第4話 図書館の悪魔
修二は学校に来ていた。とはいえ、勉強するつもりもない。彼は校内の図書館に来ていた。図書館のなかでのむコーヒーは格別においしい。もちろん飲食禁止だ。現実とちがいデータの世界なのでルールは絶対だ。飲食オブジェクトははじかれて館内にもちこめない。
しかし、構築者にそんなことは関係ない。禁止事項を書き替えてしまえばいいだけだ。
「…・…にがい」
修二はあまとうだった。その場で砂糖とミルクを作ればいいのだが、修二はコーヒーを机の上に置く。
構築者にはおかしてはいけないルールが3つある。
「食べ物をつくってはいけない」
ひとつ目のルールだ。現実の感覚をほとんど再現している子の世界でも、自分で作ったものを食べれば、それがまがいものだと感じる。最初のうちはちょっとした違和感でもいづれは精神をやられてしまうのだ。
構築者というのは異常なほどに人間性にこだわる生き物だ。そうしないとすぐに頭をやられてしまうからなのだが、一般人からみるとやはりへんてこにうつる。エレベータをつかわずにかならず階段をつかう(テレポートすれば一瞬だが)とか、夕飯は何が起きても家族といっしょに食べる(責任者が家族と夕飯をたべていたため仮想世界のすべての時計が2時間ほどとまっていたこともある)とかそういうのだ。なんでもできるからこそルールで自分を縛る。
要はめんどうな人種だ。
’構築者は孤高である’
誰かがいった言葉だが、深い意味はこめられていない。構築者は一様に友達がすくない。それだけの話だ。
例にもれなく修二も友達なんて一人もいないが、 別にそのことを気にしたことは一度もない。だから目の前の彼女がしていることがよくわからなかった。
「司書さんは、休みの日は何をしているんですか?」
図書館にいるスーパーAIである司書さんに親しげに話しかける女子学生だ。かれこれ一時間ちかく話している。
「友達いないんだろうな……」
自分のことは棚にあげてそうつぶやく修二。みるからに大人しそうだ。前髪で顔のほとんどは隠れているのもあって暗そうな印象を受ける。
「何かお探しですか?」
「ひっ!?」
修二は横から話しかけれた。とうぜん話しかけて来たのは司書さんだ。彼の視線の先で女子学生と話しているのも司書さんだし、いま彼のとなりにいるのもまぎれもなく司書さんだ。外見はもちろん声も同じなのでなかなかに不気味だ。
「いや、とくに探しているわけでは……」
「あっ、館内では飲食禁止ですよ!本にこぼしちゃったらどうするんですか」
ぷんぷんと怒る司書さん。とてもかわいい。仮想世界での図書館といったら司書さんをぬきにかたることは出来ない。すべての来館者が彼女にあうために来ているといっても過言ではないからだ。
司書さんのAIには仮想世界上のすべての電子書籍にアクセスする権利がある。つまり彼女に聞けばどんな本でも一瞬で見つけて閲覧させてもらえるというわけだ。
「ああ、そうだ。探している本があったんだった。たしか、Blind Blueっていう名前の本だったような気が……」
「むむ、データにありませんね……。あ、これではありませんか!イルカとトレーナーのお話しですよね。違うタイトルですけど、内容は同じはずです!」
質問をしてから2秒半。司書さんは手の中に本を呼び出す。それを受け取る修二。司書さんはあいまいな情報からでもただしい本を見つけだすというすさまじいハイスペックAIなのだ。
「ありがとう。司書さん」
「はい!お役にたてて良かったです!」
通常作業に戻ろうとした司書さんだったが振り返って修二に言う。
「じゃなくて!館内では飲食禁止です!」
「いやいや、そんなルールどこにもないはずだぜ」
「またそうやってうそをつくんですか、修二くんは……あれ、ほんとにないですね。私の勘違いだったみたいです」
司書さんは図書館のルールを閲覧してそこに何も書かれていないことに気づく。
「さ、俺に誤ってくれ」
「も、もうしわけありませんでした。」
困惑しながらも謝る司書さん。司書さんはまったくわるくない。ぜんぶルールをねじ曲げている修二がわるいのだが、それを知る由もない。
「そんなことよりあそこでしゃべっている彼女は……」
「えー修二くん気になるんですか?一目ぼれってやつですか?」
司書さんの顔がうざい。たまにほんとうにAIなのか疑いたくなる。いつのまにか修二のとなりのいすに座っている。
「ちがうよ。さっきからずっとあの子と話してるみたいだから気になって」
「ふふ」
にやにやする司書さん。
「なんだよ」
「かっこつけちゃってかわいい。素直になればいいのに」
司書さんはときどきお姉さんぶる。しかも勝手に修二のコーヒーを手に取って飲んでる。
「にがっ!」
司書さんも甘党らしい。
(いや、仕事しろよ)
すると修二の視線にきづいたのか司書さんはいう。
「適度な息抜きが大事なんです」
得意げにいうがさぼっているだけである。午後のひとときをこうして彼女とさぼるのもわるくないかなと修二は思った。
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