私は必ず彼を手に入れる。(アズベラ視点)
我が国では王位継承権は女性にも公平に与えられるの。
そして、私はアズベラ・ファーエンは、王の最初の子。当然第一後継者となったわ。
お母様が田舎の貴族だったため、大臣たちにせっつかれて、お父様は、仕方なく側室を得た。
それが、リリアナ。
お父様も魔が差したみたいで、私に弟ができた。
リリアナそっくりの金髪の子で、綺麗な子だったけど、私ははっきり言って嫌いだった。
その点、次にできた弟は違った。
これもお父様。
街の娘に手を出されたらしく、その憐れな女性と弟が城に上がったのは、彼が十歳の時、私が十六歳になった年だったわ。
その子、本当に可愛くて女の子みたいだったから、すぐ好きになっちゃった。
リリアナと馬鹿な弟が、その可愛い弟アンライゼをいじめるんだけど、これがまた、この子、なかなかやる子だった。
可憐さを利用して、リリアナに一泡吹かせてやったり、本当面白い子だった。
だから、私のお気に入りのナイゼルに彼の警備をお願いしたの。
ナイゼルは、わずか二十四歳で王宮騎士団の第四部隊隊長になった逸材。
最初に彼を見たのはいつだったかしら。
燃えるような赤い髪に反して少し冷めた瞳が印象的な人だった。
誰もが私に媚を売る中、彼だけが違った。
話しかけると少し驚いたような顔をするのが、楽しくて思わず話しかけちゃうのよね。
別に意地悪しているわけじゃないわ。
彼だったら、同僚からやっかみとかあっても気にしなさそうだし、マーカスの甥っ子だから、まあ、その辺は大丈夫だと思っているし。
そんな彼だけど、すでに好きな人がいるの。
それがなんとマーカスの娘のファリエス。
会ったことはないけれど、とても面白い人だと聞いたことがある。
なんでもあの、カサンドラ騎士団の団長をしているとか。
きっと、凛々しい感じなのかなと勝手に思っている。
好きな人の好きな人だから、ちょっと調べてもらったら、それがびっくり。
ナイゼルの女性版って感じの人だった。
もしかして、自己陶酔ぎみな人なのかなあとちょっと心配している。
でもそれでもナイゼルはかっこいいし、面白いので気持ちは変らないけど。
アンライゼの剣の指南役と警備をナイゼルに任せておかげで、かなり距離が近くなったような気がしたわ。
だから私は毎日楽しく過ごしていた。
時折、リリアナの腰巾着の奴らが、隣国やそのまた隣国の王子との結婚話を持ってくるのがうるさかったけど。
リリアナは、私に構ってるばかりではなく、アンライゼのお母上にも色々していたみたい。病気に なっちゃって、アンライゼが笑わなくなった。
そして一年もしないうちに亡くなってしまった。
リリアナの奴をとっちめて、城から追い出したかったわ。でも実際、彼女は直に手を下したわけではなくて、なんというか、アンライゼのお母様が精神を病んでしまったみたい。
これは、お父様のせいだわ。
城にあげなければこんなことに。
でも、そうなるとアンライゼに出会えなかったけれども。
アンライゼはその日から変わってしまった。生きる屍みたいになってしまった。
声をかけるけど、虚ろで、彼を見ていると胸が苦しかった。
だから、少しでも気分転換になればと、船での旅行には同意したわ。リリアナと馬鹿な弟も行くって事は気になったけど、まさかって思ったの。
でもまさかは起きてしまった。アンライゼは船から落ちて亡くなってしまった。リリアナのせいだと思ったけど、証拠もない上に彼女がアンライゼを救おうと海に飛び込んでいるものだから、事故死という扱いになった。
アンライゼがいなくなった城は本当、つまらなかった。
何か急に色がなくなったような、そんな感じ。しかもナイゼルが騎士団内で暴力沙汰を起こして、左遷されてしまったし。
でも、ナイゼルは半年くらいしてすぐに王宮騎士団に戻ってきた。さすが、マーカスの力だと思ったけど、役職からははずされたままだった。
だから、なかなか彼の姿を見るのは大変だった。
だって、門番なんかしているのよ。あのナイゼルが!
それになんかふさぎこんでいるみたいだったから、本人に聞きたかったけど、聞けるわけがないから、また調べちゃった。そしたら、ファリエスが結婚する話を聞いたわ。
ごめんなさい。
正直私は嬉しかった。
だから、ファリエスの結婚式の日に思わず葡萄酒をナイゼルに渡しちゃった。
凄く表情が硬かったけど、これを飲んで失恋の痛みを忘れてほしいと思ったの。
それから、しばらくして面白いことが起きたわ。
アンライゼが戻ってきたの。
やっぱりあれは事故じゃなくて、リリアナが仕掛けたものだった。彼が生きていると知って刺客を送ったみたい。
本当、最低な女だわ。
さすがに今度ばかりはお父様も男を見せたわ。
リリアナに死を給わせた。
馬鹿弟は、城から遠く離れたところで一生幽閉になった。
当然よね。
彼の義務は、母親の馬鹿げた所業をやめさせることだったのに。
殺されなかっただけ、ましだと思ってほしいわ。
血がつながっていると思うと虫唾が走るのよね。
それでアンライゼの話に戻るけど、彼。
城を出るってうるさいのよ。
好きな人ができたって。
どうにか理由をつけてラスタに視察で行って戻ってきた彼は、私に相談を持ち掛けてきた。
まあ、私としてはナイゼルと結婚できるから、勿論協力したわ。でもいくら好きな人にナイゼルが友達をけしかけたからって言って、あの仕返しはなかったわね。
ナイゼルと、えっと黄昏の黒豹だったかしら。
あの噂はいただけなかったわ。
一部の人には喜ばれていたみたいだけど。
次の噂はアンライゼ。これはアンライゼのせいじゃなくて、なんか、二人が一緒に出かけたりしているのを民衆が見かけて、流行らせた話みたいなのよね。こちらは本も発行されてかなり本格的な噂になっていたわ。
私も思わず本を購入してしまったくらい、いい出来だった。
相手がアンライゼなのは悔しかったけど。
そうそう、私とナイゼルの話ね。
私はナイゼルのことを十六歳のことから思い続けている。
かれこれ七年にもなるわ。
彼は絶対に私の気持ちに気がついているはずなのに、全然振り向いてくれないから、強引に迫ることにしたの。
私って、お母様に似て美人だし、結構いい体つきをしてると思うのよ。
殿方が私の胸を気にとられることを知ってるし、まあ、ナイゼルはまったく気にしてくれなかったけど。
だから、所謂色仕掛け作戦に出たわ。
もちろん、他の人のいないところでね。
アンライゼの協力を得てからだけど。
最初は恥ずかしかったけど、本当に効果がなくて、最後は諦めそうになっていた。
そしたら、なんか、ナイゼルが怒ちゃったのよね。
というか最初から怒っていたみたい。
まあ、薄いドレスで彼に抱きついたり、腕に胸を押し付けたり、色々やり過ぎだったのは反省しているけど。
だって、彼は本当に私に興味がなさそうだったもの。
だからね。
「体から入ってもいいんですか?私の心はいらない?だったら、私はあなたを抱こう。だけど、心はやらない。それでもいい?」
初めて彼の怒った声を聞いて、その顔を見て、私は震えてしまった。
涙まで出てきて、情けない気持ちになっていたら、突然抱きしめられた。
「本当、あなたは色々突拍子もなくて困ってしまう。でもあなたはとても魅力的だ。好きになってもいいですか」
ナイゼルに耳元でそう囁かれて、私は気絶するかと思ったわ。
勿論、私の答えは決まっていて、頷くと口付けをされて、驚くしかなかった。
「誘ったのはあなたです。覚悟はいいですか?」
彼の茶色の瞳が獰猛な光を帯びていて、覚悟を決めていた私だって、頷けなかった。だって、私はまだ生娘で知識としてしか知らなかったし、こういうのはやっぱり嫌だった。
だってナイゼルは私のことを好きじゃないのよ。まだということだけど。
「嘘ですよ。でももう二度とこんなことしないでくださいね」
ナイゼルはあっさり引いてくれて、なんだか寂しかった。
それから彼は変わったと思う。なんて言うか凄く見つめられる事が多くなった。
アンライゼに相談したら、まずい事になったわ。当て馬になってくれた騎士は軽く怪我をしたみたい。ごめんなさい。
ナイゼルがあんな風に嫉妬してくれてもう嬉しくたまらなかった。だから、許したのよね。
お陰で結婚の話が早く進んだのだけど。
そういうわけで私は無事ナイゼルと結婚が出来、二人の子にも恵まれた。念願の女王にもなれたし。
アンライゼの口車に乗せられた気もするけど、それはいいわ。
だって私は今とても幸せだから。
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