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「ん~、おいしい。バジルの入っているポテサラは初めてかも」
「今日はイタリアン風にしてみたんですが、お口に合ったようでなによりです」
「さすがマスターだね」
そんなそんな、本当のことを言わないで、なんてね。
「美味しいお酒に美味しいポテサラで元気一杯だわ~」
「いつもサツキさんはお忙しそうですけれど、やはり連休明けのお仕事は特別大変なんですか?」
仕事のできるキャリアウーマンって感じのサツキさんは、今日ほどじゃないけどいつもお疲れモードで来店するから。
「大変ってもんじゃぁないよ。もう、すんごく、すんごく大変なんだから」
わ、目がマジだ。
「うちの会社は休日出勤が絶対ダメな所で、でもしなきゃいけない仕事は沢山あるし、でも時間は限られているし、サービス残業は許されないし、残業したらちゃんと残業代は出してくれるホワイト企業なんだけれど、これがある意味問題で。仕事中は鬼のように捌かないとやってけないんだよ。特に大型連休の明けなんかはね」
うわぁ、想像しただけで大変そうなのが目に浮かぶ・・・俺には絶対無理だな・・・。
「あんまりにも辛くて何度も辞めようって思ったけど、やっぱり辞められなくて」
「おや、どうして? こんな言い方は失礼ですが、世の中に仕事は溢れているではありませんか」
贅沢さえ言わなければどんな仕事だって就こうと思ったら就けるはずだ。
「ん~まぁそうなんだけど」
すっかり溶けてしまったクラッシュド・アイスを混ぜるようにスプーンを回しながらサツキさんは言った。
「忘れられないんだよねぇ」
「忘れられない?」
「昔、初めてプロジェクトを成功させたとき、あんなに厳しかった直属の上司が凄い笑顔で喜んでくれたんだよね。まるで自分のことみたいに。それに、上司だけじゃなくって同じプロジェクトメンバーも喜んでくれて、私も凄く嬉しかったことがあって。それが忘れられないって言うか。今は私も部下がそうやって成功させると嬉しくなっちゃったりして、その、何て言うの? 一体感、みたいなものが楽しくなっちゃって。もうそれを何度も経験したいがために仕事してるって感じ」
先程までぐでん、としていたサツキさんはいつの間にかキラキラした笑顔になっていた。
「素敵な事ですね」
「可笑しいでしょ、仕事したくないって言いながらも本当は仕事したいなんて」
言葉にしたら矛盾しているかもしれないけど、それはきっと仕事をしている人の大多数が共感できることじゃないだろうか。そうじゃなきゃ仕事なんてやっていられないもの。
「明日も頑張りましょうね」
「うんっ、て、マスターは明日お休みでしょ?」
「あ、ふふ」
こりゃ失礼しましたーっ。
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