第6話 定番イベント

 駅を降り、目の前にあるショッピングモールを目指しているのだが、

「で、なんでついてくるんだ? 制服着てるんだし学校行けよ」

 なぜか葵と行動を共にしていた。

「んー? いや、買い物のついでに学校行こうかなーって」

「普通学校のついでに買い物だろ! そこまでして何買うんだよ」

「えー! 女子の買い物に興味があるのー? 気になるのはわかるけどーヒ・ミ・ツだ・・・いたいっ!」

 腹が立ったので、思わずでこピンしてしまった。

 電車内で明日から転校するという旨を話して、そのまま別れるつもりだったのだが、どうやら葵の面白いものセンサーに引っかかってしまったようだ。

 しかし相も変わらず絡みがだるいなこいつ。


「真人さん、初対面なのに失礼ですよ」

 楓に注意を受けた俺は、同じく電車内で、思わず葵と名前を出しそうになり、楓に止められていた。

 あくまでも俺は小尾真人ではなく、逢坂真人だ。生き返ったということは家族であろうが友達であろうが絶対に知られてはいけない。

 そのため、他人のように接するのが正解なのだが、どうにもいつもと同じように接してしまう。

「そうだよ!女の子にはボレー打つ時みたいに優しくしないと」

「例えが体育会系過ぎてわからない……」

 真人という名前は前と同じだが、別の体で生き返るとは葵でも思わないか。


 ショッピングモールに着いたので、葵とは別れて遅めの昼食をとり、買い物をした。

 気になっていた茶碗や箸などは何の問題もなく二つずつ購入。やはり、気にしすぎだったようだ。

 順調に買い物を済ましていたのだが……


「いや、マジ美人すぎね? これは声かけるしかないっショッ」

「それな! お茶しようぜー」

 楓がチャラついた金髪とピアスの不良二人に絡まれてしまった。

 どちらも制服は着ているがかなり着崩しており、鍛えているのか体は筋肉質だ。

 まあ、楓は誰もが認めるような美人なので、しょうがないと言えばしょうがないのだが、すぐ隣に俺がいるのに声をかけるか? これでは、途中で合流して「なんだよ、男連れかよ」作戦が実行に移せない。


「すみません、今忙しいので……真人さんもいますし」

「いやいや、そんな冴えない男よりも俺らの方が断然いいっショッ、これはもう一緒にお茶する以外の選択肢ないっショッ」

「それな!」

 冴えない男の所は見逃してやるが、その「ショッ」てなんだよ、語尾には「ショッ」ってつけましょうなんて教育受けたことないぞ。あとピアスのお前は「それな」大好きか。便利だけど、使いすぎると話聞いてないやつだと思われるぞ。

 どうしたものかと考えていると丁度いいところに奴がきた。


「お兄さんたち何やってるんですかー? 私も混ぜてくださいよー」

 葵様の登場である。ちなみに口調は超絶ギャル風。

 一瞬こちらを見て、声は出さずに口だけ動かした。

 察するに「任せて!」といったところか。


「筋肉すごーい! 腹筋触ってみてもいいですかー?」

 と言いながらつんつんと鍛えているであろう胸筋あたりを触り始める。

 普通の男ならあれで惚れてる。

 ショートヘアで明るい印象、初対面でも人懐っこく話かけ、笑顔も素敵。加えてボディタッチまでされたら落ちない男はまずいない。特に陰キャは要注意だ。

 案の定金髪は気を良くして、着ていたシャツを捲りあげる。

「いいぜ! どんどん触っちゃってくれ!」

「わー! それじゃあ遠慮なく……」

 次の瞬間、鈍い音と共に金髪は腹を押さえながら崩れ落ちた。


 腹パンである。

 女子高生が男子高校生の腹に思い切りパンチ。あんなに素敵な笑顔で。

「もー、ちゃんと力んでないとそうなりますよ-ー」

 口調こそギャルのままだが、目が完全に雑魚を虐めて楽しんでいる魔王である。

「何すんだこの野郎!」

 隣にいたピアスも咄嗟の事態に反応が遅れたが、仲間の敵と言わんばかりに葵に殴りかかろうとする。

 ヘイトが葵に向いたので、後ろからさりげく近づき、殴ろうとしていた腕の手首をつかみ躊躇なく捻る。

「イタタタタタ!」

 護身術でも何でもなく、本当に手首を捻っているだけなのだが地味にこれが痛い。

 完全な不意打ちにされるがままのピアスだったが強引に腕を振り払い、思いっきり俺を睨み付ける。

 やめて! 怖いから! お願いだからそんなに睨まないで!

 ターゲットを俺に変え、ジリジリとにじり寄ってくるピアス。しかし、葵に背を向けるのは失策だ。

 背後を取った葵は、ピアスの両肩に手を置き、引き寄せながら背骨に膝蹴りを食らわす。

「うおっ⁉ 」

 ピアスは倒れ、葵は満足げに手をパンパンと払っていた。


「ふー、終わった終わったー。楓、大丈夫だった?」

「だ、大丈夫です。あ、ありがとうございます……」

 流石の楓も若干引いてる。だって腹パンだもん。腹パン。女子高生がチョイスする技じゃない。

 しかし葵の身体能力はやはり別格である。球技や陸上競技、格闘技に至るまで体を動かすものであればなんでもでき、不良を前にしても怯まない気の強さや、自信も持ち合わせている。

 人を小馬鹿にしてからかう悪魔のような性格の悪さを直せば完璧なのだが、まあ葵はこれでいいか。今回ばかりは感謝しかないし。


 俺も礼をしないといけないと思い、声をかけようとするが、その前に楓がくるっとこちらを向き少し嬉しそうに頭を下げる。

「あと、真人さんも……ありがとうございました」

「いやいや、真人のあれは男としての面目保つためにやっただけでしょ。私が来るまで棒立ちだったし」

「馬鹿野郎。めちゃくちゃ怖かったんだぞ。楓置き去りにして逃げるまであったわ」

 葵の指摘が図星だったので、体面が悪くなり視線をそらすと、周りに人が集まっていた。

 平日の真昼間に高校生がこんなことしてたらそりゃ目立つか。

「とりあえず帰るぞ。転校前に問題を起こしたなんて連絡が高校にいくとまずい」

「はーい」

「わかりました」

 二人の了承も得たので、依然倒れている不良はそのままに、三人は逃げるようにその場を後にした。

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