7-86 ゆけ、セルリアン討伐隊!

 

 海のセルリアンを追い払った後、僕達は日を改めてロッジに集まることにした。

 セルリアンの話をすると言うことで、セルリアンハンターの3人にも来てもらっている。


 あの場にいたキリン、監視を解かれてすぐに飛んできたキタキツネなども合わせて、今日のロッジは普段の数倍のフレンズで賑わっている。



「さて、呼んでないのもいるのですが…いいでしょう、今日お前たちを呼んだのは他でもありません、ついに”海のセルリアン”が現れたのです」

「奴への対処はこの島の総力を挙げて取り組むべきこと、心して話を聞くのですよ」


 2人の言葉で、それまでガヤガヤしていたロッジの空気が一瞬のうちに静まり返った。今日の声色は本気のものだ。


「まずは状況報告を…コカムイ、頼めますか」

「うん、バッチリ任せて」


 とは言ったものの、ちょっと緊張する。


「ふー…」


 息を整えて、頭の中を整理する。まずはセルリアンが現れた場所から説明することにしよう。


「昨日、”みずべちほー”の海にセルリアンが現れたんだ」

「そのようだな、今でも信じがたいが」


 もっともな感想だ。多くの、いわゆる一般的なセルリアンたちと戦ってきたハンターの3人にとっては特に納得できないことだろう。

 船と共に海に沈んだ黒いセルリアンを目の当たりにしていれば尚更。


「でも、本当なんだ」

「分かっている、疑っている訳じゃない」

「ふふ、ヒグマったら言葉足らずなんだから」

「…気を付ける」


「あはは、じゃあ話を戻して…僕は博士に連絡をして、来てもらったんだ。そしてその場にいたみんなで協力してアイツの腕を一本千切ったってわけ」

「キリンとPPPと、そのマネージャーも手を貸してくれたのです」


「そしてセルリアンは海の中に逃げた。…細かいところは省いたけど、これが大体の出来事だよ」


「それは分かった、しかし奴の姿を知りたいな…それも大事な情報だ」

「それについては大丈夫、赤ボスが写真を撮ってくれたからさ」


「ジャア、キノウ撮影シタ写真ヲ表示スルヨ」


 赤ボスをヒグマに手渡して、写真を確認してもらう。その写真に反応を示したのはサーバルだった。


「あ! コイツだよ、あの時の海のセルリアン!」

「…間違いない、この形でした」


 後から覗き込んだかばんちゃんも、サーバルの言葉に同意した。いよいよ、最初に現れた海のセルリアンと同じであることが確定した。

 こんな奴が2体いても迷惑だし、かえって安心した。



「確認が取れたところで、次は昨日明らかになった事実を確認するとしましょう」

「…ということで、コカムイ」


「ま、また?」


 僕がいるのをいいことに楽をしようと考えているらしい。仕方ない、僕がやるしかないみたいだ。


「そうだね、さっき言った”千切った腕”、それに秘密が隠されてたんだ」

「何か妙な力でもあったのか?」

「ある意味、そう言えるのかもね」


 海で生きる力、それはセルリアンにとって十分に”妙な力”と呼べる代物だ。この事実は、セルリアンがそれを手に入れていたことを示している。


「アイツの腕が地面の上で溶岩になったんだ。丁度、海に入ったセルリアンみたいにね」

「…ありえん、そんなことが」

「ほ、本当なんですか!?」


「しっかりとこの目で確かめたのです」

「よもや、間違いはありません」


 誰も想像していなかったであろうこの性質は、僕達にとっての最大の勝機と言ってもいい。極端な話、陸地に引きずり上げるだけでとどめを刺すことが出来るのだから。

 …勿論、その方法があるならの話だが。



「く、何が何だか…」

「海で戦えない私たちには辛い話でもありますね」

「そうでしょう…だから、ここにを結成するのです」

「討伐隊?」


 いよいよ、今日の話の本題に入るようだ。


「今回の戦い、ハンターのみでは厳しいことが分かったと思うのです」

「ああ、悔しいがその通りだ」

「『弱点は補え』、チームを組んで海上での戦いを可能にするのです」



「…異論はないようですね」

「では、役割を振り分けましょう」


 博士はおもむろに紙切れを取り出して読み上げ始めた。

 どうやら役割はもう決めていたらしい。


「まず、我々2人とかばんが”司令”として全体に指示を出すのです」

「まあ、適任だな」


「そしてハンターの3人、それにコカムイとイヅナの2人を加えて”前線戦力部隊”とします」

「ぜんせ……なに?」

「サーバルは引っ込んでいるのです」


 なるほど、セルリアンと積極的に戦うのは僕達ってことか。まあ、昨日の様子を見ていればさほど不思議なことではない。

 刀はセルリアンの体を斬るのに役立つし、イヅナはセルリアンを拘束できる。2人とも空を飛べるから戦いやすい。


「それで、他の役割はどう?」

「オオカミとキリンにも戦ってもらうのですが、あくまで”後方支援”という形になりますね」


「あとは、その場の状況に合わせて柔軟に対応するのです」

「それはそれは、期待してるよ」

「当然なのです、我々は賢いので」


 博士の示した役割にも異論を示す者はいない。長らくその存在だけで脅威を与えてきたセルリアンを討伐する日が、いよいよここにやって来るんだ。


「今一度、パーク全土に情報を発信するのです、海にセルリアンを見かけたら報告するように…ね」

「次に現れた時が、奴の命日となるのです」


 僕もそのつもりだ。

 だけど、その前に話しておかなきゃいけないことがある。



「…博士、一ついいかな」

「おや、何か足りませんでしたか?」 

「ううん、まだ話してなかったことがあるんだ」


 博士の顔が曇り、いかにも”不機嫌”という顔で睨みつけられた。


「こ、この期に及んで…」

「ごめん、今から話すから」

「はぁ、言ってみるのです」


「博士が駆け付ける前のことだけど、小さなセルリアンが海に飛び込んでたんだ」

「…冗談ではないのですよね?」

「私も見たんだよ、ノリくんは嘘つかないよ!」


 博士は頭を抱え、助けを求めるように助手に目配せをした。

 助手が静かに首を振ると、かばんちゃんの方に同様の視線を向けた。


「ボクにもさっぱりです…」


 頼みの綱を両方失い、もう一度思いっきり頭を抱えてペタリと床に座り込んでしまった。


「だから、黙ってたんだ。関係あるかどうかも定かじゃないから」

「今の博士を見ると、それでよかったと思うぞ」


ヒグマから同意をもらえて、なんとなくホッとした。


「でも、本当に関係ないんでしょうか?」

「確かめる方法はなさそうね…」


 目の前でそれを目撃しても、理由が分からなければ解決のしようがない。セルリアンは倒しちゃえばいいんだけど、飛び込むのは止められないからな…



「分かりました!」


 ブレインのみんなが悩んでいるその時、もう一人のブレイン名探偵が高らかに声を上げた。


「分かったって、海に飛び込む理由がか?」

「はい、バッチリ任せてください!」


 キタキツネや博士たちが期待していない顔で、かばんちゃんが不安そうな顔で、サーバルは目を輝かせて、オオカミは見守るような顔で、それぞれキリンの次の言葉を待っている。

 概ねキリンの推理に期待はしていないのが実情だ。


 …だけど、だけどねイヅナ。

 歯ぎしりするのだけは、止めた方がいいと思う。


「……ふふ」


 心の中で呟くのとほぼ同時に、イヅナは何事もなかったかのような顔に戻った。


 どうしてキリンに対して当たりが強いんだろう…


『キリンの奴がお前にベタ惚れだからな』

『師匠って呼んでるだけだから、多分そういうのじゃないと思う』

『……だといいな』


 意味深なことを言うのは止めてほしい。

 神依君の過去がアレだから、言葉が妙な説得力を持っていて反応に困ってしまう。



「…おほん、では、私の推理を話しましょう」


 おっと、ようやく推理ショーが始まるみたいだ。


「ズバリ、セルリアンは海に行こうとしたのです!」

「…そんなこと、誰でも思いつくのです」


 博士がすぐさま一刀両断。


「そうじゃなくて、そう…あのセルリアンも、海で暮らしたかったんですよ!」

「そんなバカな!?」

「バカじゃありません、立派な推理です!」


「面白いじゃないか、理由を聞いていいかい?」

「流石先生、話が早い!」


 オオカミは肯定的、というかやっぱり弟子の成長を喜んでいるように見えるけど、何かのメモを高速で書いているのを除けば何もおかしくない。

 アレはマンガのネタだろうか。見境ないな。


「で、その理由ってのは何だ?」

「海のセルリアンです! 飛び込んだセルリアンも、あんな生活に憧れていたんですよ!」

「そ、そうなのか?」

「ヒグマ、取り合わなくていいのです」


「そうかな、僕は案外的を射ていると思うな。だって海に入って初めて生活できるようになったはずだから」


「お前が言うと、ちょっと考えてみたくなるのです…」

「博士、どういう意味ですか!」

「キリン、信頼も探偵の力の内だよ」

「むぐぐ、私も頑張らねば…」


 なんだか段々と盛り上がってきた。かばんちゃんやサーバルも、この話題について話しているのが聞こえる。

 図らずも、キリンのお陰でロッジの空気が軽やかになったようだ。


「全く、やかましくなってしまったのです」

「私は悪くない空気だと思いますよ?」

「ふふ、同感です」


「博士ー、ジャパリまん食べよ!」

「ええ、いただきますですよ」



 そんな空気の中、もっと先を見据えている1人のフレンズがいた。


「コカムイさん、イヅナさん、少しいいですか」

「何か用かな、かばんちゃん?」


「はい…1つ、頼みたいことがあるんです」

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