時間があるなら、等身大で話す的なさ


 つまり、魔法少年と質問する側じゃなくて、俺と松川でってこと?

 陽キャちょっと俺付いてこれないかも、そういう発想は俺にはちょっとない。俺呼び捨てとかしない主義なの、と言うかなんか慣れない。太陽だっけ? いや言えるけど普通言いづらいんだよ……何でとかそこは……上司とか、父親、が呼び捨てにするから、何となく嫌になった。

 威圧感って言うかな……まあいいや、そこはどうでもいい。とにかく我ながら厨二病とか入っててさ、あと反抗期とかそのミックス、俺に家庭環境の話は禁止ね。


……話聞いてた?だから俺にはそういう、分かった、わかったよ……父親って言っても、本当の父親とかじゃなくて後見人とかその類ね。

 母親が死ぬ前に遺言で指定して、その後よく分からん。ネットで検索して欲しい、とにかく今はそいつと二人で暮らしてる……複雑な家庭環境とやらでもないけどさ。

 あっちはうるさいくらいフレンドリーだしベタベタしてくるけど、俺はそこまで好きじゃないっていうか。

 ……そうそうソイツ……何で知ってんだよ……体育祭に来てたの? 死ねばいいのに……ごめん、今物凄く反抗期だから父親に関してはあんまりいい話言えない。

 陰キャは陰険悪辣な分表立った喧嘩はしてないし……まあDVは……まあDVは、俺の繊細さを考慮したらないしな。


 及川、は、まあよく話すよ。物好きな陽キャって記憶してる。どうしてかは知らないけど、そのレンレンもちょっと止めてほしい……だから俺はそこまで人と話すの得意じゃないんだよ。

 こう、普通の会話っていうか、事務的な会話は出来るんだよ、あと普通の会話とか……普通の会話って何?

 もうよく分かんねえよ……そっち聞きたいんだけどさ、何でお前ら先生にタメ口とか出来るの?陰キャ分かんない……俺には分かんない……


――担任とか地球規模でタメだろ


 鏡先生を惑星と一緒くたにするなよ……誰だって同じになるわそんなん。


 及川と何話してるか? 何でそこまで気になる訳? 俺は動物園の動物かなんかか?

 あんまり、変な話とかはないよ、物凄く一方的に煩いし構ってくるし俺は逃げてる……そうだ、体育絶対ペアになってくんの何とかしてほしい、お前ら陽キャだろ? 何とかして何かしらくっついて欲しい。

 ってか、俺と話してる奴って及川くらいしかいないし、現実もう話題とかないだろ?

 さっきも言ったとおりだけど、俺は傷心中で周りと心を開かない一匹狼にして及川はしつこいオブしつこいだけ。


 って言うかドリンクバー頼んだしさっさと淹れたいんだけど、何がいい?

 何でもつったら水な、あとあればって話で、俺に質問とか考えても良いけど。

 ……偉そうか?俺水汲み一級コミュ障だから許して。


――考えたんだけど、お前こういうのどう思ってんの?


 こういうのって、魔法少年、ないしは異世界的なアレ?

 言ったじゃん、よく分かんないって、まあ確かに強欲国って単語はあるし、大罪的に暴食とか嫉妬とかあるよ?それだけだって

 ……ああ、「それを加味した上で、どう思っている」なら……ちょっとテープ切っとくわ。


 ただの独り言みたいな感じのと、誠実さに欠けるからさ。

 異世界的なアレについては、俺はどうでも良いと思ってるよ。それこそ、父親が誰であろうがもうどうだって良い。

 再三言うけど、異世界について何も知らないってのは本当なんだ。ただ多少あっちにも国みたいなのはあって、エルフとか吸血鬼とか色々あるとか、その程度のことは知ってるだけ。

 ……本当はさ、知ったこっちゃないとすら思ってるよ。魔法少年がいるだとか、大罪のような化物がいるとか、どうでもいい。

 だってそれは俺がそれを知らないで死んでも変わりない無駄知識でさ。実感として魔法とか知らないから、チラシの裏とかノートの落書き程度しか思えないわけ。


 ……でも、「母親は俺のせいで死んだ」ってことは確かだよ。

 まあ死んだものはどう言っても死ぬままだし仕方ない。昔何があったかはよく覚えてる首の周りにびっしり縄が張り付いてて、んで、母親は身長が伸びた。

 母子家庭だからそりゃ苦労するしさ、無理心中したら化物だった俺は残ったって話。

 父親はどこにもいない、珍しい瞳と眠れない力を息子に受け継ぐだけしか証明できない奴だしさ。

 ただ、分かってしまって、今の父親がそれを理解したら、他にすがるのも分かんねーしさ。だから訳分かんない組織について俺は手伝ってるってこと。


――それって、強制ではないんだろ?


 いつ降りても構わないとは言われたけど……正直そんなこと言われてもムカつく。

 俺は実はこれでこうでだから俺は死にませんでした、けど大人のルールで守ってあげるって、それで黙れる程俺はできてないからさ。つい話に乗っちゃってここにいる。

 今もよく分かんないし、そっちの話を橋渡しって感じでやってるけど、これから先もっと覚えなければならないことはある。

 ……まあでもバイトってことだし、バイトは我慢料って先輩も言ってたから、そう考えればかなりいい仕事だよ。


――お前、楽しいか?


 ……勿論、楽しいからここにいて、こうやって続けてる。

 人間だと思うのが嫌になるくらい、とっても。

 それが俺なりの、俺にとっての青春でしかないなら、まあ仕方ないだろうけどさ。


 ……今日語りすぎて喉と頭が痛いわ、松川の話とかそろそろ聞きたいんだけどな。

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