ヴァーチャルワールド

vr game

「VRゲーム? それを僕に?」



 連絡してきた相手は以前共にTV番組に出演し、共に一仕事終えたリーシャ・ユビキタスからだった。

 なんでも、Dスポーツの大会予選においてチート使いが横行しているという。それだけなら、さすがの美洋も受けないし、リーシャも話す必要はなかったが、そのチーター達がいる中でなんらかの実験をしているのではないかというものだった。



「くだらないな」



 そう言う美洋に対して、リーシャは後出しで一枚の画像を見せた。それにさすがに美洋も動きを止めた。



「この画像の出どころは不明よ。ただし、誠しやかに噂されている最強のリベリオンプレイヤーキャラクター白兎を追っている人が偶然スクリーンショットした画像にいたのよ。あのSNSと同じアカウント名を連携しているアバター。水城真希奈の姿がね」



 このプレイヤーを操作している人物が美洋の姉を名乗る人物である可能性が極めて高い。そうであれば美洋はその事実関係をしる必要がある。



「分かった。僕は何をすればいい?」



 それにはリーシャに渡された分厚いゲームの説明書、プレイヤーはその世界の中で何をしていても構わないらしい、家を建てても、広いVR世界を旅行しても、ただ一番その世界で人気のあるコンテンツは『バトルロワイヤル』単純なプレイヤー対プレイヤーの乱戦方式である。 そのコンテンツは優勝賞金も充てられた大会等も存在する。



「なるほど、これに出てチーターを探すという事で大体あっている?」

「そうね。大体あってるわ。アンタこういうゲームした事あるの? 得意そうだけど」

「全くないね」



 美洋はこの手のゲームをした事が殆どない。そもそも仮想現実という物に興味がない事と、物心ついた時から仕事の日々だった。



「えっ? ちょっと依頼する相手間違えたかしら? アンタがその探している奴を見つけたら私達が現実世界からそいつを捕縛するという感じなんだけど」



 それを聞いて美洋は一応リーシャに言う。



「そっちを僕にやらせてくれないだろうか? そういう黒子的な方が僕にはあっているんだけれど?」



 当然そうしたいのはやまやまだったが、リーシャがVR世界に行けない理由があった。それはリーシャはこのVR世界という物の超常連である。



「私は顔もアバターも全部バレてるのよ! だから、私はいけないの……ってなんかよくない事考えているでしょ?」



 それは図星だった。サイバネティックハンターとして身バレするという事の動きにくさに関して言えばリーシャの行動は素人以下なのである。それを言えばまた面倒だろうと思って美洋は返す。



「別に」

「本当に? 信じられないけどまぁいいわ。アカウントは適当に用意して、捨てアカウントで構わないから必要なアイテムやお金は送るわ」

「いらない、そこからリーシャとの関係がバレる可能性がある」

「いらないって、どうするのよ? 最初からだと相当時間が……ってまさかアンタデータ書き換えるつもりじゃないでしょうね?」



 美洋はチートなんていう言葉が生易しくなるような事をしようと考えていた。遊ぶのではなく仕事の為、それ故に美洋はこう言った。



「俺はサイバネティックハンターだからな」



 リーシャが送ってきたヘッドセットを頭につけてゲームを起動させる。これは幼少の頃に姉の研究室で一度似た経験をした事がある。その頃の経験通りなら自分はフルダイブできない。 美洋が見ている空間は初期設定用のアバターが何やら面倒くさい事を話している。



「確かに、あの頃よりリアルになってるなだけど」



 手足の感覚は完全に現実世界にあった。そして目の前でどうするか聞いてくる五月蠅いNPCに対してこう言った。



「とりあえず君をベースでいいや。ジキル」



 恐るべき事を美洋は行った。ゲーム内のNPCをベースにしてジキルをVR世界に降臨させる。



「NPCにも一応ステータスが割られているんだな。僕の数値をいじればすぐに運営にバレるだろうけど、ジキル。君なら問題ないだろう。とりあえず全ステータスを最大にしておいて、他者から見える数値は一般的な物にしておこう。僕が遠隔地から君のステータスをいじれるようにしておく」



 ジキルはふとそれだけだとチーターとやりあうのに少し不安が残ると思っていた。



「ジキル、君の持ち物の中にある蘇生アイテム、全部僕に送って」

「あっ、はい!」



 そういう事かとジキルは理解した。美洋はあえてノーマルなプレイヤーを装いながら、実質無敵状態を手に入れているのだ。



「さて、ジキル。このくだらない世界をしばらく楽しもうか?」

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