第3話 リタとラップ

「つまんないのお。」

「しんど…。」


俺、中央区第2部隊作戦参謀 桜坂理太郎少佐は隣に座っている友人の中央区第1研究室室長 真中美紀と同時にため息をついた。


俺たちがいるのは会議室。前方には俺たち2人を含めて十数人の職員に熱く話す男がいた。

「そう!!つまり、この政府軍は変わらなければならない!!それを先導するのは我々中央区支部だ!!!!」

彼は第1部隊副隊長の昼間中佐。もう何もかもが熱い男。その熱すぎる性格の為、周りからの距離を置かれている。

ここ数週間、彼は南区に新人教育の為に出張していた。…で昨日戻ってきたと思ったら、いきなり俺の認めた優秀な軍人たちに特別講習をするとかなんとか騒いで今に至る。

多分、南区の暑さで頭がやられたんだと思う。

先ほどから同じ話を数回している。もう手遅れなほどに脳みそが溶けているんだ。


「なあ、リタ坊。」

「何?」

小声で真中が話しかける。彼女は10代の後半の見た目をしているが実際は俺よりも一回り年上であり、独特の言葉遣いを好んで使用する。リタ坊っていうのやめてくれ。


「暇だ。何かしよう。」

「良いけど?」

「最近、あるものにハマっているのじゃ。それで勝負しよう。」

新しいゲームだろうか?ここでやるのは難しいんじゃないか。

「それって何だ?」

「ラップじゃ。」

「ラップ?ええっと歌の?」

脳内にサングラスをかけた陽気なお兄さんが早口言葉のような歌を歌っているのが浮かぶ。

「そうじゃ、ラップバトルをしよう。」

ラップで戦うのか?どうやって。

「やり方は簡単じゃ。私のラップにお前がラップで返す。それだけじゃ。」

「いやいや、ラップしたことないし。普通にしりとりとかにしようぜ。ジャンル縛りとか、楽しそう。」

「いや!もうラップの気分じゃから、ラップバトルじゃ。」

こうなると異論は認められない。

「分かったよ。出来なくても笑うなよ。」

「もちろんじゃ。」

こうして、俺と真中の小声・無表情ラップバトルが幕を開けた。




「始まる私らのバトル!準備はいいかい?ヘタレなGUY?私の最強のRhymeにお前はDOWN。出来るものなら掛かってこい!出来ないならベットにDIVE!」


わ、割とちゃんとしている。上手いのかどうか分からないけど。

とりあえず韻を踏んで返せばいいんだよな。頑張れ、俺の中の陽気なグラサンお兄さん。


「強気に出たな、小さなGIRL!聞かせよう、俺のLuckなRAP!負けても拗ねんじゃねえよ。勝てなくても泣くんじゃねえよ。そのお約束を守れるかな?」


お、意外に楽しいぞ。真中以外の人間には恥ずかしくてできないだろうけど。


「上から目線の臆病チワワ。私のRAPでお前はアワワ。男の子には刺激の強い、激辛味のFreestyle!理解ができない乳臭いお前には与えようママのスマイル!リタ坊そろそろおねんねかい?」


強い、強すぎる。だけど絶対勝ってみせる!俺は作戦参謀。逆境はいつだってこの頭脳で乗り越えてきた!


「ママのスマイルはとっくに卒業!俺のStyleは最強に最高!俺がチワワならお前はミノムシ!格の違いにビビるお前は弱虫!吠えてやるぜ、Lyric!震えているぜ、Both Leg!リタ坊って言うんじゃねえ、いまの俺はMCリタ!」


決まった!なんて爽快なんだ。




「ということで!!!今日の講義は終了とする!お!!桜坂少佐に真中室長!!二人とも良い目をしているな!俺の講義が胸に響いたか!!??」


「はい、大変参考になりました。昼間中佐。」

「ご指導ありがとうございました。」

「おお、では解散!!!」


昼間中佐が会議室から出ると、他の職員をやや疲れた表情で立ち上がる。


「素晴らしいバトルじゃった。ありがとう。」

「こちらこそ。熱い戦いだった。」


お互い固い握手をした後、俺たちは職場へ戻った。

俺の知らない戦いがまだあったんだな。世界は広いな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る