第32話 一一九地編4

○超訳 11-4


将軍は無闇に感情を表さぬようにして

考えを悟られぬようにせねばならぬ。

また厳正公平さを以て統率すべきである。


配下がこちらの考えを

悟れぬよう振る舞い、

適宜命令を変更、作戦を調整する。

これにより拠点の変更、

進軍ルートの変更などが

外部に漏れづらくなる。


将軍の立てる攻撃命令は、

はしごで高いところに登らせたあと、

そのはしごを取り払うのに似ている。


敵地深くに踏み込ませた上で、

総攻撃を仕掛けるのには、

進軍に使った船を焼き、

炊事に使った釜を壊し、

羊の群れを追い立てるが如くに

命令を下す。


羊たちはどこに向かうかも分からず、

ただ駆ける。


この羊たちを一つに纏め上げ、

死地へと投げ込んで行くのが、

即ち将に課せられた役割である。

軍がいる戦場の情勢、

敵と味方との状況、そして何よりも、

我が軍の兵らのコンディション。

全てが戦果に大きな影響を及ぼす。

十分な検討、推察をくわえよ。


敵地に攻め入るとき、

国境付近では兵らの気持ちは

未だ散漫であるが、

深入りするに従い、

戦いへの決意を、いやでも募らせる。


敵国深くは、絶地である。

第三勢力に囲まれるのは、衢地である。

敵地深くは、重地である。

国境付近は、軽地である。

進軍ルートも撤退ルートも

限られているのが、囲地である。

どこにも逃げ場がないのが、死地である。


散地、軽地にては、士気掲揚に務めよ。

争地では、輜重部隊も急がせよ。

交地では、分断なきよう守りを固めよ。

衢地では、周辺国家との友誼に意を砕け。

重地では略奪により食料を獲得せよ。

圮地では、手早い通過を心掛けよ。

囲地では、敢えて逃げ道を断て。

死地では、決戦を鼓舞せよ。


兵らの気持ちになって考えてみよ。

囲まれれば、必死で身を守ろうとする。

追い詰められれば、必死で戦う。

過酷なる環境下では、大人しく指示に従う。


周辺諸侯の利害関係を踏まえねば、

外交交渉は容易に進展すまい。

山林や高低差、沼沢の在りかを知らねば、

行軍にはトラブルがつきまとおう。

地元の案内人を得られねば、

地の利を得ることは叶うまい。


九地の性質の内、

一つでも理解を洩らすさば、

自軍の被害はそれだけ拡大し、

よしんば勝利を収められたとて、

覇者としての君臨は叶うまい。


世を統べる覇者の戦争とは、

大国と戦うにしても、わざわざ敵に

総力戦を決断させるような愚は犯さぬ。

まずは培った威信にて敵国を孤立させ、

兵力を糾合し得ぬよう

仕向けるのである。


ここが叶わば、殊更に

外交に意を砕く必要も、

同盟諸国間の勢力バランスに

翻弄される必要もなくなり、

一国のみの力にて

敵国を威圧するが叶おう。


こうなれば、敵の城は容易く落ち、

敵国は容易く降伏するのである。



○明暗テンプレ 11-4


無闇に感情を表さず、考えを悟られないようにする。 11-4-1

厳正さ公平さを旨とする。 11-4-2

敵に総力戦を決断させず、降伏させる。 11-4-3

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