ほのぼのとしたお話

「うー、暇」

 髪の長い少女は、ぐだぐだと床の上を寝転がる。羽織っただぼだぼのパーカーが妙にはだける。

「しょーがないじゃん?」

 もう一方の髪の短い少女が、本を読みながらブツブツと呟く。

「なんでか知らないけど、この白い部屋に閉じ込められてるんだから」

 この真っ白な部屋には、この二人の少女たち以外、だれもいない。大広間ほどあるこの部屋には、窓も扉もない。

「それにさ、よく暇だ暇だ、ってうじうじできるよね? 閉じ込められてるんだよ? 私たち」

「でーもーッ。暇なものは暇なのー!」

 髪の長い少女は、いつの間にか芋虫のような動作で、髪の短い少女のそばまで近寄ってくる。

「なんで、そんな気持ち悪い動きができるの……?」

「うわ、真面目に引かれた」

「はぁ……。かれこれ二時間ぐらい一緒に閉じ込められてるけど、いまだにあんたのことが理解できないわ。私」

「これなんなのかな? 心理実験的な?」

「わかんない。拉致られてるんじゃない?」

「ふぇ? らち?」

 間抜けな声で、髪の長い少女は答える。

「だってさ、私の部屋にいるときに、突然意識が無くなって、こんなところで寝てたんだよ? どう考えたって、拉致じゃん」

「うわあああああッ! どおおしよおおおおおおあああああッ!」

「落ち着く落ち着くッ。本読む?」

 髪の短い少女は、分厚い書物を差し出す。

「なにこれ? あこうそくぶったいのかんそくにおけるきょうがく?」

「亜光速物体の観測における驚愕。物理学の本」

「おろろろろろろろ」

 髪の長い少女は、胃の中のものを吐き出す仕草をする。

「マジで止めてよね。ここで吐くの」

「そんな軽蔑の眼で見ないでよーッ!」

 

 あれから三時間が経った。気付いたら、部屋の隅にミネラルウォーターが入れられている。

「これ、どういうことなのかな?」

「どゆこと?」

 髪の短い少女は、片方の問いにすぐ答える。

「ここで生活するってこと?」

「えー……。こんなのとー?」

「こんなのってなに」

「それに、トイレとかお風呂とかどうするのさ!」

「知らないよ。とにかくそろそろ出ないとまずいんじゃないのこれ?」

 髪の短い少女が、純白の壁を、スニーカーを履いた足でどんどんと蹴りつける。

「開かない……」

「うわぁ……。テンプレ通りだー」

 この二人、あまり緊張感がないようだ。

「どうにもこうにも、出ないと話にならないね」

「そだね」

「そだね、じゃなくて。脱出案を考えてよ!」

「とりゃッ! 美少女のパンツ丸見えキックッ!」

 スカートを翻しながら、髪の長い少女は壁にキックを叩き込む。すると、壁は途端にへにゃへにゃになり、通路が現れた。

「……うっわ。壁、キモイ」

 髪の短い少女は、目を歪める。

「あと、自分のことを美少女って言っちゃう、あんたもキモイ」

「ひどおおおおいッ!」

 ぽかぽかと髪の短い少女を殴る、自称美少女。


 二人の冒険は続くのであった。完


「作者さぁん。話の風呂敷を無理やり広げる癖が治ってませんよー!」

 髪の長い少女の声が、部屋に響いた。

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