第9話 出落ち

「はい、みんな静かに。机が増えてるから勘付いてる人もいると思うけど、転校生を紹介します。さあ、入って」

 琴美が教室に戻ってからしばらく経って、いよいよクラスメイト達と対面だ。 

 教室に入ると新学期早々の転校生が珍しいのか少しざわついている。

 人前に立つことに慣れていないため、めちゃくちゃ緊張しているが、別れ際に楓から、絶対に正体をばらさないようにと、念を押されたのでそこだけは守らないといけない。


「じゃあ、さっそく自己紹介してもらいましょう」

 新しい学校生活。友達をつくるためには絶好のアピールチャンスだ。

 明るく、はきはきした声。自然な笑顔。これらを意識すればきっと友達ができる!

「はじめまして!あいさ―」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 意を決して行った自己紹介は隣のクラスからの歓声にかき消された。

「美少女転校生キターーーーーー!」

「女神だ!女神が降臨したぞ!」

 一枚壁を隔てているにも関わらず、隣のクラスの盛り上がりがそのまま伝わってくる。何が起きたのかわからず、固まっていると、教室の後ろの方から葵の声が聞こえてきた。

「あー楓ちゃんが七組なのかー、残念」

 葵の心底残念そうな声は癪に障るが、しかしなるほど楓が原因か。

 確かに整った容貌、女の子らしく華奢な体型に、お淑やかな雰囲気もあれば、楓をほっとく男子はいないだろう。

 俺の場合は、出会った状況が状況だったため気にする余裕がなかったが、七組男子の反応はもっともなものだろう。


 しだいに六組にも七組の騒がしさが伝染し始める。

「そういえば、朝練の途中でめちゃくちゃ可愛い女の子いたわ」

「まじで!どんな子?」

 とか、

「うちらのクラスも女子の転校生が良くなーい?」

「それ!」

 など、男女問わず、みんな楓の話で盛り上がっている。

 何もしてないのにアウェー感がすごい。ごめんね、楓じゃなくて……

「みんな静かに!真人君の自己紹介がまだだよ」

 千代里先生の注意を受け再びクラスは静かになるが、この空気で元気よく自己紹介できるはずもなく、

「あの、えーと、その…逢坂真人です、よろしくお願いします……」

 ぼそぼそと自己紹介を終えた。

 スタートダッシュで、思いきりコケるとは何とも俺らしいけども……


「はい、じゃあ真人君に質問ある人いる?」

 少し重くなった空気を変えようと千代里先生が質問を取り始めると、勢いよく葵が手を上げる。

「はーい、質問!なんで楓ちゃんはあんなに美人なのに真人は全然イケメンじゃないの?」

 今度はクラスの空気が凍り付いた。

 鬼かお前は。会って数日の人に質問すことじゃないだろ。泣くよ?てかもう帰っていい?

 そんなの、もとは赤の他人なんだから当然だろ……ってあれ?


「葵ちゃん失礼でしょ!」

 さすがに千代里先生が止めに入るが、俺は葵の質問は頭からとび、全く別の事を考えていた。

 アパートで再開して、夕食を共にして、共に登校したというのになんで気づかなかったのか。この楓の圧倒的な違和感に。

「どうかした?」

 俺の動揺を感じたのか葵が呼びかける。怪しまれないようにとりあえず回答しなければまずい。

「いや、なんでもないです。二卵性双生児だからじゃないですか?」

「ん?うーんそっかー」

 葵はなにか納得のいかない様だったがそれ以上は追及してこなかった。

「じゃ、じゃあ真人君は一番後ろの席ね。じゃあ改めて朝のホームルームを行います」

 その後のホームルームと授業は、違和感のせいで全く集中できなかった。どんなに考えても答えが見つかるわけではないのだが、どうしても頭から離れなかった。

 どうして、どうして逢坂楓は、


 容姿が死ぬ前と同じなんだ?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る