潮風凛さん、『緋姫 〜天羽月舟伝〜』二次創作(許可済)

 いやぁ、大好きな作品なんですよ……緋姫(唐突)。このなんというか……独特の雰囲気が、心に触れると言いますか。そんなもの僕に再現できるはずがないので、割り切って、僕の文体で表現しました。また、苦労のわりに短い文章になってしまいスミマセン←

 他の二次創作と同じく、原作読了推奨です。では、どうぞ!

※(注意、未来ifです)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ……唐衣を着た、若い女性がそこに一人、ぽつりと座っていた。いや。

 独り座っていた。


「疾風……今日もいい天気」

 空を舞うたくさんの、大小さまざまな鳥たちを眺めながら、燈は呟いた。

 白い肌に、ほのかにあかみがかったその顔は、穏やかに『緋の宮』になじんでいる。

 初代『緋姫』。疾風に昔名付けられた名は、『燈』という。

 彼女こそ最終代の、詠姫だった人で、天羽の歪んだ伝承の謎を解き、この国のために動いた人でもある。

 ここ緋の宮は、そのときの指針に応じて建てられた機関のための建物だ。

「さて、……辰彦様に会わないと……」

 あれから一〇年が経った。今になってもやることは山ほどある。

 昨年の飢饉に対する策の方針を東龍王、西虎王双方で話し合ったが、どうもうまくいかない。原因は様々だが、とにかく緋姫にも同席してもらいたいということだった。


 疾風は、二年前に死んでしまった。


『でも、今はこれで十分だよ。俺は燈の傍にいられたら、それだけで満足だからさ』


 この国の最南端にあった内乱に対して仲裁のため、遠征してそれきりになった。


「……今日でちょうど二年か……」

 燈は、唐衣を上の一枚だけ脱ぎ。ゆっくりと階段を上っていく。

「疾風は、……そういえば『鳥』だったんだよね……」

 忘れることのない輪廻のことを、燈は反芻する。

「また、会えるのかな?」

 梅の花の香りが、庭園を満たす。池にわたった桟橋を、燈は踏みしめるようにして前に進んでいく。

 自分は、この国を良くしていきたい。その一心で。天羽の行く末を見、感じ、少しでもいいものにするために。


 疾風は、自分の中にいる。

 そして、またどこかで会える。

 燈には不思議とそんな気がしてならなかった。


「緋姫様」

 世話役の一人が、燈に声をかける。

「緋姫様!」

「は……?」

 ぼーっと立っていた燈は、ゆっくりと歩みを再開する。

「ご、ごめんなさいッ」

「いえ、その……むしろこちらの方です。今日は、あの方の命日ですから……ええ」

「……『大丈夫』。疾風ならそう言ってくれるもの」

 燈は、柔和な笑みを浮かべて、少し離れた宮を目指す。


「もちろん、疾風がいなくて大丈夫なわけない。でも、疾風なら絶対、『大丈夫』って、声をかけてくれるんだ……!」

「……そうですね!」

 従者も、ふすまを開けながら、燈の支度を手伝う。

「じゃあ、今日の予定は?」

「はい。まだたくさんありますよ……」

 人一人がいなくなる重みは、計り知れない。それでも回っていく。回り進んでいく。

 そしていつの日かこれも伝えられるのだ。

 『緋姫と、その傍にいた黒い衣の少年のこと』も。

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