第6話

10台の馬車と50名の近衛兵を引き連れて、首都までの旅は続く。

もともとお忍びという事もあって、道中に有る小さな町には極力立ち寄らず、夜も野営でやり過ごす。


レオの街を出て三回目の夜、私はカーラ様用のテントで過す事を許されている。

テントと言っても床には木が敷き詰められ、2重にはられたテント生地は外気の侵入を許さない。

組み立て式のベットやテーブルまで用意されていて、控えめに言っても私の部屋より数倍快適だ。

カーラ様を向にクレオ様と並び出された夕食をご相伴あずかる、ここで出される料理についてもどれもこれも暖かく、野営中だとは思えない。実家暮らしを含めても豪勢な食生活が続いて、二度と無いかもしれないと噛みしめる。


(今が多分私の最盛期やろなぁ、、、。)


なんてことを考えてたら、早々運気が傾いた。

「キシャー」と、けたたましい鳴き声と共にテントが大きく煽られる。


「何事だ!」


テントの揺らぎも収まらないうちに、いち早くクレオ様が槍を手にテントを飛び出した。


「報告します、ワイバーンの襲撃です」


「こんな所にワイバーンだと!、、、、わかった。迎撃の指示は私が取る。お前は5人ほど連れてカーラ様達を安全な場所までお連れしろ!!」


「ハッ!」


そんなやり取りがテント生地越しに聞こえ、直ぐに入り口が開かれた。


「失礼します、ワイバーンの襲来です。至急馬車にお乗り下さい」


「わかりました。さぁノエミ様もご一緒に」


一人状況について行けず、未だナイフとフォークを握り締めていた私に向かってカーラ様の手が差し伸べられる。

反射的に掴み返したその手に連れられ、既にテントの入り口まで運ばれていた馬車に乗り込むと、直ぐに馬車は走り出した。


「キシャー!」


叫びと共にワイバーンの口から放たれた炎の帯が今居たテントを一瞬で焼き尽くす。


『あの姿は?!駄目だノエミ、皆を助けに行こう。あれはブラックワイバーン、とてもじゃ無いがここの者達で倒せる魔物じゃない』


馬車の窓越しにその光景を見たカストが叫ぶ。

ブラックワイバーンは、ワイバーン系の最上位で、その強さははC+〜B-と言われているらしい。

近衛部隊の構成はクレオ様がC-に近いものの、残りは皆Dランクの範疇だと聞いていた。カストの言葉を信じるなら近衛兵達に勝ち目はない。


(助けにって言っても、、、、、Bランクとか、カストが行ったところで倒せるん?)


『僕を誰だと思ってるんだい?』


(身体が私ってこと忘れてへんよね?)


『も、もちろんだよ。』


一瞬のドモリを聞き逃さない。さすがは脳筋、これは絶対忘れてた、、、、。


(はぁ、、、、影からこっそりアデルの魔法でやっつけられないの?)


『何を言い出すんだ!魔王ごときの、、、、』

               (カストうるさい。) 


勇者だ魔王だとかは私には関係ない、カストに任せたら、また良くて地獄のような筋肉痛だし、最悪死んでしまいかねない。


『あぁ?助けてもいいが、もっと壊滅寸前になってからだろう。そのほうが有難味が出るからな。』


背後でアデルがニヤリと笑う。さすがは魔王、悪い笑いがよく似合う。


『何を言ってるんだ!僕の魔法でも死んでしまったものは生き返らせないんだぞ!!』


(それ、私のセリフやし、、、、。あぁもう、、、、。カスト、くれぐれもやり過ぎんといてや?)


『もちろんだ』


爽やかに笑うカストの笑顔、、、、どうにも信用ならないが、一度見知った人たちが目の前で死んでいくのを見過せるほど、私の心は強くない。


「『かの魔物はブラックワイバイーン、近衛の者だけでは荷が重い魔物です。微力ながらわたくしが助力に参ります。すぐ戻りますので安心してお待ち下さい。』」


私の身体は片膝を付きながら、カーラ様の手の甲にキスをする。


(アホ、、、、、どこの貴公子やねん、、、、)


驚き目を開くカーラ様と、天を仰ぐ私を気にもとめず、馬車から飛び出し走り出す。

走る馬車から飛び出したことなど意にも介さず、地面を蹴ってみるみる加速していく。

周囲景色はぐにゃりと歪み、僅かに見える色が混ざり合う。


「『今回復するよ、ここは僕に任せて王女様のもとに行ってくれ。あぁすまない、その剣はちょと貸して欲しい。』」


一瞬で戦地に戻ったカストは、素早く負傷兵を回復して回る。あれから5分も経っていないにもかかわらず、10名近くが地面に伏していた。



5人ほどの治療を終えたとき、雄叫びと共にブラックワイバーンが爪を立て急降下してくる。

その先には片腕を引きちぎられてうずくまる兵と、それを庇うように槍を構えるクレオ様の姿が見えた。


「『危ない!』」


瞬間移動さながらに一瞬でクレオ様の前に立ち、先程の負傷兵から借り受けた剣を構える。


シャンッ!


僅かな風切り音と、右腕がピクリと動いた感覚だけを残し、ブラックワイバーンの足を切り飛ばした。


「キシャー!」


ブラックワイバーンは悲鳴のような雄叫びを上げながら急上昇し距離を取る。

その隙に片腕のない兵に回復魔法をかけると、みるみる腕が生えていく。


「『ここは僕に任せて、君達は王女様のところまで逃げるんだ』」


「、、、、、、駄目だ。民間人を残して私が逃げる訳にはいかない!!」


背中越しに話すカストの言葉をクレオ様が否定する。


「『わかった。しかしCランクに満たない者は逃がすんだ。無駄死ににしかならない。』」


「、、、、、わかった、、、、。全員負傷者を連れて退避しろ!!」


「「「「「ハッ!」」」」」


答えた兵たちが動き出すのを見て、カストは範囲回復魔法を唱える。

辺り一面が広範囲に青白く光りだす


「『止血程度にしかならないが範囲回復をかけておいたよ、それなりの傷を負った者でも暫らく持つだろう』」


「ッ、、、感謝する」

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