青野さん、『魔導少女が愛する日常』二次創作(許可済)。

 青野さんが書く、魔導少女が愛する日常の二次創作です。といっても、作中での現時点でのメインキャラではなく、『ネリスたん』こと『ネリス・フォーレム』が、オリジナル唖喰と戦闘する作品になっております。


 原作↓既読推奨。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885624431


 それではどうぞ!


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 魔導少女、ネリス・フォーレムはアメリカ合衆国支部に属している。

 金髪を輝かせ、黄金色の瞳を獰猛に乱反射させながら敵を瞬時に一掃するその姿は、最高序列二位の『破邪の戦乙女』の名をそのままにしている。


 これは、彼女がパトロール中に遭遇した唖喰との戦闘の一部始終である。


「はぁー……」

 心の中にイライラが溜まったネリスは、少し棘のあるため息をついた。


 本来、パトロールは彼女がやる仕事ではない。彼女の本分は、『戦闘Battle』一つそのものであり、そのような『殺し』以外には全く興味を示さないからだ。彼女の周りにいる、アルベールやベルアールが、敵やポータルを発見した際に、彼女は飛びつくように出動する。

 だから、ポータルを破壊した後でもないこのような夜中に、彼女が一人でパトロールをするなど本来あり得ない。しかも、ここは都市部から少し離れた田舎だ。


 これには訳があった。アルベールとベルアールが本部を離れて日本に派遣されてから一週間。ポータルが立て続けに日本で開けられているのだ。

 ポータルは、この世界中で原則として一度に一か所でしか開かない。そういうわけで、アメリカでの唖喰の出現率は極端に減った。なので、ネリスの鬱憤は最大限に詰まっていた。しかし、仕事はない。さすがのネリスもしびれを切らして、じっとしているよりはましだと、自ら散歩代わりのパトロールをしていたのだ。


「なんでッ、チッ……。今すぐにでも……ッ、『ぶち殺したい』」

 彼女が狂った七歳以降。暴力の衝動に任せて彼女は戦闘を繰り返してきた。その過程で磨かれた戦闘スキルは、もはや一種の芸術に等しい。ネリスが使う固有術式、『ヴァルハラ・アームズ』も、その極端さを表している。

「イライラする。……むしゃくしゃして殺したくて戦いたくて血を湧き立たせたくてたまらないッ……!」

 どかどかと足元の草を踏みにじるようにして、歩くネリス。しかし。


「……?」

 目の前に、妙な気配を感じる。そう。

 『目の前に』。

 目の前に気配を感じるのだ。しかし、『何も見えない』『音もしない』。

 しかし、気配を感じる。

 ネリスは、感じていた。光、音でもなく、周りの空気の流れ、地面のわずかな振動を無意識に。それは、彼女が戦闘において身につけた、ある種の天性の才能だったのかもしれない。少なくとも。

 『他の魔導士はこの時点で無事では済まなかっただろう』。

「そういえば」

 最近の唖喰の報告例の研究で、聞いたことがある。

 『見ることも感じることも出来ないが、音もたてずにひっそりと近寄り、切り刻んでしまう唖喰が新たに確認されたと』。


 カタカタ。


 初めて遭遇した魔導士たちは、一〇人いたにもかかわらず。


 フォンフォンフォンフォンフォン。


 『一人ずつ順番に消えていき』。


 ワンワンワンワンワ。


 最後の一人が本部に連絡すると同時に。


 クスクスクスクス。


 『全滅した』。



「……来るッ!」

 ネリスは、咄嗟にヴァルハラ・アームズを起動し、ハルバード(槍の先端に斧が付いたもの)をはじめとした武器を降らせた。


 その新種の唖喰の名は。


「っピーーーーーーー!」

 

 アンブラクリーパー這いずりまわる影



 戦車の砲台のような部分に、ヒトデのような脚がたくさん生えているその形状は、まさに地面を這っているようだ。さらに、砲台の部分から何本か、イカの触腕のような形状のアームが生えており、そこに切れ味が良さそうな金属上の何かが付いていた。今までの唖喰は、何かしらの生き物の様だったが、この唖喰は、さながら『機械』のようだ。もちろん、色は白をベースに赤いラインが入ったものである。


 アンブラクリーパーは、降ってきた武器に驚いたのか、姿を見せたあとに、一方的に後ずさる。


「気持ち悪いけど……区分はたしか『上位』」

 ネリスはそう呟くと。

 口をぱっくりと三日月形に割った。

「ヒヒ……はははははははあッ! 面白そうじゃんッ!」

 ハルバードを片手に構え、身体強化術式を発動させたネリスは、異常なスピードでアンブラクリーパーに向かう。

「ピピピピピピピピ!」

 電子音のような音を発しながら、アンブラクリーパーは、ネリスとは真反対の方向に走る。しかし、ネリスの方が早い。

(変ね? ほとんどの唖喰は、こっちを捕食しようと狡猾に動いてくるのに、こいつは見つかったらただ逃げるだけ……。もしかして、『忍び寄る』しか能がないわけ!?)

 ネリスにまた、いら立ちが戻る。

(なんなの!? せっかくの上位唖喰で、ちょっとは骨があるかと思ったら『忍び寄るだけ』ってッ!? つまらないつまらないつまらない殺してやる殺してやる殺してやる)

 しかも、砲台の向きからするに、この唖喰は完全に『ネリスに対して背を向けて』走っている。大きさは二・五メートルの高さがあるものの、完全に逃げ腰だ。

「ほーらッ! 追いついた……ッ!?」

 ネリスは気付いた。

 アンブラクリーパーの砲台が、一八〇度回転して、ネリスの方を向いたのだ。一瞬のことだった。

「ッ!」

 すぐさま術式で壁を作るが。

 

 バアアアアアアアアアアアアアア!


 強烈な光線が砲台から放たれる。そしてそれは着実に壁を削っていた。普通ならここで魔力を壁に追加して、防御を加速させるだろう。しかし、ネリスは違った。

「甘い。それで騙したつもり?」

「ピ」

 ネリスは、まだ片手に持っていたハルバードを、砲台の部分にめがけてやり投げの要領で放った。ネリスのしなった体から、一本の槍が砲台に向かう。

「ギュウウうううう!」

 アンブラクリーパーは、すぐさま単発的な光線を出して、ハルバードを迎撃した。

「へぇ……なかなかやるじゃん。あのヘボなカオスイーターよりはマシか」

「キュイイイイイイ!」

 またも奇怪な音をあげながら、後ずさりするアンブラクリーパー。

 そして。

「……消えた」

 まるでSFにでてくる光学迷彩かのように景色に溶け込む。途端に足音もしなくなり、鳴き声も聞こえなくなった。

(おそらく、上位と言ってももっぱら『忍び寄る』ことと『咄嗟のカウンター』にしか能がないみたいね)

 さらに、あの形状から、ある程度の火力を出すときには砲台の光線。近接格闘ではあの触腕を使うということもわかる。

「こちとら近接格闘が基本でね……」

 ネリスは、すぐさま両手剣を地面から抜き取る。

「……」

 そして、ネリスは目を閉じた。

 呼吸を整える。

(これが、……日本にあった『MUGANOKYOCHI無我の境地』ってやつね)

 目に見えないのならば、目を開けていても感じ取る邪魔になる。

 ネリスは、自分自身の卓越した戦闘センスにすべてを預ける。

(殺したい殺したい戦いたい戦いたい)

 その思いと同時に両手剣を一閃。

「そこだあああああああああッ!」

 バキッ。

「ッ!?」

 そこには、真っ二つになった大木が一つ。

「まさか……」

 そう。アンブラクリーパーは、『ネリスのパターンを読んでいた』。

「チィッ!」

 ネリスは、攻撃こそ防御と言わんばかりに、両手剣を振りぬく。しかし、どの一撃も空を切るばかり。

「どこにいるん……はッ!?」

 刹那、ネリスの髪の毛が一部切られる。

「へへ」

 ネリスの声の奥から笑い声が漏れた。

「ひゃひゃひゃひゃははははははははははそうだよそうこなくっちゃ! もっともっと! 楽しませて!」

 ネリスは、ヴァルハラ・アームズで、後ろから迫っていたアンブラクリーパーに武器の応酬を仕掛ける。

 ガキッ! バキッ! ゴキッ!


 アンブラクリーパーの足が、どんどんと取れていく。ネリスはほんの数ミリ単位で最小限の動きをして、砲台の単発光線と触腕の刃物を躱していく。


 そして。


 バシュッ。

 最後のアンブラクリーパーの脚がとれた。

「おめでと。ここまで楽しませてくれたのはあんたが初めてだよ」

 大剣を振り下ろすネリス。


 バルルルルルルルルルル。


「ッ! まだあるの!」

 アンブラクリーパーは、砲台部分の下から、脚ではなく『翼』を生やす。それを高速で動かしてホバリングをし始めたのだ。

「ピピピピピピピ!」

 そして、そのままネリスに向かって体当たりをする。光線も乱発していた。

「うぉりゃあああああああ!」

 ネリスは、大剣をそのまま振るい、アンブラクリーパーを撃ち抜こうとする。

 アンブラクリーパーは、そのまま上にかわし、空中を使って逃げようとした。

(下手に追いかけてもカウンターで形成は逆戻りされる)

 ネリスは、飛び上がる。

「へはははははははああああああああああははははははははは!」

 狂った笑い声をあげながら、大剣を投げつけるネリス。

「ピー!」

 アンブラクリーパーは、そのまま墜落した。

 グシャ……。


 チリになって消えた、アンブラクリーパーについての情報を持ち、ネリスは、本部へ戻る。


「……まあ、ちょっとは発散できたかね……?」

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