第6話

「いいんですか?こんな豪華な部屋に泊めてもらって?」


案内された泊まる部屋に入り戸惑う。

お姫様の部屋かという程に、豪華で広い部屋。


(なんだか落ち着かないなぁ…)


泊めてもらえる部屋に連れてってもらえて、やっとゆっくり出来ると思ったら、すご過ぎる豪華な部屋に連れてこられてしまったのだ。

一般庶民の小春には広過ぎて豪華過ぎて気が引けてしまう。


「問題ない」


素っ気なくクラウスが口にする。


(まぁ、こんな部屋に泊まる機会なんてそうあるもんじゃないし、ま、いっか…)


異世界に来てからたくさんの出来事があり、もうヘトヘトだった小春は、戸惑いつつも早く休みたい気持ちが勝ち、恐る恐る部屋に入る。


「足りないものがあれば言え、すぐに用意する」

「いえ、泊めてらえるだけで充分です…」


こんな豪華な部屋に泊めてもらえるだけで、これ以上求めるなんて到底できないと小市民の小春は首を横に振り遠慮した。


「遠慮はいらない」

「ですが…」


ガタガタ・・・・・


窓が激しく揺れる。

「嵐が来ている、今日は少し煩いかも知れない」

激しぐ横殴りに降る雨と風。

あのまま、あの森に放置されてしまったらどうなっていたかと考えると、クラウスに拾われ泊めてもらえて、本当にラッキーだった。


「何かあったら呼べ」

「はい」

「ゆっくり休むといい」

「ありがとうございま―――――――」


ドッガアアアンッッッ――――――――――!!!


「ひゃっっ」

凄まじい爆音にクラウスに抱き着く。

間近に雷が落ちた罅割れるような爆音に鼓膜が震えた。

「ち、近くに落ちませんでした??」

「問題ない」

「問題なくないですよ!絶対近くに落ちた―――――」


ドッガアアアンッッッ――――――――――!!!


「きゃっっ」

更に間近に落ちたのか今度は鼓膜どころか体全体が爆音に震えた。


(ヤバい、やっと安心できたと思ったけど、ここも危ないかも‥‥)


「こ、ここも危ないかもしれませんっ」


ドッガアアアンッッッ――――――――――!!!


「きゃぁっっ」


(雷が近すぎる!)


「・・・・怖いのか?」

必死にしがみ付き震える小春をそっと抱き上げるクラウス。

「は、はい、だから、逃げ・・・・きゃぁっ」


ドッガアアアンッッッ――――――――――!!!


抱き上げられた事でクラウスも危険と感じて、どこか安全な場所に連れて行ってくれるのだろう、そう思った小春は必死に頷く。


(こんなに近くに大きな雷が集中して落ちてる…ここに居たら死亡フラグ立ちまくりじゃん!)


だが、今、あの魔犬の時と同じくラッキーなことにクラウスが傍に居る。

あの超猛スピードで高速移動が出来るのも知っている。

こうして抱き上げられたということは、ここから安全な場所に連れて行ってもらえる、そう安心して、爆音に耐えるようにクラウスにしがみ付いた。


ドッガアアアンッッッ――――――――――!!!


「ひゃっ」

「・・・・」


激しい雷の音が鳴り響く。

一向に遠のかないその音量に、少し不安になる。


「クラウス・・・?」


逃げないのか?と訪ねようとしたら体が柔らかいモノに沈み込んだ。

それがベットであることに気づくのに数秒掛かった。

そのまま自分の体をすっぽり包み込むように抱きしめられる。


「こうすれば、何も聞こえぬ」


確かに、あれだけの爆音の雷の音が、聞こえなくなった。

だが、根本の問題が残っている。


「早く、逃げないと・・・」

「問題ない、

「え?」


(この館には落ちないっていうこと?)


「なぜ?」

「嵐は違うが、雷は嫌がらせだ」

「?」


(嫌がらせって?誰に?どうして?)


疑問が次々の頭に浮かぶ。

そんな小春を少し抱き寄せる。

真っ暗で音の無い中、クラウスの声だけが耳に届く。


「こうしていれば、怖くないだろう?」


(怖くないけど・・・怖くはないけど・・・この状況って・・・)


少し落ち着いてくると今の状況が冷静に見えてくる小春。

クラウスの腕の中だと意識すると、今度は顔が火照ってくる。


(いや、相手は人には見えない魔獣だけど・・・これって不味い状況じゃ・・・・)


バクッバクッバクッバクッ・・・・

真っ暗で無音なので自分の心臓の激しい音がハッキリと聞こえる。


(あああああ、一人になるチャンスを、ゆっくり出来るチャンスをもしや見逃した?!)


激しい後悔に打ちひしがれる小春の耳元にクラウスの低音ボイスが響いた。


「安心して眠るといい」


(眠れるかい!)

小春は心で盛大に突っ込みを入れる。


(ゆっくり後は休めるはずだったのに…)


とはいえ、あの爆音の雷に果たしてゆっくり休めたかは謎だ。

そう考えると、無音で真っ暗なのは有難いのかもしれないと、ふと思い至る。


(それに、接していると人に感じるけど、姿は人かどうかも解らないラスボスのような魔獣な感じだし、男の人に抱きしめられているわけでもない・・・ってことよね?)


そう思った後、思わず苦笑いを零す。


(異世界に飛ばされ、魔犬に襲われ、ラスボスのような人に救われ、そのラスボスに今ベットで抱きしめられて寝ているって、どうよ・・・私)


たった数時間で起きた出来事が、すべてが突拍子もなさ過ぎて、逆に笑えてくる。

落ち着かせるようにふぅっと息を吐くと、また暗闇と無音が押し寄せてきた。

普通ならこの状況、恐怖を感じる場所だ。


(でも、何でだろう、怖くない・・・むしろ、安心する・・・)


少し温かなクラウスの体温が伝わり、それが安心させるのだろうか?


そんなことを考える小春の思考が徐々に微睡んでいく。

小春が思っている以上に、身体は疲れていたのか、気づけは深い眠りについていた。

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