第14話
幾つかの店を回り、クラウスの手にも荷物が幾つか持たれていた。
何度か、店員さんに声を掛けられたが、クラウスに言われた通り黙っていた。
変に思われるかもと思ったが『人見知りする子』という認識され、問題にはならなかった。
「ふぅ・・・」
沢山歩いたので足が痛いなぁと思った所で、目的の店についたのか、クラウスの足が止まる。
そのまま店へと入っていった。
後について入ろうとした所で、美味しそうな香りが漂ってきた。
香りにつられ香ってきた方へ顔を向けると、そこには、見たことのない実が、ほくほくと湯気を上げ売られていた。
(美味しそう・・どんな味がするんだろ?)
「気になるのか?」
いつの間にか、目当ての品物を持ったクラウスが隣に立っていた。
「はい…」
「手を出せ」
「?」
言われた通り手を出すと、手のひらに数枚のコインが乗せられた。
「1袋分ある、買ったらあそこの路地裏に来い」
指さされた路地裏を見る。
そして、もう一度クラウスを見上げた。
「れ?」
そこにはもうクラウスの姿がなかった。
キョロキョロと見渡す。
もしかしたら既に路地裏に?と、首を傾げつつも、コインを見る。
(とりあえず、買って行ってみればいいよね)
コインを握りしめ、美味しそうな実を売る屋台に駆け寄った。
近くで見るとお芋さんのようにほくほくした黄色い実をしていた。
「あ・・あの、1袋下さい」
ドキドキしながら、店員に声をかける。
自分の言葉がちゃんと通じるだろうかと不安に思いながら店員を見ると、にっこりと笑ってくれた。
「あいよ、1袋ね、3ギルだよ」
「えと、あ、はい、これ・・・」
クラウスに渡された3枚のコインを渡す。
「毎度ありっ」
幾つかの実が入った袋を渡され熱さに思わず落としそうになるのを慌てて食い止める。
「熱いから火傷するなよ~」
「は、はい」
店員が笑いながら声を掛けてくれて、少し頬を赤らめながら返事を返した。
今度は落とさないように胸にしっかりと抱きしめると、クラウスの言った路地裏へ走っていった。
「!クラウスっ」
路地裏に入ると直ぐに、クラウスの姿を発見し、嬉しさとホッとした思いで扱けそうになりながらも必死に駆け寄る。
「か、買ってきました!…はぁはぁ…ドキドキしたぁ…」
この歳で初めてのお使い気分を味わうことになるとはと思うと少し笑えて来る。
(でも、なんか嬉しいな・・・)
自分で買えた、ただそれだけなのに。
「はい、これ」
「お前が食べるといい」
差し出した袋をクラウスが止める。
「でも」
「食べたかったのだろ?」
「・・・じゃ、一緒に食べませんか?」
「気にしなくていい」
クラウスにはこの実はそこまで興味のあるものではないようだった。
「では、遠慮なく・・」
無理に勧めても良くないかと思い、素直に引き下がると、手にしていた紙袋を開いた。
ふわっと湯気と共に美味しい匂いが広がる。
「はぁ・・美味しそう・・・」
「ここに座って食べるといい」
近くにあった木箱に勧められ、そこにちょこんと座ると膝に紙袋を置き、一つ実を取り出した。
小ぶりの肉まんほどの大きさの実がパッカリ割れたところから黄色い実がはみ出していた。殻の部分だろう所を割り広げ、しっかりと顔を出した黄色い実の部分に思い切ってかぶり着く。
「はぐっ・・・んん!・・栗?」
味は栗に近かった、栗とサツマイモをミックスしたような、それでいて少しフルーティさがあって、あっさり食べられるような感じだった。
「栗?」
「ええと、私の居た場所にあった食べ物です」
「そう言えば、お前は字もコインもここに住む人も珍しがっていたな」
「それは・・・」
「ふむ、何となくはそうではないかと思っていたが・・・、異空間を超えたか」
「え?」
「この世界の『人』ではないのだろう?」
「!」
「やはりな」
意図もあっさり言い当てられ、それでいて認められたことに思わずキョトンとしてしまう。
(普通、違う世界から来ましたー!ってところで一悶着あるというか見せ場だと思うんだけど・・・あれ?)
「世界は幾つもの世界で成り立っている、極たまに、その世界から世界へ渡ってしまうモノがいる」
「へぇ・・・」
あまりにもの拍子抜けな展開に、情けない声が出てしまう。
「あの森にあんな時間に居ること自体がおかしいと思ったが、やはり、そうだったか・・・・」
「クラウス?」
何かを考えこむように口を閉ざす。
あまりにも、そこから深く考え込むように黙り込むので、不安になり、クラウスに手を差し伸べた瞬間、後ろで何かが扱けるような音を聞いた。
「うわぁぁああっっ化け物!!」
ハッとして、後ろを振り向くと男の子が驚いて尻もちをついていた。
「あ、あの・・・」
「うわぁあああぁあああっっ」
フードを脱いでいたクラウスを見て恐怖に泣き叫び走り逃げていこうとする男の子。
「待てっ」
クラウスの呼びかけも耳に入らないのか、恐怖に慄いた男の子は一目散に逃げていく。
どうしようとオロオロする目にふわっと浮く手紙が映る。
(もしかして、あの男の子の?)
その手紙がクラウスの手に乗る。
(だから呼び止めて… 止めないと!)
「待って!待ってってば!」
大きな声で呼びかけたけれど、全く聞いていない。
(「待って」じゃだめだ・・えと・・・)
「手紙!手紙落としてる!!」
慌てて大きな声で叫ぶと、男の子がピタッと立ち止まった。
「あ、あ、て、手紙、手紙、ないっない!」
手やポケットを慌てて探す男の子。
「こ・・・」
「ここにあるよ」と言いかけて辞める。
この街で気づいたけれど、クラウスのような姿の人はいなかった。
クラウスと出会って、初めて見た時は確かに怖いと思ったけれど、一緒に住んで怖い人でないと解ってからは、この世界にはこういう人が住んでいるんだと思っていた。
でもそれは、街へ出て違うと解った。
街に来てからクラウスは深くフードを被っている。
この街の人たちでもクラウスの姿は怖いのだ。
現に今、この男の子は「化け物」と叫び恐怖した。
そんなクラウスの手に持たれた手紙。
「ここにあるよ」と言ってこちらを見た瞬間に慄いて逃げてしまうかもしれない。
(だったら・・・)
小春は男の子に駆け寄る。
「手紙が、ない、ないよっっ」
「大事な手紙だったの?」
「うん、あれは出稼ぎに行った母ちゃんから届いた手紙なんだ!」
その手紙が無くなったことに、男の子の目に涙が浮かぶ。
「大丈夫、手紙はあるよ」
「え!どこに?」
ゆっくりとクラウスを指さす。
「ひっ!!」
男の子が悲鳴を上げ後退る。
「あ、手、手紙が・・・どうしよう」
クラウスの手に持たれた手紙を見つけ、さらに半泣きになる。
「大丈夫、姿は怖いけど、優しいんだよ」
「・・・嘘だ」
「本当だよ、お姉ちゃんが一緒についていってあげるから一緒にいこ」
「え・・・一緒に行ってくれるの?」
「うん、お姉ちゃんの知り合いなんだ」
「!ほんと?」
「うん、物凄く優しいんだよ」
「ほんとにほんと?」
「本当に本当、ほら怖いならお姉ちゃんにしがみ付いていていいよ」
「う・・うん」
男の子が小春の腰に抱き着く。
そして、恐る恐るゆっくりと、一歩、また一歩と近づく。
「うぅ・・・」
近づいてきたことでハッキリ見えるクラウスの姿に小春の腰に抱き着く手が強くなり、そのまま足が止まってしまう。
「大丈夫、大丈夫、お姉ちゃんを信じなさい」
「でも・・・」
「ほら、全然動いてもいないでしょ?」
「う・・うん・・・」
「手紙までほら、もうすぐだよ」
クラウスの手に持たれた手紙を見、勇気を振り絞るようにまた男の子が歩き出す。
そしてクラウスの目の前まで来た男の子の体が目にも解るぐらいにガタガタと震えていた。
「ほら、手を出して」
「ぅぅ・・・」
怖くて固まり震えまくる男の子の手をそっと掴む。
「怖いならお姉ちゃんも一緒に手を握ってあげるから」
既に怖くて言葉が出なくなった男の子はコクコクと大きく頷く。
そんな男の子の手をゆっくりと上げて、クラウスの前に差し出す。
「クラウス」
クラウスに呼びかけると、その小さな掌にそっと手紙を置く。
「!」
男の子は驚いたように手紙を握りしめる。
そして、自分の手の中にある手紙を見、クラウスの手を見る。
「ほ、ホントだ!ちゃんと手紙返してくれた!!」
「言ったでしょ」
「うん!怖い人じゃなかったんだね!」
「ええ、とっても優しいのよ」
「あの」
男の子がクラウスを見上げる。
「ありがとう!」
そういうと、男の子は、引き返さずクラウスの横を通り抜ける。
「こっちのが近道なんだ!じゃ、またね!」
そのまま路地裏を男の子は駆け抜けていった。
「クラウス?」
駆け抜けていった男の子の背を見送り、クラウスに振り返ると、手を唯々見つめる姿がそこにあった。
「信じられん・・・」
ポツリと呟く。
「私の手から・・・しかも、礼を・・・」
「うん、ちゃんと言ってましたね、私も見てまし・・・わゎっっ」
ふわっと体が宙に浮かぶ。
あまりに突然で手足をバタつかせた小春がギュッと抱きしめられる。
「やはり、お前は・・・・」
「?」
「いや、何でもない、帰るぞ」
「え・・あ、はい・・あ、でも荷物!」
慌てて荷物を振り返ろうとする目に荷物が浮かぶ。
そしてクラウスの手にしていた小さな袋にどんどん吸い込まれていく。
「は???どうして大きなものまで入っちゃうんですか?!」
明らかに袋と荷物の大きさの対比がおかしい。
クラウスの掌の小さな袋にその何倍も大きな荷物がどんどん消えていく。
「ああ、これは魔道具だ、この世界には無い物だ」
「え?」
袋に荷物がすべて入ると、それをポケットに入れる。
「顔は出すな、遅くなった、一気に帰るぞ」
小春をまたすっぽりと布の中にくるみ込む。
いつものように小春を胸に抱く。
小春も次に来る風圧に備えてクラウスの胸にしがみ付いた。
全ていつものようにのはずなのだが・・。
何となくなぐらいの、ほんの少しの違和感が。
「?」
気のせいかもしれない。
だけど、ほんの少しだけいつもより強く抱きしめられている気がした。
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