ゲームプレイ&チートプレイ

「さて、情報を集めようか?」

「そうだね。でも何処から?」



 ジキルの質問に対して美洋は何処にでもいるアバターで指で宙をなぞる。全サーバー内のチャットログを調べる。調べるのは水城真希奈、そして『白兎』というワード。水城真希奈に関しての名称は何処を探しても出てこないが、『白兎』に関しては出るわ出るわ。



「チートプレイヤーを狩りまくっているらしいね」

「ならボクにチートをつけて白兎をおびき寄せるの?」



 スタンダードな方法を提案するジキルに美洋は首を横に振る。それは非常にジキルが目立ってしまう。



「どういう理由で白兎がチートプレイヤーを狩っているのかジキルならどう思う? 君の意見を聞きたい」



 突然そう言われるので、ジキルは考える。恐らくこうだろうと思われる一つの答え。



「多分、チートに勝てるような処理能力がある何かを作りたいのかな? 例えばだけどそういうアルゴリズムを持ったボスキャラとか?」



 美洋は否定もしなければ正解とも言わない。それに痺れを切らしたのはジキルだった。美洋の背中を引っ張る。



「なんなのさー! 教えてよぅ!」

「僕の考えが正しければ、白兎は僕等の前に現れるよ」



 二人して個人チャットをしていると、美洋達の前に女の子のアバターが話しかけてきた。それに応える。



「こんにちは、突然ごめんね! 見たところ新人さんかな?」

「えぇ、白兎ってアバターを探してるんですけど」



 美洋は平然と事実を語る。それに少女は少し考えるジェスチャーをする。頭に疑問符が本当に浮いているのは美洋ですらやりすぎだろうと思っていた。



「確か、テイカーボウルに参加する強いプレイヤーだったんじゃないかな?」

 ゲーム専用の用語に美洋は頭が痛くなってきていた。自分が学んだ知識が殆ど意味がない。その為に素直に聞き返す。

「テイカーボウル?」

「うん、バトルロワイヤルの大会だよ。確か予選に勝ち上がった強いプレイヤーしか出場できないんだけど……」



 手っ取り早い話だなと美洋は思う。そしてそれはジキルにも伝わっていた。二人はこんなに出来すぎている事はありえないだろうと確信。これは美洋とジキルを誘っているのかもしれない。

 だとしても……



「すみません、どうやったらそのテイカーボウルに出られますか?」

「えっ? ぱっと出の初心者の人が出れるような大会じゃないよ!」



 面倒くさいなと美洋は考え出しているが、笑顔に感嘆符を出して彼女に言う。



「美洋です。こっちは友達のジキル。どうせなら挑戦してみたいので!」



 彼女はう~んと悩む様子を見せる。そして汗を流すようなアイコンをだしてから彼女は自己紹介を兼ねてこう言った。



「しかたないな~! 乗りかかった舟だ。私はサツキ、難しいと思うけど手伝ってあげるよ! でもテイカーボウルはそんなに甘くないからね」



 それがいくらでも甘くできると思いながら美洋はサツキを真似て汗のアイコンを出して見せた。ゲームの世界は異様に世話焼きのプレイヤーがいるのだが、美洋はゲームをする事が殆どないのでそう言った存在に関しても知る由はなかった。



「あの、サツキさんお礼はどうしたらいいですか?」



 美洋のその言葉にサツキは笑顔で答える。



「そんなのいらないよ! 私は初心者のプレイヤーが楽しくこのゲームをプレイしてくれればそれでいいんだよ。これも何かの縁だから、美洋君とジキルさんには色々プレゼントしてあげよう」



 そう言ってサツキは色んなお店に連れて行ってくれた。初心者の美洋とジキルに頭から下まで装備を揃えてくれる。また一般的には揃えておいた方がいい道具なんかも買い揃えてくれた。


「こんなに買ってもらって悪いよ」



 ジキルの言葉にサツキは笑う。



「初心者が遠慮しちゃダメだからねー!」

「サツキはこのゲーム長いの?」



 こういう時は本当にジキルがいてくれて良かったと美洋は思っていた。世間話も下手なら人付き合いも恐ろしく下手な美洋ではこうはコミュニケーションは取れない。



「とりあえず予選とかいうの行こうよ」



 やはり美洋は空気が読めなかった。最速でテイカーボウルに参加する為の手順を踏みたがる。白兎というチートプレイヤーキラーが参加する大会。

 その宣伝だけで予選の盛り上がりは通常の三倍程は熱気に満ちていた。予選は色んなところで行われている。



「とりあえずこの辺で一度プレイヤーバトルを募集してみようか?」



 サツキの話を聞くと、それは美洋にとっては気が遠くなるような話だった。何十勝、何百勝と繰り返し勝利し、そこでMVPを取ったプレイヤーがテイカーボウルに参加する資格を得られるらしい。



「それ、何時間勝ち続けたらもらえるんだい?」



 サツキは少し考えると答える。



「多分、睡眠時間を削って一月くらいずーっと対戦し続けてればかな?」

「そんな事BOTでもなければ不可能だろう……ってそういう事か」



 上位プレイヤーは確かに強いのかもしれないが、その過程は案外不正まがいの事をしているという事なのだ。



「成程、正攻法じゃまず予選突破は不可能という事だね」



 美洋の言葉にサツキは少し悲しそうな表情をする。そして美洋とジキルに小声で言うようにプライベートチャットを使った。



「昔はそうじゃなかったんだよ? 今は強いプレイヤーをかこったり、クラスタという繋がりでお互いの成績を上げさせるような事が横行してるんだ。だから、始めたばかりのプレイヤーが心の底からこのゲームを楽しむ事なんて本当はできないんだよ。だから、あの白兎に全部壊してもらいたいってみんな思ってるんだよ。だから、もう二人はテイカーボウルは諦めてこの世界を楽しもうよ? 色んなところに連れて行ってあげるよ!」



 サツキはいい奴なんだろう。そうジキルも美洋もそれだけは理解した。だが、美洋とジキルはこのゲームを満喫する気はない。



「サツキさん、ありがとう。でも教えてくれないかな? どんなに可能性がなくてもいい。一番最速でテイカーボウルに出る方法を」



 その言葉にサツキは呆れた顔をして、絶対に不可能な方法を教えてくれた。テイカーボウル参加券を持っているプレイヤーにその権利をかけて勝負し、勝利する事。そもそも、それを受けるという事がないだろう。



「分かった。サツキさん、ありがとう。あとどうすれば勝負に挑んでくれるかも教えてくれないかな?」



 それにもサツキは答えてくれた。相当レアなアイテムを出し、勝敗に関わらずそれを譲渡するという条件……いわゆるどちらでも相手が納得できる条件提示。それは長年プレイをしている廃プレイヤーなら可能かもしれないが、今先ほどはじめたばかりの二人にそれは不可能である。



「サツキさん、ありがとう。あとは僕等で頑張ってみるよ!」



 ほぼ強制的にサツキと離れ美洋はジキルにアイテムの譲渡をする。それは幾何学的な数値でしかドロップしないアクセサリー。それを美洋は二つ所有し、一つをジキルに、当然ゲームデータを改ざんし美洋が自分の持ち物の中にそれを入れた。

 チートどころではない行為であるが、それを餌にジキルと美洋はお互いサーバーを変えて参加券を手放すプレイヤーを待った。


 ジキルの方にはすぐに食いつく、それは魔法使いの職業らしい女性のアバターだった。その女性アバターはジキルを見て最近始めたプレイヤーである事。アイテムは偶然、最初のガチャで手に入れたという事を勝手に理解し、プレイヤーバトルを任意で行った。高速詠唱で唱えられる魔法の速度は想像を絶する物。

 されど、ジキルはそれらを全て無効化していく。ジキルの役職はハッカー、魔法をすべて分解無効化。



「初心者の癖にやるわねぇ! でもSPが切れた時が最後よ!」



 このプレイヤーからはチートは検知できなかった。それ故、ジキルは少々申し訳ないと思ったが、彼女に背を向ける。



「もう降参?」



 よく喋るプレイヤーだなとジキルは思いながら、個人チャットを美洋に入れた。



「とりあえず参加券ゲットしたよ!」



 魔法詠唱中の女性プレイヤーは爆ぜ、自分の魔法に巻き込まれて体力を全て失った。高度なトラップを気づかれずに仕掛け正攻法で女性プレイヤーを仕留めたのだ。ただし、それらは全てそういう風に見せただけである。



「参ったわ! あなた初心者を装った上級者ね! テイカーボウル私の代わりに頑張ってよ!」



 頷くとジキルは彼女から友人申請が来たので、それを快く受ける。ジキルは美洋の方はどうなっているかと確認したところ、それはそれはとんでもない方法で美洋は相手を圧倒した。回復アイテム無限連打。即死復帰アイテムオート発動。


 そして初期装備のダガーで相手に延々とダメージを与える。倒せなくとも相手のアイテムは底をつく。そしていずれ敗北。これ以上行うとアイテムの枯渇という損害が広がる。

 相手は降参し美洋に悪態をついて消えていった。ジキルとは大違いの方法。そして美洋はため息と共に言う。



「じゃあテイカーボウルとやらに参加しようか」

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