【1/追憶 -sunset-】

「何をしているの?」

 頭上の方から声がしたので、その金髪の少女はゆっくりと顔を上げた。

 声をかけてきた人物を見た瞬間、少女はわずかに身を強張らせたが、向こうは自分が何者か気づいていない様子だと知ると、安堵して少しだけ緊張を解いた。

 彼女に声をかけたのは、明るい色のワンピースを着た、鮮やかな赤髪の少女だった。

 声をかけられた少女は、ぼうっと、少しだけ羨ましそうに彼女を眺めた。少女には彼女が輝いて見えた。

「何をしているの?」

 赤髪の少女は、小さく首を傾げながらもう一を聞いた。金髪の少女は慌てて答える。

「……別に、何をしているわけでもないよ」

「じゃあどうして、こんなところでうずくまっているの?」

 金髪の少女は建物の影の中で、息をひそめるようにしてうずくまっている。先程にそれを疑問に思って赤髪の少女は彼女に声をかけたのだろう。

「それにもう夕方だわ。すぐ辺りは暗くなっちゃうじゃない」

「いいの、別に……。明るいのは好きじゃないし、それに家に居たくないから」

「どうして?」

  赤髪の少女が心底不思議そうな表情を浮かべるのを見て、金髪の少女は彼女はきっと愛されて育ったのだろうな、と思い、心の内からどす黒い感情が湧き出てくるのを止められなかった。

「……誰だって痛い思いはしたくないんじゃないかな。つまりはそういう事だよ」

 金髪の少女の言葉の意味を理解しようとしているのか、赤髪の少女は眉根に皺を寄せて考え込んでいたが、答えは出なかったものと見えて、思考を放棄した。

 金髪の少女にとって、赤髪の少女の思考回路は実に単純に思え、また、少しだけ羨ましくなった。

「家に帰らないってことは、今日夜は一人ぼっちなんでしょう? だったら今晩うちにおいで! お父様もお母様も、忙しくてティーシャの相手してくれないの。お話し相手になってくれれば、それでいいの。美味しいお料理もあるのよ」

 赤髪の少女は手を差し伸べた。ずいぶん唐突な話の様な気がしたが、金髪の少女はその手を取った。

 とても、温かくて柔らかい、自分のことを常に気にしていてくれる、あの人物の手に似ている様な気がした。

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