第9話 転生者の能力
「ディアマント様、間も無くルシフェリア領域内に入ります」
ディアマントと呼ばれた少女が小さく頷く。
「この世界にも飛行機や車があれば楽だったんだがな」
「はぁ、ひこうき……ですか?」
「すまん、独り言だ」
転送装置が使用可能なのは自国領土内、または他国でも許可を得た場所のみである。
ステルスをかけた馬車での移動が最も大部隊で移動しやすいという旧時代な状況に、ディアマントはつい溜め息をついてしまった。
「姉さん、もっと急がなくていいの?何なら僕が先に行こうか?」
「そう焦るな、ゾンネ」
「だってあの爺さんいつ死んでもおかしくないもの」
この一言でガルバルク兵の顔色が変わる。
ルドルフ・アイブリンガーは国が軽視していようが、兵士にとっては生きる伝説。
正真正銘の英雄である。
「ふっ、ゾンネはルドルフ殿が大好きだからな。心配する気持ちも分かるが」
「はぁ!?誰があんな爺さん!! ……ただ死なれたら困るだけだよ、国にとっても」
ぶつぶつ言いながらも赤面し狼狽する少年を見て和む兵達。
双子の出生は明確にはされていない。
国が【転生者】を引き取りに行った先は、小さな孤児院であった。
三歳にして大人顔負けの知識と能力を有していた子供は、さぞや不気味な存在であっただろう。
その境遇を不憫に思ってかルドルフは教育係を買って出た。
転生前の記憶を引き継いでいる彼らにとって偽りの家族など不要であったが、懸命に世話をするルドルフは第二の親のような存在でもあった。
「安心しろ。かつて我が国最強と謳われた存在は、どこぞの雑兵など例え一個大隊であっても敵う筈がない。この私が保証する」
微かに笑い、それを見た弟も安堵したように見えた。
(最も、【転生者】の能力次第だがな……)
***
「ルドルフ様。如何されました?」
「いや…… 残存兵力は任せる。士気では勝っていても兵力は向こうが上だ。気を抜くなよ」
「ハッ!」
先程の人影は見えなくなっていた。
ルドルフが気を取り直し、前線基地に攻め入ろうとしたその時。
「ルシフェルア軍の者たちよ。落ち着きなさい。貴方たちの優勢は未だ揺るがないのです。何故なら――」
「この国を救う勇者、【転生者】が居るからです」
女神が高台から声を発する。
ルシフェリア軍はおろか、ガルバルク帝国軍の兵士まで、突如戦場に響き渡るその声を聴き入っている。
決して大きな声ではないが頭の中に入り込んでくる声。
この感覚を、ルドルフは何処かで知っていた。そう、皇帝のそれと同質の――
(この声の主は危険だ…… 早急に排除せねば)
ルドルフが彼女に向かって駆けていた。
「さぁ、貴方の出番ですよ、
傍らで静かに立っていた【転生者】が前に出る。
「今こそ本当の意味で勇者になる時です」
彼女の能力で精神が高揚しているのか、彼には似つかわしくないと思わせる程、大きな咆哮を上げルドルフに襲い掛かる。
炎、氷、雷、風、水の属性の魔力を帯びた球体を幾つも自身の周囲に張り巡らせた。
「なんと器用な」
「くらえ!
ルドルフに向かい球体が襲い掛かる。
それを躱しながら、【転生者】ではなく女神目掛けて走り抜ける。
が、躱したはずの球体がルドルフの背中に命中する。
「ぐっ……! 追尾機能か」
ダメージは大したこと無いが、如何せん数が多い。
足を止められたルドルフは魔法球で覆われていた。
「【転生者】と英雄の一騎打ちです。皆、見守りなさい」
敵であるはずの者の言葉など耳を傾ける必要は無いが、ガルバルク兵はその言葉通りの行動をとっていた。
(やはりあの女を始末せねばならんが…… この青年がそれをさせてくれんか)
「押しつぶせ!」
「間に合うか……
魔法球が一斉にルドルフに襲い掛かる。
炸裂音が響き渡り、凄まじい爆風をたてた。
「やったか……?」
気を抜いた瞬間、腹部に衝撃が走った。
ルドルフは魔法の鎧で攻撃を防ぎ切り、そのまま
深く入った右拳は
「
左拳を魔力で強化し
「すまんな、青年よ。帝国に仇名す存在は排除せねばならんのだ」
止めを刺す為に空中に上がり魔力を集中させる。
(このまま何もせずに死ぬのですか?)
幻聴だろうか。
(何の為に転生したのですか?)
何の為だろう、痛みで思い出せない。
少なくともこんな思いをする為ではなかった。
今よりも楽しく行きたい。
今よりも生きているという実感が欲しい。
(本当にそれだけ?本当は何が欲しかったのですか?)
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
見て見ぬ振りをしていた、本当に自分が望んでいたもの。
女神の問いかけに、心の奥底に閉じ込めていた欲望の蓋が開く音が聞こえた気がした。
骨は腹を突き破り、呼吸をする度に激痛が走る。
下半身は感覚を失い、それでも何かに縋るよう空に向けて右手を突き出す。
「認められ、頼られ、尊敬され、恐れられ…… 誰しもが憧れる存在に……」
「俺は…… 最強の
《
数字と謎の言語で構成された光を帯びた文字が、
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