第5話 生前の友人1
スマホの地図アプリで現在地を調べる。
このアパートは学校とその最寄駅の中間付近にあり、真上から線で結べば二等辺三角形のような位置関係だ。それぞれ徒歩で約十五分ってとこだ。
近くにコンビニがあるが……やっぱりそれ以外何も無いな。最寄りのスーパーまで徒歩で片道一時間だよ。田舎は車がないと本当に不便。自転車も坂道が多すぎて使いづらいし、バスや電車も本数が少なく高くつく。
県庁である甲府までは行かなくても、色々買い足すにはもう少し店のある場所に行った方が良いと判断し、丁度いい電車を見つける。リビングに戻ると、楓も準備が終わったみたいなので、戸締りをして駅に向かう。
時刻は昼を回り、平日なので駅のホームはおろか、電車の中にも人はほとんどいない。
「誰もいないですね」
こっちとしては時間も時間なので当たり前の事なのだが、楓は少し意外そうだ。
「田舎だからなー、東京だと昼でも満席なの?」
質問してみたのだが無視。女子からの無視はコミュ障を助長します……
楓は車窓を見ながら心ここにあらずという感じなので、アパートを出るときに渡されたメモを見る。
生活用品、食材、勉強道具など、買わなければいけない物が細かく書かれており、品目とその横にはそれぞれ個数が書かれている。
あの時間でよくここまで書けるものだと感心するが、すこし違和感を感じた。
品名の横にはそれそれ買う個数が、たとえ書かなくてもわかるだろうというものでも『一つ』と書かれているのだが、茶碗や、箸のほか俺と楓で一つずつ必要なものには個数が書かれていなかった。余計な心配かもしれないが……
楓の問題はデリケートなのだ。
あの時、楓は間違いなく自殺しようとしていた。俺と話して少しは決意が揺らいだようにも見えたが、そんな簡単に済むはずがない。俺がいなくなった後で身を投げる姿を想像するのは容易い。
しかし、楓は結局生き返ってしまった。
自殺志願者が死んで元いた世界に生き返った時、どんな心境なのだろうか。
少なくとも、車窓を見やる楓の表情からは読み取ることができないし、直接聞くにも、地雷踏みそうで怖い。
どうしたらよいものかと腕を組みながら考えていると、前方に人の気配がした。
「男女二人で学校サボるとか青春だね~。なんか面白そう!」
聞いた瞬間に誰であるのかわかった。
その声はとても明るく、好奇心が溢れ出ていたが、意地悪で人を小馬鹿にしているような雰囲気がある。
自分が面白いと思ったことには遠慮なく手を出し、人を振り回す。
自己中心的で大胆不敵。人の不幸を笑って笑って、笑い飛ばしてしまう。
勉強はからっきしだが嫌に賢い彼女は、学校に通っていた約六か月間、最も多く会話をし、俺が信用していた数少ない存在だった。
そんな彼女、浅川葵(あさかわ あおい)は含みのある笑顔を向けて目の前に立っていた。
「もしかして駆け落ちかとか――」
葵の質問はとめどなく続いた。
普通の人なら躊躇うような質問も容赦なくぶつけてくる。
初対面であろうが決して壁を作らず、例え相手が壁を作ろうとも遠慮なく壊していく強引さは、彼女の大きな武器の一つだ。
いつの間にか葵のペースに乗せられていた俺は、無意識のうちに生前と同じように振る舞い、半年前と変わらない葵の様子に心のどこかで安堵していた。
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