2章 第6話 結果
オーガとの因縁の対決を制したルトは、あの後全力で集合場所へと戻った。
元々時間に余裕を持って行動していたのが功を奏したのだろう。
遅刻……という事はなく、残り時間1分というギリギリではあるが、何とか滑り込む事ができた。
「……ギリギリセーフ」
「ルト遅かったじゃねーか。何かあったのか?」
と、ルトが呼吸を整えていると、アロンが走り寄ってきた。
少し遅れて、ルティアも到着。彼女も声を上げたアロン同様に心配した様相である。
──オーガについて話すべきか否か。
ルトは迷いに迷った。いくら討伐が完了したとは言え、余計に心配を掛けてしまうのではないかと。
しかし、2人の瞳を目に収めて、やはり彼らにはこれ以上嘘をつきたくはないと思うと、ルトは先程あった事の顛末を簡単に話した。
「オーガ……ですか。この前の生き残りでしょうか。 何はともあれ無事で良かったですわ」
話を聞いている間、不安げな表情を浮かべていたルティアであったが、討伐は既に完了している事を伝えると、ホッと息を吐いた。
「ほんとだよ。ってか、よく倒せたなルト」
続いてアロンも声を上げる。
対しルトは、ニコリと微笑むと、
「纏術のおかげだよ。これが無かったら、どうなってたかわからない」
「……やっぱすげえな、纏術。でも今回はまだ良かったけどよ、予想外の事が起きる可能性もあるんだし、とりあえずあんま無茶はするなよ?」
「うん、ごめん」
仕方がなかったとは言え、あまり心配は掛けたくないなとルトは思った。
と、ここでルティアが疑問を口にする。
「ところで、やはりオーガについては協会に連絡を?」
「そのつもり。前回の事もあって、僕だけで判断するのは危険だと思うし。早速この後向かおうと思うんだけど、もし良ければ、2人も一緒にどう?」
別に1人で行って何ら問題はないのだが、術師協会のような場所はどうしても緊張してしまう。だからこそ、できれば付き添いが欲しかったのだが、
「わりい、今日はこれから用事が」
「私もですわ。今回だけは、申し訳ないのですが付き添えそうにないです」
2人はこの日外せない用があるようで、そう断りを入れた。
仕方のない事である。
ルトは納得すると、
「了解。あとで、1人で尋ねてみるよ」
言って、一度小さく頷いた。
と、そうこうしているうちに大会は終了、次いで集計が始まる。
そして30分後。全集計が完了したと言う事で、結果が発表された。
まず、優勝は圧倒的大差でイグザとなった。
ポイントは圧巻の421。
2位である3年序列10位のビルドのポイントが310であった事を考えると、その差は歴然であった。
意外だったのが、ルティアが3位だったという事だ。
本人曰く、全力を尽くしたとの事だが、そう言う彼女の表情があまり優れなかったりと、何か伸び悩んだ原因がありそうではあった。
続く4位にランクインしたのは、同率でルトとアロンであった。
そのポイントは121。
確かに1位のイグザ相手に3倍以上の差をつけられてはいる。
しかし、多数の上級生が居る中でのこの順位は、序列戦最下位である彼らとしては大健闘であると言えるだろう。
「……4位か。お互い結構頑張ったなルト」
と。1位から3位の人間を集め、表彰式が行われている中で、ルティアの姿を目に収めながら、アロンはボソリと声を発した。
ルトはアロンの方へと視線を向けると、
「うん。少しだけど、成長も実感できたし良い大会だったよ」
「……まぁ、欲を言うならば……俺はルトに勝ちたかったけどな」
「僕も。アロンに勝ちたかった」
互いに序列戦最下位と後がない状態だからか。2人の間には、仲間であると同時にライバルと言える様な関係が築かれていた。
一拍開け、ルティアの方へと目を向けたまま、アロンが力のこもった声音で、
「……ルト、次は負けねーからな」
「負けないよ、僕も」
同様に表彰式の方へと目を向けながら、ルトがそう返す。
と同時に、表彰式の方が終わったようだ。
ルトとアロンは、ルティアを迎えに行くべく、式の場へと歩を進める。
その姿を発見したのだろう。ルティアが2人の方へと走り寄ってきた。
「ルトさん! アロンさん! お待たせして申し訳ないです!」
言ってぺこりと小さく頭を下げる。
「いえいえ。それよりもおめでとう、ルティアさん」
「おめでと!」
「ありがとうございます! ただ、まだ上との差は広いので、精一杯鍛錬に励みたいと思いますわ!」
流石の向上心である。
「だな! おおー! 俺も頑張らねーと!」
「僕も、頑張らなくちゃ」
そしてその向上心に当てられたルト、アロンの2人も同様に声を上げた。
そんないつもの様に仲良さげな雰囲気を醸し出している3人であったが、ここでその雰囲気を一瞬で塗り替えるような力強い声が聞こえた。
「おい! ルティア・ティフィラム!」
イグザである。
「あら、イグザ先輩」
3人がそちらへと振り向き、ルティアが口を開く。
同時にルトとアロンは雰囲気を鑑み、数歩後ろへと下がった。
別に恐怖から下がった訳ではない。イグザの要件が何かわからないとは言え、邪魔してはいけないと考えたのだ。
当然ではあるが、ルトとアロンに邪魔をする権利はないのである。
しかし、もしイグザが危害を加えるつもりならば、2人は咄嗟に助けに行くよう準備だけはしていた。
とは言え、現状イグザの要件がわからないルトとアロンは、数歩離れた状態で声を潜め目前の話題について話し合った。
「何だろう、もしかしてまた告白するつもりかな?」
「いや、流石にそれはねーだろ。あれだけメッタメタにされたんだし。俺なら数ヶ月は告白を自粛するわ」
しかし、イグザならわからない。
2人はそう考えながら状況を見守っていると、不意にイグザがピンと人差し指を立てると、ルティアを指差した。
そしてあいも変わらず威圧感のある強い声音でもって、
「次も負けねーからなっ!」
と口にした。その後、イグザは何故か満足気な表情で、堂々とその場を離れて行った。
一瞬の静寂。
しかしすぐに、アロンが首を傾げた。
「またそれか……。でもなんであんな勝ちにこだわってんだ?」
当然の疑問である。
ルティアに振られ、内面を磨けと言われ、にもかかわらず戦闘でルティアより優位に立とうとしているのだ。
「戦闘狂って呼ばれてるイグザ先輩の事だし、もしかしたら振られたのを負けと考えてるのかも」
「んなバカな……いや、でもイグザ先輩ならもしくは……」
「脳筋そうだしね」
戦闘力を重視するこの世界で、特に戦闘力を前面に押し出しているのがイグザなのだ。
彼を形容する上で、脳筋と言う言葉が最適だと言えるだろう。
「だな。……ってことは、もうルティアちゃんの事は諦めたのかね」
「どうだろ。正直よくわからないや」
他人の考えはよくわからないものではあるが、イグザのそれはより理解できない。
そんな中でも、ルトは1つだけ確信を持っている事があった。
「でもさ……恋愛に取り憑かれて内面を磨くイグザ先輩より、ひたすら愚直に力を求めるイグザ先輩の方が良くない?」
「だな。……まぁでも、とりあえずは良かったんじゃないか? 未だ絡んで来るとは言え、以前とは違って戦闘の事しか考えてなさそうだし」
「これならルティアさんが困る事も無さそうだしね」
「寧ろ楽しそうにしてるぜ?」
アロンの発言を受け、ルトがルティアの表情へと目を向ける。
なるほど、確かに小さく口角を上げているルティアの姿からは、以前のような嫌悪感は見られず、むしろ楽し気な雰囲気が見て取れた。
「恋愛どうこうを除けば、案外戦闘狂は好きなのかもね、ルティアさん」
「本人も結構戦闘好きで負けず嫌いな所があるからな。イグザ先輩に共感を覚えてるのかもよ」
「あーありそうだ」
言って、小さく笑う。
何はともあれ、とりあえず平和に済みホッとするルトとアロンであった。
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