第7話
”おいっ、どうだった?”
一匹の黒ふわ魔物が、残りの3匹の元へフラフラと力なく浮遊し飛んでいく。
”いやぁ、ビックリしたよね~!まさか、クラウス様、自分の部屋に女を連れ込むなんてさぁ~”
”言葉を慎め、マーク”
”で、どうだったんだよ、セシル”
力なく飛んできた黒ふわ魔物に3匹が群がる。
”誠に… 信じられません”
信じられないものを見たかのようにふら付く戻ってきた黒ふわ魔物。
”信じられないとは?”
”何々?ちょっじらさないで早く教えてよ♪ワクワク”
”まさか、〇〇とか、××とか… ゴフッ”
先ほどまでふら付いていたのが嘘のように猛突進で下品な言葉を吐いた黒ふわ魔物に激突する。
”エヴァルト様、我が主をどういう目で見ておられるのか、一度じっくりとお話ししないといけませんか?”
”いや、遠慮しておく… 、で、信じられないってどういうこった?”
”うむ、クラウス様は寡黙で冷静なお方だ、今の状況で何か行動に出るとは思えないが・・・?”
”まぁね~、あの魔物の僕たちでさえ、初めてあの姿を見た時は恐怖で怯えたし、あの姿で迫られた日にゃ、女なら飛んで逃げちゃうでしょ”
”ましてや、小春は今日出会ったばっかりだ、しかも、セシルが風呂場で残っただけでも怖がったくらいなのだ、慎重にいかなくては…”
うんうんと頷くように4匹の黒ふわ魔物が頷く。
”小春を逃したら、クラウス様の元に話が出来るモノがもう二度と現れないかもしれない”
”しれないじゃなくて、ほぼ確定でしょ、それ。だってもう既に100年現れなかったんだからさ~”
”ああ、初め小春がクラウス様に抱きかかえられて戻ってきた時は夢でも見ているのかと目を疑ったからな”
”俺は小春もそうだけど、あんな嬉しそうなクラウス様を見るの久しぶりで嬉しかったぜ”
”ええ、ええ、100年です、100年。誰とも話すことも出来ず、ただただお独りでこの館でお過ごしになるクラウス様を見てきました。私たちがこうして傍に居るというのに話すことも出来ず、気づかせることも出来ず、ただただ寂しそうに苦しそうに過ごすクラウス様を見守るしかできなかった100年”
―――――――― ついに!!
感慨深く、4匹の黒ふわ魔物が黙り込んだ。
”絶対に、小春様を逃してはなりません”
セシルと呼ばれている黒ふわ魔物の言葉に3匹が硬い決心を固めたように頷いた。
”でもよ、人の寿命って短いっていうだろ?2~300年ぐらいか?”
”私の知る限りでは、80年ぐらいとか…”
”はぁ?たったそれだけか?!”
”って、待って、小春って見た感じだと10代?多く見積もって20歳ぐらいだとして、たった60年しか一緒に居られないの?”
”はぁ…、あまりにも短い、短すぎる… やっとクラウス様の元に話ができる者が来たというのに…くっ”
落ち込むように静まり返る。
”それでも、です”
セシルが口を開く。
”ほんの僅かしかなくとも、二度と訪れない事を考えれば、このひと時だけでもクラウス様には安らぎが必要です”
セシルの言葉に3匹が頷く。
”そういや、何か人を長生きさせる方法とかって魔法とか薬とかないのか?”
エヴァルトの言葉に光を見出す3匹。
”調べてみる価値はありますね”
”うむ、小春の寿命は追々調べるとして、まずは小春をここに長くいてもらえるようにしなくてはなるまい”
”小春ちゃんに、ずっと居たーい♪って思わせるってことだね”
”そういや、その肝心の小春、クラウス様の部屋に連れてかれたんだったよな”
そこでハタっと思い出すと同時、3匹はセシルを見た。
”ああああ、そうでした!そうですっ!あああ、信じられません!”
セシルがまた大げさにリアクションする。
”だから、何なんだよ”
”早く教えてっ”
”何があったのだ?”
3匹が急かす。
セシルは一つ息を吐くと3匹に向き直った。
”あまりにも信じ難い光景で、今も夢を見たのかと思ってしまいそうになりますが、私は確かに見ました”
ゴクリと生唾を飲み込む3匹。
”クラウス様が小春様を抱きベットで仲良く寝る姿を”
3匹が硬直する。
”ま、まて、それは誠に真実なのか?あの、クラウス様が??出会って間もない素性のしれない女を?!”
”うらやましーなー”
”クラウス様もやるときゃやるなっははっ”
”いえいえ、違います”
3匹の要らない思考を止めるようにピシャリと言い放つセシル。
”雷に怖がる小春様を抱きしめ、小春様もクラウス様の腕の中で包まって仲睦まじく横になっておいででした”
「な~んだ」と、ホッとする3匹。
だが、次の瞬間、大声で絶叫していた。
”はぁああ??””えええ?!””なっ”
”ちょ、ちょと待て、よく考えたら今のクラウスのあの姿で、一緒に?仲良く?”
”そう言えば、彼女はこの館に来るときも怖がる風でもなく、クラウス様に抱きかかえられていたな”
”怖がってないの?怯えてなかった?”
3匹がまたセシルに注目する。
セシルは、落ち着いた声でハッキリと答えた。
”安心したかのようにぐっすり眠ってらっしゃいました”
この言葉に、3匹は唖然とセシルを見た。
”ほ、本当に?”
”なぜ、彼女は怖がらないんだ?”
”だが、視点を変えれば、彼女はここに残ってくれる可能性が極めて高いともいえる”
”そうなのです、クラウス様を怖がっていない、風呂場の件でもそうですが、クラウス様が大丈夫と仰った後は、私を怖がることもございませんでした。クラウス様に信頼も寄せていると見受けられます。ですが…”
”どうした?何か引っかかるのか?”
セシルが頷く。
”入浴中、小春様がおっしゃった言葉が引っかかっております”
”何と言ったのだ?”
”小春様が少しでも寛げ気に入ってもらえるように湯にバラを浮かせ女性が気に入る甘い香りをご用意し、その香りもバラも気に入ったご様子で湯浴みを寛いで頂いていた…までは良かったのですが…”
はぁっと、ため息をつく。
”『住み込みの仕事探さないと』と、お呟きになり…、急いでここに居ていいのだと言ったのですが、人には言葉が聞こえずそのまま…”
”住み込みの仕事?!”
”出ていく気満々じゃん”
”彼女にしてみたら、嵐がくるから泊めてもらった程度なのだろう”
”クラウスや俺たちが怖くないなら、後は、ここに居ても良いと何とか知られせれればいいのだが”
”言葉が通じないし、ペンを動かすような繊細な魔力もないし、う~ん…”
”クラウス様に望みを掛けるしかないか…”
”そのクラウス様は、寡黙な方だからな‥‥”
またも、全員で大きなため息をついた。
”落ち込んでいても仕方がない、クラウス様に望みを掛け、彼女が居心地のいいように私たちは動こう”
”それしかないしな”
”うんうん”
”後は・・・・これですね”
セシルが窓を見る。
3匹も窓を見、激しく鳴り響く雷で窓が震え、ピカピカと光をチラつかせるその窓を睨む。
”あの方に、小春の存在が知られないでいるのは難しいだろう、何としてでも彼女を守るぞ”
レオナールの言葉に全員が頷く。
こんな会話が繰り広げられているとも知らずに、小春は心地よい夢の中に居た。
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