第9話
”クラウス様、嬉しそうだな…”
”ええ、ええ…、とても、あんな幸せそうなクラウス様を見たことがありません”
そう言いながらも、嬉しそうに小春の口に食べ物を運ぶクラウスを複雑な眼差しを送る4匹の黒ふわ魔物。
”本当に、ああ、嬉しそうに… ですが…クラウス様…”
セシルがフルフルと体を揺らす。
”クラウス様・・・それはどうみても・・・『餌付け』です!!”
セシルがホロホロと涙を零し、残りの3匹は苦笑いを零した。
”余程この料理が気に入ったとはいえ、彼女には羞恥というものがないのだろうか?”
”いやいや、あの容姿で差し出されたら嫌とは言えないでしょ、流石に”
”なぁ、いいのか?ほっといて?”
この心配、そして複雑な眼差しは、この食堂に小春が連れて来られてから終始続いている。
”小春が起きたようだ”
”私が連れて来よう”
”レオナール様、お願いします。では、私はクラウス様にお知らせを…”
”じゃ、僕は料理長に言ってくるよ”
”いいですか、ここに来られても、小春様が心地よく居られるよう皆、細心の注意を払ってくださいね”
頷く4匹。初めは、意気揚々と行動を開始した黒ふわ
だが、その心意気も小春が来てクラウスの行動に脆くも崩れ去っていく事になろうとはこの時は誰も予想だにしていなかった。
”いいのか、おい”
エヴァが、つんつんとセシルを小突く。
”クラウス様がお望みですから…”
そういうセシルも心配そうな眼差しで終始注視している。
”いや、しかし…、彼女が承諾するとは到底思えないが…”
レオナールも意味が解らないというように二人を見つめる。
”ねぇ、これって、彼女に嫌われないかな?”
”””!!!”””
マークの最後の止めの言葉に、焦りと同時にドバっと汗が噴き出す。
”と、止めた方がよくねぇか?”
”でも、どうやって?”
”座る席を用意すればいいのでは?”
”ですが、クラウス様のお気持ちに反することに…”
”でも、彼女に嫌われちゃったら意味なくない?”
”うっ…ですが…力は抑えられたとは言え、逆鱗に触れても厄介―――”
”あー、料理も来ちゃったよ!どうすんだよ、おいっ”
”クラウス様、自分の前に置いちゃったよ、料理!”
真っ青になりながら、クラウスと小春を見る。
”しかし…クラウス様が、こんな方だったとは…”
”いえ、私の知る限り、クラウス様は女性を自分に近づけるような方ではありません、むしろ、毛嫌いしている節もあります。男性でも信頼できるものでしか近づかせはしません”
”まぁ、俺の知る限りでも、クラウス様の周りには俺らぐらいしかいなかったし、女性といる姿は見たことがなかったな・・・”
”う~ん、でも、執着するのって魔族なら普通でしょ?気に入ったものは手に入れたいし、そこから付随するのが破壊的であったり、殺戮的であったり、まぁ病的な溺愛だったり色々だったりするわけで、クラウス様は溺愛系?”
”それはそうなのだが、昨日出会ったばかりだぞ?力も何の能力も無さそうだったから素性は解らないが害はないと判断し、クラウス様の元にとは思ったが…”
”100年の孤独が… そうさせたのかもな?”
エヴァの言葉に、今までの孤独に生きてきた100年間のクラウスの姿を思い出させる。
”やはり、クラウス様の思うままに…”
”そう思う気持ちも解らなくはないが、だが、これで彼女に嫌われてしまえばまた逆戻りだ”
クラウスの気持ちを取るべきか、今は彼女に嫌われないための行動を取るべきか二者択一を迫られ焦る。
”大体、初っ端から膝はないだろっ膝はっ”
”昨日は昨日で、会ったばかりなのに抱いて離さないし、自分の今の姿ちゃんと解っているのかな?普通ならとっくに逃げ出されててもおかしくないと思うけど”
”本当に、ここまで残っているのが奇跡だ”
”ええ、昨日が心底嵐であってくれて本当に良かったと思いますよ。晴れていれば逃げられていたことでしょう”
”「ことでしょう」じゃねぇ、大体お前、クラウス様の幼少期からお仕えしている執事だろ?どういう教育してたんだよっ、女性の扱い方ぐらい教育しとけよ”
”だから、必要なかったんですよ、まずクラウス様自身が女性を近づけないし、もし何かあっても今まではその女性を消せばお終いの話でしたから”
”何か今、クラウス様に女性が近づかない理由が分かった気がするー(棒)”
”そうじゃなくて、クラウス様自身からの女性エスコートをだ!”
”は?我が主、クラウス様がエスコート?ふふ、何を仰っているのでしょう?エヴァルド様、ご冗談を仰っているだけ…ですよね?だってクラウス様ですよ?ふふふ、そんな事あり得ません、いえ、あってはならない!そうでしょう?彼は全ての主君になるお方です!”
”何か今、クラウス様が女性の扱い知らない理由が分かった気がする―(棒)”
”はぁ…、その不毛な議論は後にして、クラウス様の意志を取るのか、彼女を取るのか、どちらにするか早く結論を出さねば―――”
”あ、動いた”
”!!”
バッとクラウスと小春を見る。
すると、小春が顔を真っ赤にさせながら、恐る恐るクラウスに足を一歩、また一歩と踏み出していた。
”マジか…”
”うむ…、あの表情から察するに、嫌っている様子には見えないな”
”かっわいい♪顔真っ赤っ赤!はぁ、もっといじめたくなっちゃうね…”
”そうか?俺は苦痛に歪む方が好みだな”
”なんかエヴァらしい‥、僕はやっぱり心を失くすまで苛め抜く方が楽しいなぁ”
”お前いじめんのホント好きな、部下が嘆いていたぞ”
”あ、めちゃくちゃ噛んでる!かっわいい♪”
”コホン、低俗な魔族談話は今は慎んでください”
諫めるようにセシルはピシリと言うと、エヴァとマークは慌てて口を噤んだ。
そして、改めて二人を見守る。
”とうとう膝に乗せちゃったね”
”これで本当にいいのか?おい”
”クラウス様が、お望みですから”
”すっごく嬉しそうだね、クラウス様”
”私には到底理解は出来ないが、まずは問題クリアと言ったところか…”
”うーん、でもー、これって食べさせようとしてる?”
”な・・・”
”マジか・・・”
”クラウス様・・・、クラウス様が・・・・”
唖然とする黒ふわ4の目の前で、小春の前に切った肉を差し出すクラウスの姿が。
”まさか、食べるのか?”
”流石に、自分の手で食べるだろう”
”いやいや、解らないよ、ほら迷ってる迷ってる”
”もうこれ以上勘弁してくれっ、小春にマジで嫌われっぞ!”
”でも、そこまで嫌そうでもない顔にも見えるけど?”
小春の様子を伺うように全員が注目する。
”失礼とは思うが、あの爪で差し出すって、なかなかグロイ図だな”
”ああ、あれはどう見ても拷問としかみえん”
その、なかなかに異様な状況に緊張から黒ふわ4の背中を汗が流れ落ちる。
クラウスの顔と肉を何度も何度も見る小春の様子を固唾を飲み見守る。
そんな中、小春が動きを止め肉を見つめ出す。
”ゴクリ”と生唾を飲み込む黒ふわ4。
すると、小春が意を決したようにパクっと肉に食いついた。
””””食べた!””””
その瞬間、クラウスの顔が無表情ではあるがパーッと明らむ。
そして驚いたように自分の手をじっと見つめる。
”食べたね…”
”ああ、食べたな”
”クラウス様も驚いているね”
”ああ、驚いてるな”
しばらく自分の手を見つめていたクラウスだが、自分の手から食べたのが嬉しかったのか、そのまませっせと肉を切り分けては小春の口に運ぶクラウス。
”クラウス様、嬉しそうだな…”
”ええ、ええ…、とても、あんな幸せそうなクラウス様を見たことがありません”
そう言いながらも、嬉しそうに小春の口に食べ物を運ぶクラウスを複雑な眼差しを送る4匹の黒ふわ魔物。
”本当に、ああ、嬉しそうに… ですが…クラウス様…”
セシルがフルフルと体を揺らす。
”クラウス様・・・それはどうみても・・・『餌付け』です!!”
セシルがホロホロと涙を零し、残りの3匹は苦笑いを零した。
”どうみても、野良猫が初めて自分の手から食べた…みたいな?”
”そのままだろ?”
”コホン、何というか、百歩譲って、クラウス様の癒しになるのは間違いはないだろう”
”まぁ、確かにね~、動物は癒しだもんね~”
”魔物の私たちからしてみれば、人間も小動物のようなモノです、そうですね、そう考えると、クラウス様の『餌付け』も悪くないのかもしれませんね”
”お前ホント、クラウス様のことになると許容範囲広いな”
”もちろん、クラウス様は、マイロードですから”
”しかし、彼女は苦労するだろうな”
”ホント、よくここまで耐えているよね~”
”呑気なことは言っていられません!クラウス様の手から食べたと言っても、ここから出ていかないと決まったわけではないのですから!”
”あー、俺たちも苦労しそうだな~…はは”
”そうだねー”
若干、疲れの色を見せながらも、小春を改めてクラウスの傍に居る者にふさわしいと判断した黒ふわ4は、小春を館から出すまいと誓ったのだった。
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