Chapter 003 『ALIEN』が止まらない
3-25 キツネたんていコカムイ!
「というわけで、これから話し合いを始めるのです」
「……どういう訳で?」
どこかで、いや昨日聞いたやり取りと共に、博士が話し合いの始まりを告げた。
奇しくも僕は昨日と同じようにとんでもない早朝に叩き起こされたこともここに記しておこう。
おかげで強い眠気に襲われ、今の状況をまともに把握できていない。もっとも、昨日のあの後のことを覚えていないこと、起きたら何故か昨日の分の日記が書かれていて、懐に赤い勾玉が入っていたこととかも相まっての混乱だ。
普段通りに起きていても戸惑っていたに違いない。
「博士、質問」
「さっそくですか……いいでしょう」
なぜか随分と偉そうな博士は放っておいて、質問をしよう。
「まず、何について話し合うのか、そしてこの話し合いに参加してるみんなの参加理由を教えてくれるかな」
「……わかったのです、しっかり聞くのですよ」
博士は説明を始めた。
「まず議題、これは昨日のイヅナの行動についてどう対応するか、なのです」
「そういえば、イヅナがいないね、どうしたの?」
「……それについては後で話すのです」
続けて、円卓のような形にセットされた、机の周りに座っているみんなの、参加理由を博士は教えてくれた。
まず博士と助手、『言うまでもなくこの島の長だから』らしい。
僕は『ある意味被害者だから』だそうだ。何の被害者なのか一向に見当がつかない。
かばんちゃんは『事件現場に居合わせたから』。だからその起きた事件が分からない、と博士に言ったが聞き流されてしまった。
そして、最も不可解だったのが、フェネックだ。
「フェネックは別に居合わせたわけじゃないんでしょ?」
「フェネックは『重要な証言』を持っているのです」
「うん、そうなんだー」
「……そっか」
どうせここでは詳しく教えてもらえないだろう、と悟ったからひとまずはそれで納得することにした。
「さて、他に質問はないですね?」
博士の問いに声を上げる者はいなかった。
「……では、本題に入るのです」と助手が続けた。
「まず、昨日の出来事を振り返るのです」
そしてイヅナが僕にとり憑いていたこと、尻尾の数の変化、どこかに行ってしまったことを初めて聞いた。話し合いの席についていた中で驚いたのは僕だけだったが、少し離れた場所で見守るサーバルとアライさんはびっくりしていた。
「”とりつく”って、なんだろう?」
「むむ、きっとすごいことなのだ!」
「……で、それがどうかしたの?」
とり憑かれていた張本人が言うのもあれだけど、なにか脅威になることとは思えない。すると博士は呆れたように昨日の出来事の続きを語りだした。
「イヅナが逃げた後、一応周りを確かめたのです、すると……」
「すると、何?」
「船が壊されていた、のですよ」
船が……というと博士はイヅナが壊したと判断しているみたいだ。実際にイヅナが壊したとすれば、その目的は島の外に出さないため、と考えるのが最も妥当だ。
「イヅナは、何がしたいのかな……」
「それが分からない状態だから、放置しておくのはまずいと考えているのです」
僕にとり憑いてこの島で、いやこの島に来て、何をするつもりか。
この島にやって来て……待てよ、だとすると……
「イヅナが、僕の記憶に何かした可能性もあるってことか……」
「それって、コカムイさんの記憶喪失のことですよね」
「コカムイ、お前にとっても看過していい話ではないはずです」
「……そうだね、じゃあフェネックの証言とやらを聞きたいな」
今ここで話をしている中で、フェネックだけは全く以て考えが見えない。
「わかったー、話は火山が噴火した日まで遡るんだけどねー……」
フェネックはゆっくりと語り始める。
『私はその日の夜途中で起きちゃって、ロッジの近くまで軽く散歩してたんだー。すると火山の方から白い毛のキツネ、今思えばイヅナちゃんだね、彼女が飛んでロッジの入り口前に降りてきたんだ』
「とすると、キミは僕たちより早くイヅナの存在に気づいてたんだ」
ロッジでの違和感への鋭さ、ゆきやまや図書館での態度はすべて、これを目撃していたからってことか。
フェネックはボクの言葉を肯定しつつ、まだ続きがあると言って再び話し始めた。
『初めて見る子だったのと、夜遅くだったから気になって、しばらくロッジの前で出てくるのを待ってたんだ。そのうちイヅナちゃんが出てきて、そしてどこかにまた飛んで行ったんだけど、なんだかロッジに入る前と何かが違う気がしたんだ。話を聞く限りだと、多分尻尾の数が変わってたんだと思うなー』
火山の方向から飛んできた、そしてサンドスターの噴火。ここから推測すると、イヅナがフレンズになったのはこの夜のはずだ。この考えを話してみた。
「イヅナが初めて姿を見せたのはその翌日……辻褄も合っていますね」
「……ですけど、何か引っかかりますね」
かばんちゃんの言う通り、引っ掛かりがあるのは確かだ。でも、それを説明するのは不可能じゃない。
「ただフレンズになるだけなら普通は、サンドスターに当たるだけでいいはず、わざわざ僕をこの島に連れてくる意味はない……でも僕はここにいる」
「ある程度考えはまとまっているようですね」
「うん……まず、僕の考えを話すために、もとになる根拠をいくつか話すね」
まず1つ目、僕自身のフレンズ化。日記にも一応書いてあるけど、みんな驚いていた。イヅナと狐火のことで頭から飛んでいたみたいだ。ともあれ、それがわかったのは8日目、イヅナと出会った日だ。当然関係があると考えるのが普通だ。
2つ目、フェネックの証言、そして昨日のことでも話題にあった、イヅナの尻尾の違い。僕は翌朝ロッジにいたから、尻尾が変化したならイヅナがロッジに入る時は2本、出ていくときは1本だったはず。つまり、火山の帰り、イヅナは僕にとり憑いていた状態のはずだ。
3つ目、図書館の資料にあったこと、忘れているかも知れないけど、フレンズになるためには『サンドスターに触れることができる実体』がなければいけない。そしてイヅナは調べた限り恐らく霊体だったはずだ。
この3つの証拠から、真実が導き出せるはずだ。
「じゃあ、話すね。ここではイヅナの目的を『フレンズ化』に絞って考えるよ。イヅナがまだ狐の霊だったころ、ジャパリパークを見つけたんだと思う、そしてみんなと同じようにフレンズになりたいと思ったんだよ」
ただの予想だけど、多分当たっていると思う。
「でも、イヅナだけではそれはできなかった、イヅナにははっきりした体がなかったんだ。だから、サンドスターに触れられず、イヅナはフレンズになれなかった」
でも、イヅナは諦めずにフレンズになる方法を探した。
「そしてイヅナはヒトにとり憑いて、その姿でサンドスターに当たることにより、フレンズになろうとした。そして、とり憑くヒトに僕を選んだ」
どうして僕が選ばれたのかは分からない。気まぐれか、あるいはまだ隠された意図があるのか。
「この島にやってきてから、イヅナがとり憑いて博士たちに脅かしを掛けたこともあったよね、もしかしたらそれは、僕がずっと図書館にいると不都合だから、変化を起こそうとしたのかもしれない」
このあたりは全く証拠のない妄想に過ぎないけどね。
「ついに火山が噴火した日、イヅナは僕の体に入り込んで飛び出したサンドスターに触れて、フレンズになった。同時に、僕もフレンズ化してしまったんだ」
これで、僕が突然フレンズになった理由も説明できる。
「ロッジに帰ってきたイヅナは、僕と分かれて僕をベッドに寝かせてロッジを立ち去った、その出入りをフェネックに見られた、そして翌朝アライさんと出会って初対面としてロッジに戻ってきた」
「これが、今の僕の考え……かな」
僕の話を聞いて、みんな考えている。どこか間違いがあるなら言ってくれるとうれしいな。
「あの、質問いいですか」
「何、かばんちゃん?」
「あの、もしとり憑くならボクでも良かったんじゃないかなって」
「ああ、それは……かばんちゃんがフレンズだからダメだった、と思う」
「え、ボクがフレンズって、遊園地での話聞いてたんですか?」
「えっ、ま、まあね」
本当はサバンナで赤ボスに聞いたことだ、それはさておき……
「実際はイヅナがフレンズ化して僕も一緒に、じゃなくて、あくまで僕がフレンズ化することで、それにつられてイヅナの魂もフレンズになった、ってことだと思う」
「つまり、フレンズはそれ以上フレンズ化しないから、イヅナさんはただのヒトであるコカムイさんに……ってことですね」
「それならば、ヒト以外のフレンズにとり憑かなかった理由も説明できますね」
「そうですね助手」
ということで、とりあえずイヅナとフレンズ化についての結論を出すことができた。あとは、これからどうするか……てとこだけど、
「ひっ捕らえて本人の口から話を聞くべきなのです」
「その通りなのです」
博士たちからこんな過激な意見が出てくる……それほど過激でもないか?それはさておき、なかなか思い切った判断だ。
「ボクは、イヅナさんが戻るまで待ってもいいと思います」
「かばんはイヅナに友好的に接してもらったからそういうことが言えるのです」
「……もしかして狐火で脅かされたこと根に持ってるの?」
「そんなわけないのです、我々は寛大なので」
「ええ、我々は寛大なので」
「どうだか……」
「私は、博士に賛成だけどなー」
「……フェネックも?」
「もしイヅナちゃんの目的が達成なら、島から出てっちゃうかもしれないよ?」
確かにイヅナの目的を『フレンズ化』だけと考えればそれでもいい。ジャパリパークはこの島だけじゃないから、別のとこまで飛んでってもいいわけだ。
「……でも、イヅナは船を壊した。 恐らく僕を島の外に出さないために……なら、まだここでやりたいこととかも残っているかもしれないよ」
「それも、判断はしづらいですよね」
「だから、イヅナちゃん本人に聞くのが早いと思うなー」
「…………」
話し合いは恐らく煮詰まってきたころだ。そろそろイヅナについてどうするか一応の結論を出す時が来たのだろう。
「……僕は、手荒な真似は反対だ、話してくれるときは多分そう遠くないと思うし、イヅナは、悪いことをしようとは思ってない、そう感じるんだ」
「……お前がそう言うなら、分かったのです、お前が今回の一番の被害者といえる人物です、決定権はお前にあるのでしょう」
「……博士」
「さて、我々はセルリアンハンターにお前たちが見た『紫の新種』を警戒するよう言いに行くのです」
「我々も忙しいのです」
「お前も色々あって疲れたでしょう、しばらくここでゆっくりするといいのです」
「新しい発見があったら、我々がここに来るですよ」
「じゃあ、そうさせてもらうよ、二日連続で早起きさせられて、眠くてたまらないからね」
博士たちはロッジを去ってしまった。その後に、フェネックが話しかけてきた。
「イヅナちゃんのこと、悪い子じゃないって思うんだ、どうして?」
「まあ、何となくだけど……」
ジャングルでいろんなフレンズと仲良くしてたり、遊園地ではしゃぎまわったり自分の記憶があることがポロっとばれてしまうような失言をしたり……
記憶のこととか、まだ彼女が何をしたのか一向に分からないことも多い。
だけど、「なんか、悪いことできなさそうだな、って思ってね」
それでも、こうざんで『外に帰りたいの?』と僕に聞いた時の顔、悲しみと恐怖が浮かび上がっていた顔が、脳裏にこびりついて不安を誘うのだった。
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