第4話 日本猪
「ほらそこ! 無駄話をするんじゃない! そっち! 真面目にやらないか!」
ジェノス教官の罵声が飛ぶ。
一方、
……か弱い。スポーティな服装ではあるものの、ヒョロリとしたただ大きいだけの体は、あまり強そうには見えない。
が、巨乳であるため僕は見ただけでイチコロだ。……兎だから仕方ないんだよ。
「よーし、貴様ら! 一旦訓練を中断し、集合だ!」
ジェノス教官がそう叫ぶと、運動場にいる動物全員が話をしながら歩いて集合し始めた。
「貴様ら何を話している! 集合の時は話をせずにダッシュで集まれといつも言っているだろう!」
今日もこの言葉。毎日聞かされる。いい加減走って集合しようよみんな……。
「それではこれより、抜き打ちの戦闘試験を開始する!」
全員が集まると、ジュノス教官はそう告げた。
あちこちから批難の声が聞こえる。「マジかー」だの、「めんどくさー」だの。僕も急な事で驚いたが、まあ、自分の力を知ることが出来るし。とかいう教師のような思考により納得。……というか、実のところどうでも良い。
「試験は大型、小型、鳥類に分けて行う! 大型の試験官は私が。小型はゾーマ先生、鳥類は
「よろしくお願いします」
「頑張るで御座る!」
さっきの授業の先生だった
やっぱ、ゾーマ先生は美人だ。ヤりたい。
……ゴホン。
「大型は正面、小型は東、鳥類は南へ各自移動しろ!」
ジェノス教官がそう叫ぶと、動物達がそれぞれの場所に移動し始めた。僕も走って運動場の東側を目指す。
「それじゃあ皆さん。これを見て下さい」
ゾーマ先生がそう言うと、全員素直に、ゾーマ先生の指さす方を見た。
それはどうやらトーナメント戦の表らしく、僕はシードになっている。
自分で言うのもなんだが、僕はこれで結構戦闘は得意なのだ。
まあ、自分の試合まで時間もあるし、マイナの様子でも見に行こう。一応さっきまで訓練を付けていた訳だし、戦いで揺れる胸も見たいからな。
大型のフィールドでは、ちょうどマイナの試合が行われていた。相手は……、これは不味いかもしれない。
相手は
ウラージは長い前髪から覗く鋭い視線をマイナに向けて言い放つ。
「あんた、熊の落ちこぼれでしょ? まあ、怪我はしないように頑張ってあげるから、取り敢えず……」
そう言うとウラージはマイナの眼前に高速で移動し、マイナを殴った。
「私のサンドバッグになって、ストレスを全部受け止めなさい」
マイナの
「はあ? これくらいで泣いちゃうの? それ、熊としてどうなの? ガチで落ちこぼれじゃん」
「……」
マイナは何も言い返せず、ただ頬を抑えて倒れている。
「まあいいや。取り敢えず殴らせな!」
ウラージはマイナの服を掴むとマイナを起こし、もう一発、同じ
「野生の世界は
蹴り、殴り、踏み。ウラージは攻撃し続ける。
「雑魚のあんたは、生きてる資格が無いって訳!」
マイナはただ泣き、小さくなって意味の無い守りに入っているだけだ。
周囲からは「その通りだ」とか「もっとやっちまえ」とか、ウラージの味方についた声が聞こえる。その一方で、やり過ぎじゃないかという声も小声で聞こえてくる。
「あんたなんかがいても、
ウラージは攻撃をやめ、少し後ろに下がった。
「あんたなんかね……」
目に止まらない速さでフィールドを回り、助走をつけてマイナに飛びかかる。
「さっさと人間に殺されるのが一番なのよ!」
どーん! という音と共に、思い切ったパンチがマイナに直撃した。
……と、その場にいた全員が思っただろう。
ウラージの拳が当たったそこには、マイナの姿は何処にもなかった。
その後、戸惑った顔をしたウラージが、一瞬で吹き飛ばされる。
何が起きているのかわからない。さっきまで拳を下ろしたウラージがいた場所には……左手を軽く突き出すマイナがいる。
いや、あれをマイナと呼ぶべきだろうか。と、物語に出る典型的なセリフを思い浮かべたのは、マイナのその豹変ぶりからだ。
いつも柔らかい笑顔で笑うマイナではない。
狂気に満ちた目、口の引きつった笑顔……。
そこにいるのは、腹を空かせた雑食動物。野生の月輪熊だ。
いつものマイナからは想像出来ない、死の恐怖を味合わされる表情のそれは、顔を変えずに。
僕の方を見た。
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