今度こそ失敗したくない。(ユアン視点)
「何事だ?」
派手な色の制服の中に、白銀が見えた。
人ごみを掻き分けていくと、それは、男装した美しい女性と、それに難癖をつける腐れ騎士団だった。
「警備兵のお出ましか?平民ごときが、俺たちの邪魔をするんじゃない」
はいはい。貴族様ね。
まあ、マンダイ騎士団に入るくらいだからたいしたことはないと思うが。
「俺は、警備兵団副団長ユアン・テランスだ。どうみても、お前、いや、あなた方のほうが悪いようにしか見えないんだが、どういうことか説明していただけるかな」
俺の問いに答えたのは白銀の男装麗人だった。
「私はカサンドラ騎士団、第一隊長のジュネ・ネスマンだ。この少女を叩こうとしていた男がいたので注意したのだ」
「叩く?あなた方は騎士であるのに、少女を叩こうとしたのか?」
「違う。その女は嘘つきだ。俺たちはただ、質問をしていただけだ」
「そうか。質問か。じゃあ、私もあなた方に質問してもいいな!」
ジュネと名乗った女性は、やつらの一人に近づき、その肩を突き飛ばした。
力が強いのか、または、やつが弱いのか。
奴は簡単によろめき、倒れた。
「何するんだ!」
隣にいた男が女性――ジュネに掴み掛かろうしたが、彼女は華麗に避けると、足払いをする。すると、まるで喜劇のように男が転ぶ。
集まっていた観衆は大笑いし、残っていた男が怒りあらわに彼女に向かって駆け出す。
「危ない!」
けれども予測していたらしく、彼女はすらりとかわす。
これまた見事に男は壁に激闘して、笑いが起きる。
「……大丈夫か?」
おかしな問いだと思いながら、俺は彼女に尋ねる。
「大丈夫だ。悪いが、後始末を頼めるか?」
それが、彼女との最初の出会いだった。
彼女ははっきりいって、問題に巻き込まれることが多い。いや、問題を起こしているのか。
おかげで、数ヶ月に一度は彼女を会うことができた。
会うたびに、彼女から目が離せなくなり、好きになっていったと思う。恥ずかしながら、彼女の肖像画をこっそり購入してしまったくらいだ。
しかし団長にまでなってしまった彼女はますます近づくのが難くなり、時間だけが過ぎて行った。そんなおり、ナイゼルから頼みごとをされた。
――カランドラ騎士団の団長のジュネ・ネスマンと会うことになったが、私がいけない代わりに、君が行って、エリーの入団を阻止してくれ――
大きな封筒には、これまでのジュネとのやり取り、その手紙が入っており、俺は初めて見る彼女の字の美しさに震えた。
彼女と会う日、俺は緊張しながら狐亭に行った。隣の梟の店に、彼女がいるのがわかり、いつ来るのか楽しみだった。
だが、彼女はいつまでたっても入ってくることはなく、俺は梟の店まで行くにした。
折角の機会を逃したくなかったので、手を掴んで痕まで作ってしまい、申し訳ないことをした。しかし、ナイゼルの野郎!
絶対に、この機会を利用して、俺とジュネを会わせるつもりだったんだ。余計なことをしやがって、最後は笑って帰ってくれたが、いい印象を残せたかわからないじゃないか。
王都まで馬でかけて、奴に文句を言いたいくらいだったが、仕事に穴を開けるわけにも行かず、怒りの手紙を奴に送った。
それから奴が休暇で里帰りすることになり、ジュネへの詫びをかねてお茶会を開くことになった。
屋敷に行ったらファリエス様がいて、かなり驚いた。もう人妻なのに、奴は大丈夫なのかとちらちら見ていたら、嫌そうな顔をされた。その仕返しだったのか、奴の言葉を信じて馬車から降りようとするジュネに手を差し出したら、物凄く苦い顔をしていた。
それからも散々で、しかもアンという男の名前まで聞いてしまった。
アンというには街で彼女と親しげにしていた女性、だった。まさか男だと思わず、はっきり言ってショックだった。
しかも彼は実は二年前に事故死したはずの第二王子アンライゼ殿下で、これがまた、俺をイライラさせた。
俺に見せ付ける様に、ジュネに触りまくっていた。
ああ、いなくなってくれたらいいのにとむかついていたら、毒殺されそうになったと聞き、反省した。ナイゼルにそれを言っていたら、俺は今頃奴に殺されていたかもしれない。
奴は二年前、アンライゼ殿下の警備担当だったらしい。彼が休暇をとっている時に、事故が起きた為、直接の責任は問われないはずだった。しかし、彼はなぜか王宮騎士団で問題を起こして、しばらく国境警備に飛ばされていた。
殿下への罪悪感なのか、彼は殿下に対して思い入れが強い。
そんな中、ジュネがエリーと一緒に誘拐されるというとんでもない事件が起きた。小屋で発見した時、ジュネは傷を負っていて、背中が本当に痛々しかった。
怪我を負った彼女を見て、殿下は怒りで人が違うようになっていた。まあ、あんな風な苛烈な方だとは思わなかった。しかも案外強かった。
血に塗れるのも構わず彼は先頭に立って、イッサルの傭兵団討伐の指揮を執った。俺は、ナイゼルと共に、殿下を守って戦い、決着は半日もせずついた。
生き残った奴から無理やり吐かせ、黒幕が側室であることがわかった。王には二人の側室がいた。一人は、殿下の母上様ですでに他界されている。そう、もう一人の側室のリリアナ様が、王が第一王子よりもアンライゼ殿下のことを気にかけるのが許せず、二年前に事故に見せかけて殺そうとしたのだ。
そして生きていると知って、また命を狙った。そういう企みだったらしい。
殿下はジュネが起きるまでラスタに留まりたかったらしいが、王から命令で、即急に戻らざる得なくなった。
眠るジュネを切なそうに見る殿下に、少しだったが同情した。
これで邪魔者は消えたと思ったら、彼女に振られた。
それから半年が過ぎ、なんと恋人のふりをすることになった。この機会に触ったり、口付けをしたが、結局俺は道化に過ぎなかった。
友人になることには成功したが、時間が経つごとに彼女の想いを知ってしまった。
三年過ぎたあたりから、ジュネと飲むのが急に楽しくなった。なんとうか、面白いのだ。彼女とは男と飲む感覚で話ができた。その前までは、ほろ酔い加減の彼女の色気に思わず手を出したくなったり、自制するのが大変だった。
どうしてかな、と思っていると、思い当たる節があった。
金色の髪に、茶色の瞳の妹みたいな存在のエリーと会うと、以前には感じなかった、なんというか色気を感じてしまうようなっていた。
いや、十八歳になった彼女は大人の女性なのだから、それは普通なんだが。なんというかそういうのでもない。現にナイゼル曰く、女子力が落ちているとぼやいていた。
そう彼女は騎士団に入団する前は、それこそ保護欲をそそるくらい、可愛い少女だった。今は、凛々しいというのが相応しい表現だと思う。
だけど、俺はそんなエリーを色っぽいと思うようになってしまった。反面、ジュネに対しては色気を感じなくなり、でも一緒に話すのは楽しいので、友人としては付き合いを続けていた。
四年後、協定が切れる前日。
四年は長かったなと思う反面、切れてしまうのか。俺はどうしたらいいんだろという思いが募った。
あんなに焦がれていたはずのジュネに対して、そんな気持ちがなくなっていた。
突然というか、予想通り現れた殿下に指摘され、俺は完全に自覚して、同時に焦ってしまった。
俺が好きなのはエリーだ。
すぐに、行動すべきだと思い、殿下とジュネが消えた後、告白した。母さんにも邪魔されて告白はうまくいかなかった。結果、振られはしなかったが、すぐに返事はもらえなかった。
でも、今度こそ失敗したくない。
だから、殿下を見習い、うまく立ち回ることにした。
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