シャーロットちゃんの愉快な日常。
※これは読者さんご要望、『シャーロット・アストロック』のスピンオフ作品です。短いですが、どうぞ!
シャーロット・アストロック。
彼女の一日は、甘いオレンジジュースから始まる。
「ふぁぁ……」
寝ぼけた声で体をゆすり、百パーセントオーガニック果汁のオレンジジュースを、ごくごくと飲み干す。
続けざまに甘ったるいブラウニーを一口、二口。あっという間に完食する。
「うーん、今日の予定はどれかな……」
本部の壁に伝達されている掲示板を見ながら、シャーロットは首をかしげる。
この少女は一二歳である。
白髪のショートに、真っ赤な目。白いコートを羽織った彼女は、同年代からしても低い身長だ。そんな彼女がいる場所は、緋色の蠍、本部。
定期的に場所が変わるこの本部だが、彼女は毎晩ここで寝泊まりをし、仕事をし、食事をする。
五年前からそうだ。
そして、彼女がここに入り、幹部へと上り詰めることになった原因が姿を現す。
「あ、『レイ』! おっはよ!」
「……ああ、シャーロットか。今日は早いな」
ぼそぼそと口ずさみ、ぶっきらぼうにコーヒーをすする彼こそ、シャーロット・アストロックが敬愛するレイリー・ゼノフォースだ。黒いパーカーに黒いブーツ。そしてもう一人。
「はよっすッ。あー、だりぃなー。今日も『破壊』案件はなしだァ」
アイズ・シェルノック。建物の破壊などを得意とする幹部の一人だ。青く染めた髪を掻きむしりながら、部屋の掲示板を見て出ていく。
現在主に活動している幹部はこの三人。他にもたくさんの幹部がいるのだが、ほとんど実戦に赴いているため、帰ってこない。そう、実質三人は『ヒマ』なのだ。
シャーロットのスマートフォンが鳴る。
「ん? なにかな?」
可愛らしい仕草で、真っピンクのスマートフォンを取り出すと、電話に出る。
「……ボス? 仕事? えー、やだよ! 今日は休みって言ったじゃん!」
すると、レイがシャーロットから電話を取り上げる。
「貸せ。……はい。……はい、ええ。シャーロットが無礼な真似をしてすみません。……はい。緊急ですね」
レイは電話を切った。
「シャーロット。何度言ったらわかる。ボスの命令は絶対だ。考えがあって緊急の作戦を入れたんだからな」
「ぶー! せっかくケーキバイキングに行けると思ったのに!」
「仕事が終わればいつでも行ける……。さっさと行くぞ」
「ふぁーい……」
いつもの二人組が、本部を出ていった。
「るんるんるんるん……」
鼻歌を歌いながら、シャーロットは街に出る。
『その姿に気付く者はいない』。
彼女のヴィジョン能力、スイート・デザイアが認識を阻害しているのだ。
よって。
「おっじゃましまーすッ!」
立ち入り禁止区域の最下層に踏み入る彼女。
吸血鬼がよく集まる場所なのだが、すぐに彼女は見つける。
(ふふ、ターゲット発見!)
「……おい、ここでいいのか?」
「ああ、実際に蠍への攻撃はこちら側でと、指示が出てるからな」
吸血鬼の数人は、そこに集まっていた。静かに、淡白に、しかし緊張感をもって。
吸血鬼解放軍と緋色の蠍は、長年対立している。人間に対する大綱方針の違いや、そもそもの主義が合わないため、お互いを攻撃しあっているのだ。
今回もその一環だった。
しかし。
「おっすおっすう!」
少女の元気な一声が場を一変させる。
「は!?」
一人が声を上げた。吸血鬼の攻撃器官である『殻鋼』を出現させた一人は、シャーロットの方を見つめる。
「な、なんだ……吸血鬼の子供か……。嬢ちゃん。早く家に帰りな」
「それが、家がないんだよねー?」
シャーロットはにっこりと天使のような笑みを浮かべながら、解放軍の人員たちに向かって歩いていく。
「これ、読んでね」
シャーロットは、ある一枚の紙を数人の前に放り投げる。
「へ……?」
一人がそれを少しづつ読んでいく。
『今回、貴方達解放軍が我々緋色の蠍の攻撃作戦を妨害するという情報をキャッチしたため、現行犯を即座に『暗殺』させていただきます』
緋色の蠍の『暗殺書類』だった。
「ッ!」
吸血鬼の男たちが気付いた時には、ニタニタと笑う少女が間近まで迫っていた。
「お兄さんたち、……死んでね!」
サバイバルナイフを取り出したシャーロットは、一気に一人へと距離を詰める。
「こ、小娘がァ!」
一人が触手をシャーロットへと伸ばす……が。
「……消えたッ!?」
そう、シャーロットは消えた。
そして、刹那。
シュッ。
「があああああああああッ!?」
一人の背中から血が噴出する。背後に回っていたシャーロットがケラケラと笑う。
「あっはははははははは! たーのしー!」
「やれ! やるんだァ!」
一人が指揮をとって、シャーロットを攻撃し始める。しかし。
言えたことはただ一つ。
『無謀』。
「ふう……」
血まみれになったシャーロットは、遺体の回収を部下に任せて一人でくつろいでいた。最下層の空気は、肌にしみるように心地いい。
「白髪だから、血が目立つんだよねぇ」
シャーロットは、一時の興奮をそのままに、ぽつりとつぶやく。
「……おかあさんと、一緒の髪の毛……」
過去のことを引きづるのは、意味のないこと。
そうは思えなかった。
シャーロットの愉快な日常は、殺しとともにある。
生きるために殺す。
楽しむために殺す。
それらで甘みを補給する。
「さ、ケーキケーキ!」
センチメンタルな気分は一時のものでどこへやら。
シャーロットは今日も行く。
糖分を求めて!
完!
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