ぱんのみみさん、『今日、神様を殺します。』二次創作(許可済)

 いろいろとがんばりました(語彙力の低下)。ぱんのみみさんに先に謝っておきますごめんなさいではどうぞ。本編を最新話まで追っていることが、推奨です!

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 獄幻胡蝶。

 現代において、最強最悪最大の『魔女』。生粋の魔女である。

 彼女の優雅な朝は、一杯のハーブティーから始まる。

「わけねぇだろ、ゴルァッ!」

 胡蝶は、持っていたティーカップを床にたたきつける。

 パリン、と音がして破片が飛び散る。

「あ、うん。私こんなキャラじゃなかった。てか、いろいろとアバウトだから……」

 胡蝶は、出ていく支度をする。持っていくのは、簡単な魔導書。そして。

「……やっぱりこれだね……」

 今回の任務に必須である、よくわからない銃器。マスケット(長身の古典的な銃)と言ったら適切だろうか。

 このマスケットについては、学園長である、サタン・ルシル・ブラックより、神之瑪しののめ経由で預かったものだ。これについては、珍しいことに彼女にも説明が必要だった。


 話は、昨日にさかのぼる。


「サタン様ッ」

 レインボーエンジェルの透き通るような声が、サタンを眠気の中から引きずり出した。

「はッ!? ここはどこ! 俺はだ……」

「ふざけるのも大概にしてください。今寝てたでしょ」

「い、い、いや、断じてそんなことは」

「……そうですねぇ。表世界のサー〇ィーワンのおやつ。なしに」

「寝てましたァァァァァッ! すんませんでしたッ!」

 サタンが、でかい図体でジャンプ土下座をする。恐るべしアイスクリームの力。そもそもアイスクリームと言うのは、16世紀にまで歴史がさかのぼり(以下略)。

 これが校長で、人材派遣をやっているというのだから、笑い事では済まない。

「えーさて……。ちょっとやってもらいたい案件が届いたんだが、……何分特殊で」

 サタンは、ぽちっとボタンを押す。ディスプレイに浮かび上がる映像。

「ダイジェストで、映像を見てもらった方が分かりやすいかなーって」

 Sクラスの生徒一同は。じっとその映像を見つめた。

「なんだこれは……」

 神之瑪がいぶかしげな声を漏らす。

 ディスプレイに映っていたのは、流動的に動く黒光りする何かを振り回している、人型の何か。銀髪の長い髪を揺らしている。目は少しだけギラギラと光っており、危なしげな感じだ。

 そして、それが襲っているのは、一般人。殴られて意識を失った一般人は、路上に倒れ伏した。

 

 『それ』は、一般人に覆いかぶさり、首に噛みつく。


「……吸血鬼?」

 嗣音が、口を開いた。

「そうだ。まあ、ローゼン・メルカトラのときと同じ……と言いたいんだがッ」

 サタンが、頭を抱える。

「どういうことです? これは、ドラキュラなのか、ヴァンパイアなのか、それともヴァンプか」

 嫌な予想をしながら、一応胡蝶は確認する。

 サタンは、なかなか考え込んでいるため、案の定レインボーエンジェルの口からはこんな言葉が漏れた。

「……どれでもないんです」

「は?」

 胡蝶は、一瞬理解に戸惑う。

 『どれでもない』

 第四の吸血鬼。

「えー、うーん。なんか説明するのめんどくさいんだけどなんだけど、異世界からの『汚染』受けてるみたいなんだよね? こっち側のヴァンプが?」

 軽い口調で、サタンは呟いた。

「なんかねー。まるでよくわからない『理論』がこっちの『精霊』と結びついちゃって、化学反応を起こしてるんだわ。うん」

 レインボーエンジェルが、横から付け足す。

「さらに、相手は、もともとこちら側の通常のヴァンプなので、『ヴァルハライド』を使用可能です。どこの並行世界の影響を受けたのかはわかりませんが、とにかく、『こちら側の法則を通用させられるとは、限らない』ことに注意してください」

「あーもー! なんでこんな厄介な案件が回ってくるんだよぁ!?」

 子供の用に苛立つサタン。

「ううううううよしッ! 胡蝶! お前が行け! お前なら何とかなるだろ! 神之瑪、蘭、隼人、嗣音そのたもろもろは、援護に回れェッ!」

「え!? なんでですか!? なんで私だけなんですか!?」

「うーん。大人数で行くと、感知される危険が高まるからだ! 目的は殺処分ッ。とりあえず、殺して帰ればOK!」

 いい笑顔で、親指を立てるサタン。

「そんな他人事みたいに押し付けないでください!? いい大人が恥ずかしくないんですか!?」

「いいもーん! ホントに他人事ナンダモーン!」

 そのあと、実際に交戦するのは胡蝶のみである方が、都合がいいと言われ、『あちらの世界』の理論を適用した、『特製必殺マスケット』なるものをサタンから渡された。


「はぁ……」

 胡蝶は、ゆっくりとため息をつく。

「ったく、どういうこと。本当にむかつきますあの魔王……」

 無尽蔵に建てられた建物を通り、地下の路地に入る胡蝶。背負っているギターケースには、例の特性必殺マスケットが入っている。

 相手の戦闘力はそれほどないにしろ、ヴァルハライドを使える。

 場合によっては、胡蝶自身も魔法では足りないかもしれない。対象を確認したら、隼人の鎖で拘束、そして空間転移魔法で、蘭の正拳突きを対象の吸血鬼に浴びせる。

 おそらく、それでは足りないようだったので、胡蝶がその場で対応……。ようは貧乏くじである。

「せめてシノと一緒にしてくれればよかったのに……」

 そんなこんなで、路地を徘徊する胡蝶。しかし。異変は突然訪れた。

「やあ」

 少し高めの少女の声。胡蝶は振り返る。銀に輝く長髪。ギラギラとしたショッキングピンクの眼。相手は、マスクをしており。口元は見えない。

「君、どこ行くの?」

「あ、ああ。ちょっとコンサートに」

「へえ、……ギターケースを持ってるってことはさぁ」

 少女は、ゆっくりと言う。

「演奏者ってことだよね?」

「そうね。貴方も聴きに来る?」

「いや、いいよ……曲は足りてるから……」

 少女は、マスクを外した。口元から除く牙。

「君への『夜想曲レクイエム』は仕上がってるよ?」

 刹那。衝突。

 轟音とともに、地下街の壁が破壊され、看板が落下する。

「へぇ……僕の攻撃を受け流したの? なかなかやるじゃん」

「こちらの台詞です。……よく『陣』に気が付きましたね?」

 そう、胡蝶は、ごく初歩的な魔術だが、地下街一帯に魔法陣を敷いていたのだ。だが。

 その爆発をよけられている。

 地下街の壁が壊れたのは、吸血鬼少女の衝突によるものではなく、胡蝶の爆破魔法によるものだ。

「まぁね? 『私』はヴァンプ……? だし」

「やっぱり……」

 汚染を受けている。さっきの一人称は、『僕』だったのに、次の一人称は、『私』。ヴァンプと言ったからには、もともとの人物の一人称は、『私』なのだろう。

「じゃあ、遠慮ないね?」

 胡蝶は、敬語を捨て去ると。一気に魔導書を広げる。普段は魔導書などいらないのだが、何をしてくるかわからないため、安定して魔術を使うのに必要なのだ。

「シノ! 隼人! 蘭! 準備をお願い!」

 本に向かって叫ぶと。胡蝶は、その魔導書を、相手の吸血鬼に投げつける。

 すぐさま、地面から鎖が伸びて、吸血鬼の少女を拘束する。

 向こう側で隼人がヴァルハライドの第三段階を解放しているはずだ。

 そして、蘭の正拳好きの衝撃が、鎖を伝わって少女を襲う。ふつうの吸血鬼なら、この時点でお陀仏のはずなのだが……。

「……シャアアアアアッ」

 ネコのような唸り声をあげて、煙を吐きながら少女は立ち上がる。

「やっぱり、何かしらの方法で衝撃を回避したみたい……」

 おそらく、二度目以降は効果がほとんどないだろう。かわされるか、もしくは受け流されるか。ならば。

「……」

 詠唱を省略する。普通禁じ手なのだが、勝つためにはそれぐらいしかない。

 すぐさま、炎をまとった銀の弾丸が少女に向かって放たれる。

(これで脳髄をぶち破っておわりッ!)

 しかし。


 軌道がそれた。


「アハハハハハハッ!」

 少女は、胡蝶に向かって、手を伸ばした。手首をつかむ。口を開く。

 ガブリ。

「ぐあんッ! あがあ……」

 胡蝶は悲鳴に似たような声を上げて、必死に引き剥がそうとするが、少し肉が裂けるだけで、まったく離れない。

「えいッ!」

 胡蝶は、少しだけ体制を整えて、起き上がる。

「……まさかこんなところで使うことになるとはッ」

 少女は、夢中で血をすすっていた。言葉など聞いていないだろう。本能に飲まれて、よだれを垂らしながら、官能的に胡蝶の流れ出る血をすする。

(まあ、私『人形』なんだけどね)

 これくらいは何ともない。しかし、戦闘不能になってしまっては意味がない。

 胡蝶は、唱える。その『夢』を。

「ヴァルハライド、真名解呪ッ。多くの魂が辿り着く、最後の理想郷。かつて多くの人々が望んだ、最後の幻想。我が神域にして夢幻の園。此処にその姿を表せ。【永久に果てぬ夢の庭コチョウノユメ】として!」

 灯籠から、蝶が羽ばたく。

 その名の通り、夢を再現する能力である、ヴァルハライド。

 胡蝶之夢。

 胡蝶は、このヴァルハライドをめったに使わない。理由は簡単。最強の魔女である彼女は、魔術のみで敵を殲滅できるからだ。このリスクの高いヴァルハライドをわざわざ使う理由などない。これは、いわば切り札。

 しかし、今回はその魔術が使えなかった。

 噛まれている間。

 『魔術が使えなかった』。

 魔力がなくなったわけでもない。どういうことかはさっぱり分からなかったが、とにかく、彼女はこの状況を脱するために、ヴァルハライドを起動したのだ。

「な、何ィィィィッ!?」

 少女は、奥へと吹っ飛ばされ、口から血を吹き出す。体の中に直接攻撃。そう胡蝶が夢を見ただけにすぎない。

「ゲホゲホガはッ……」

 口から血を垂れ流す少女。しかし、その眼はまっすぐ胡蝶を見据えていた。

「う、ううっ……」

 少女は、ゆっくりと詠唱を始めた。

「ヴァルハライド、奇跡再演ッ! 法則は地に伏し天を照らす。数は人を導き神を黙らせる。ことわりは影を除き光を生み出す。絶対にして真理の美学よ! 今一度その完全さを暴け! 『偉大なる技術アルス・マグナ』」

 胡蝶は気付いた。重大事実に。

(なにこれッ!? ヴァルハライドは英雄魂魄神器のはずッ! なのに……『伝承』でも、『神器』でもないッ!?)

 少女は、この世界において欠落した要素を用いて、ヴァルハライドを起動した。

 彼女の手に握られていたのは、長い両刃斧。黄金に光るそれを見た瞬間。胡蝶は分析を終えた。

「異世界からの汚染……そりゃ、だれも勝てないわけだ……」

 そもそも、生きている法則が違う。

 彼女に腕を噛まれている間、魔術が使えなかったのもそうだ。弾丸を逸らしたのも、この能力。

 絶対不変の真理を、問答無用で適応する。

 魔術は、ただ一つの方程式の前に、力を持たなくなる。蘭の正拳突きも、なにかしらの物理法則を改変して運動エネルギーを変換したのだろう。

「全く別の世界から来たヴァルハライド……」

 彼女は、予備の魔導書で、サタンに連絡を取る。

「スミマセン。サタン先生ッ!」

「ん? どした?」

 軽い口調でサタンは答えた。

「……撤退します」

「ふぇ!?」

「相手がヴァルハライドを起動している間、ろくに魔術が使えなくなりました。恐らく、この魔導書も、私も。『この場にいるだけでもうじき汚染されます』」

「……わかったッ。マスケット渡したろ? あれで吸血鬼を撃ってから、戻ってこい」

 サタンは、即答した。

「はいッ」


 その後あったことを端的に表せば、証拠隠滅である。

 マスケットは、何とかして汚染を除去するためのものだった。実践で使えなかったのは、しょうがないのだと、サタンは言った。

 そのあと、学園総動員で、元に戻ったヴァンプを処分した次第である。しかし、胡蝶は不可思議だった。

 あの、『一人称が僕』の吸血鬼は、どこに行ったのだろうと。

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