荷葉さんの『イコル』二次創作(許可済)
原作を読了済であることが、推奨です!
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上り詰めた。やっと……。
いわゆる『聖杯戦争』とでも形容すればいいか。その頂点に。
謎の物質、『イコル』。
現代科学では解明しきれないほどの、不思議な力、いや魔の力を与える液体。
如何なる液体にも溶け、その濃度によって服用したものに『異能』を授ける。それがイコル。
このイコルの原液をめぐり、たくさんのものが、はるか昔から命を散らしている。
この女も、その戦いに身を投じた一人だった。
名を、
ある日、イコルによって異能を得た犯罪集団が押し掛けてきたのだ。相手が伊能を持っているという以外は、よくある話だ。家のものを盗まれ、殺され、そうして何もかもを奪われた。日本と言っても、異能が関わった事件は、警察が解明できるわけがない。そもそもイコルは裏社会で取引されてきたものなのだから。
当然、彼女は心を腐らせた。
なんで私が。なんで私の両親と弟が。
『なんで私が生き残った』。
私も逃げ遅れて死ねばよかったの……? と。
海里にはわからなかった。そして、頂点に上り詰める。
このとき、海里は二十二歳だった。
次のイコル争奪戦を開催するまで、まだ時間があったのだ。
「はぁ……」
ため息をつく、海里。
「どうされましたか、海里様」
裏社会に上り詰めたときの、部下の男が質問してくる。
「ちょっとね……研究」
「これは……?」
「古代、メソポタミアの文献よ。私の能力、『
「まったく、やることが違いますね……」
呆れたように、部下の男が呟く。
「で、これに何が書かれているんです?」
ちょっと待ってね……。
海里の異能。『サイレントダイバー』。この能力は、全く持って人を殺すのには向いていない。それどころか、傷つけることも直接できない。この能力は、物体(主に個体)に潜り込んで、物体を『分裂』させることができる能力だ。
リンゴが一つあるとする。彼女は、その林檎に手を潜り込ませることができるのだ。そして、掴んで引っ張り出してきたもう一つの林檎を、実体化させることができる。ただそれだけ。しかし、この特性が彼女を勝利に導いた。
まず一つ。潜り込ませるということは、物理的に物体を無視することができるため、ナイフや弾丸なども透けてしまうということだ。いうなれば、個体や液体に対して無敵なのだ。
そして、分裂させることができるため、ナイフなどをコピー元からいくらでも生産できる。もっとも、時間が経つとコピー元を残して複製品は消えてしまうが。
彼女はこれを利用して、相手に一方的にナイフを投げつけるという戦法を取り、すべての参加者を殺した。そこには、ある目的があった。
「こんな戦い……やめさせてやる」
皮肉にも、彼女をこんな風にしたイコルを消す方法を探すには、イコルを使って上り詰めるしかなかったのである。
しかし、彼女はもうたくさんだった。
幸せな家庭はもう戻らない。そして、自分が殺してきた参加者たちもそうだ。
こんなことは終わらせなければならない。
彼女は、そう強く思うようになっていた。
そもそも、イコルとは何なのか。それを調べなければならなかった。
「見る限りね……」
彼女は言う。
「アステカ文明、古代ペルシア文明、そしてメソポタミアとマヤ文明……どの記述でも『神の血』や『聖なる酒』というような記述がみられるの。そして、それを飲んだものが、大きな権力を握ったりしているみたい……」
「ただの伝説が混じってるんじゃ……?」
「たしかに、普通の学会では神話の類として研究されている……でもね」
海里は、その黄金色の液体を見下ろす。
「ここに、……あるでしょ、それが」
「なるほどッ」
「つまり、場合によっては紀元前からイコルは存在していたということになるの」
「ふむ」
「そして、そのイコルが、そんな時代から、アステカやマヤからメソポタミアなんて広範囲に広がっているのも不自然。これは、……やはり、イコルが現代科学では解明できないものだという証拠。現代科学でも解明できない、権力者の液体。『イコル』」
海里は、ゆっくりと目を閉じる。
「そう。普通の物質じゃない……だからこそ、試してみる価値はある。私の能力で」
彼女は、その黄金色の液体。『イコルの原液』に手を突っ込む。そして、何かを握るようなしぐさをする。
「『サイレントダイバー』」
彼女は呟いた。次の瞬間。
彼女は、手を引き抜く。すると。透明な粘性のある液体が手に付いた。
「こ、これは……」
「やっぱり」
海里は、確信した。
「これは、どうみても『イコルじゃない』。コピー元はイコルなのに、コピーした対象はイコルじゃなくなる……」
海里は続けた。
「これは……本質的にはイコルと同質だから、……『
そして、海里は理論を確認しながら、ソーマをイコルに混ぜた。すると。
「消えた」
部下の男は、驚く。
「そう、消えた。これが、イコルをなくすための唯一の方法だと思う」
しかし、彼女の理論は不完全だった。このとき、イコルは消えたように見えただけなのだ。
その後も、彼女の研究は続いた。紀元前にもソーマは存在したはずだ。ではなぜ、イコルや異能は消滅しないのか。
答えは簡単だった。ソーマは、完全に純粋な時にのみ効果を発揮するという、珍しい液体なのだ。
本質的にはイコルと同じであるものの。性質は違う。
そして、次の争奪戦が開催された。
彼女の前に立ちはだかったのは。
早坂碧。最強の異能力者だった。
「ふふ……」
彼女は、口から血をこぼしながら笑う。
研究は間に合わなかった。いや、実は完成していたが、自分が実行できるモノではなかった。彼女は、ダメもとでイコルに再参加し、死を選んだのだ。
「原液のソーマは……かならずできる……」
その場を立ち去る碧は、その言葉を少し聞いた。
「貴方も、呪われてるから……ゲホゲホッ! はやく、飲んだ方が……」
彼女は力尽きる。
碧の頭からその日の記憶はすっかり忘れ去られた。
これは、だれにも語られることのなかった、ある女の研究成果。
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