100年後の世界

 目の前にいるコイツは、この世界がどうなっているのかを俺に話してくれた。

 それを俺なりに少し簡単に纏めてみる。



 ———100年前、人類と呼ばれる存在がいた。

 彼らは地球を支配していると言っても過言でないような知性の高い生物で、かなりの数がいた。

 そして人類は地球の上で、または異なる星の上で、繁栄していたのだそうだ。

 人類は、何光年とかかる惑星を数年でたどり着く程の技術を持っていた。



 そこまでは、俺的にはあまり驚くことじゃない。だって、コールドスリープを受ける前の世界の事柄そのままだし。言われなくても知ってるし。


 ・・・ただ、もうすでにその時代から既に100年過ぎているのには驚いた。

 俺が思うよりも、随分と時間は経過してしまっていたらしい。


 けど問題はそこではなく、むしろここからだった。



 ———彼らは機械に感情こころを持たせようとした。結論を言うと、その試みは成功した。

 人類はその事を奇跡が起きた、と驚いたのだそうだ。

 けどその後は、人類にとって最悪の結末を辿る事になる。


 ———人類は自ら造った機械に裏切られた。

 感情こころを持った機械は人を殺した。視認した人という存在、全てを殺し尽くしたという。


 ———なぜ機械達がそのような暴挙にでたのかは、イマイチ定かではないのだそうだ。

 そして、人類が全ての頂点に立った時代を旧世代と言い。

 現在は。

 人類が消え、変わりに感情こころを持つようになった機械達が全ての頂点に立つようになった。


 






「・・・えっと」


 そもそも俺は、人類は絶滅した、なんて言われた地点で軽く目眩がした。

 それだけでも、かなりの衝撃を受けたのに。

 急にこんな事実を言われても、反応に困る。


「トハ言エ、君ノヨウナ奴ガイル事ヲ、考エル二・・・。人類ハ本当ノ意味デ、絶滅ハシテイナイダロウ」

「あ、うん」


 今も色んな事を話しているこいつには悪いが、正直いまいち話が頭に入ってこない。

 いや、さっきの話があんまりに強烈過ぎた。話してくれてからそれなりに時間は経ったのに、それでも俺の頭の中は混乱の真っただ中だ。


 まあ、少し頭がぼんやりしているのも関係しているのかもしれない。


 けど、多分こいつは嘘を話していない。

 それだけは何となく分かる。

 何故なら、聴こえてくる電子音こえはあまりに真剣だからだ。


 ただ、1つ疑問がある。右も左も分かっていない状況で説明してくれるのはありがたい。

 けれど、どうしてそこまで俺に親切にしてくれるのだろう?


「人類ガ生キテイルノハ・・・モシカシテ、アノオ方ハ実ハ知ッテイタノカモシ、」

「ごめん、話を遮る形になるけどいいか?」

「ウン?ナンダ?」

「いや、失礼な話かもしれないけど・・・。何でお前は会った事のない俺に、こんな親切にしてくれるんだ?」


 本当に善意で俺に親切にしてくれているのなら、不躾もいいところな言い方なのだが・・・。


「最モダナ。ソリャア疑ウノガ、アル意味普通ダロウ」


 こいつは納得したように頷いている。その様子は、気を悪くしたようには見えない。



「人類ヲ、コノ目二見タ事ハ 今マデ無カッタンダ。ダカラ、少シ興味ガアッテネ。

 今マデ、人類ガドンナ存在ダッタカナンテ、話デシカ聞イタ事ガナイ。シカモ大体ガ同ジヨウナ話バカリシカ、聞カナイシ」


 ようは、


「人類について、もっと知りたいって事?」

「ウン。ソウイウ事。ソレニ、困ッテイル誰カを助ケルノハ 悪クナイ」

「・・・そうか。やっぱり遠隔操作されたロボットじゃないな、お前」


 ロボットを操る操縦者であった人類は、もうこの時代にはいないとされている。

 その真偽はいまいち分からない。まず俺がここに存在している地点でその話は矛盾しているし。

 けど、そう思われても仕方ないくらい人類の数が減っているのは事実なのかもしれない


 でも、こいつは人類が存在している事を知らなかった。もし人が遠隔操作していたのなら、流石に知らないなどとは言わないだろう。

 少なくともそうであるなら、驚いたりはしないハズ。

 だから、人ではない。そう思う。


 それにまさか、ロボットがロボットを操る訳でもないだろうし。


「モチロンダ。私ガ操ラレラレル理由ナド、ナイ。」

「という事はお前はやっぱり、話に出てきた『感情をもった機械』なのか?」

「ソウダ。・・・・アト私達の事ハ、ロボット、トハ呼バナイ」


 発する電子音には、少し怒りがまじっている。どうも、俺はこいつの地雷を踏んでしまったのだろうか。

 ロボット、と呼ぶ事は触れてはならない逆鱗だったらしい。



「ロボットハ、感情ヲ持タナイ機械ノ事ヲ指ス。私ハ感情ヲ持ッテイル。ソノヨウニ言ワレルノハ、イササカ不愉快ダ」


 ああ、そういう理由か。同じ機械であっても、そもそもの種類が違うのだから一緒にはされたくないと。

 大体言いたい事は分かった。

 というか、同じ機械なのににそんな違いがあるんだな。

 初めて知った。



 ・・・・あと原因は分からないが、妙に俺の体が熱い。どうも、俺の体の調子は狂ってしまっているようだ。



「ごめん、そういうのを知らなかったんだ。けどなんだ、じゃあお前はどう呼ばれたいんだ?」

「・・・・私達ノ事ハ 一つノ種トシテ機械生命体ト、ソウ呼ンデイル。ソウ呼ンデクレタラ、イイ」

「機械生命体・・・。分かった、次からは気をつける。」


 機械生命体という呼び名は誰がつけたのだろうか。考えようとしたが、そもそも頭が回らない。


 ・・・・どうも、頭がぼんやりする。目に写る視界が僅かに歪む。

 さっきよりも、ずいぶんと体調が悪化してしまっている。


「・・・・?オイ、ドウシタ?」

「・・・・いや、なんでもない」


 心配しているのか、至近距離でこいつは俺を覗き込んだ。


 ・・・・その、近い。


「少し体の調子がよくないだけだ。多分直ぐに治る」

「・・・・我慢ハ、ヨクナイ。無理スレバ、ナオサラ悪クナル」


 ごもっともな意見だが、近くに病院があるわけでもないのでどうしようもない。


「丁度、ココノ近クニ動物・・・・・?ッテ言ワレテイル生物で、何カ実験シテイルラシイ機械生命体がイル。

 確カ、人類モ動物ト同ジ生物ニ入ル・・・・ヨナ?」

「ああ、確かにそうだが。・・・・・というか、人類以外の生物はちゃんと生きてるいるんだな」


 てっきり、こちらもこちらで絶滅状態なのかと思ってた。


「けど・・・・・まさかそいつに治してもらう、なんて言わないだろうな」

「ソノツモリダガ?」


 それがどうしたのか、と言わんばかりの口調である。・・・無茶も良いところの話だ。


「そもそも、人間を治してくれるハズ無いだろ。・・・治すどころか、実験体にされそうな気がするし」


 数がほとんどいないであろう希少な人間を見つけておいて、そのまま大人しく治療してくれるだろうか。間違いなくあり得ないと思う。

 それに俺はまた、あんな目にあいたくない。


「・・・というか動物ってモノ自体がかなり大きなカテゴリだ。仮に、今の俺の体調を治してくれるとしても、体の仕組みが違いすぎてお手上げかもしれない」


 このままだと本気で、実験マニアの元につれて行かれそうな勢いなので出来る限り抵抗してみる。

 何か方法があるというなら、考えないでもない。けどそれは、その方法とやらがある時の話だ。


「安心シロ。オ手上ゲ状態ニナルカハ分カラナイガ・・・。

 トモカク君を治療サセルヨウニハ、スルサ。少シ、アテがアルカラナ」


 ・・・そんな切り札があるのなら、先に言ってくれ。頼むから。


「そのアテって言うのは何の事だ?」

「コチラノ話ダ。トモカク行コウ。・・・・行クナラ早メガ、イイダロウ?」

「・・・・ああ、そうだな」


 しばらくして、俺達はその実験マニアの所を目指し始めたのだが・・・・。

 アテというのが何をさしているのかは最後まで、結局教えてくれなかった。

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