第5話

それから三日後、指示された商館に向かいその商館の馬車に乗り込んだ。

この商館はベルトイア家御用達の商館で、定期便に紛れて私を屋敷に入れるらしい。

極力目立たないようにとお願いしたが、精々裏口から入る程度で、まさかこんな手間を掛けてくれるとは思いもしなかった。


ベルトイア家の屋敷の奥で馬車を降りると、見覚えのある女性が出迎えてくれた。


「本日はお呼び立てに応じていただきありがとうございます、こちらで衣装を用意しておりますので先にお召替え頂けますか」


そう言って挨拶もそこそこに私を屋敷の中に案内するのは、綺羅びやかな騎士鎧を身につけてはいるものの、間違いなく先日助けた諸悪の一人、、、、もとい、金髪ポニーテールのクレオ・ベルトイア様だった。


因みにこの家はベルトイア家の別邸だ、ここレオの街はこの国でもそれなりに大きな街なのでベルトイア家も別邸を置いてるが、王を守護するベルトイア家がこの街に訪れることは年に数回もないだろう、それなのにこれほど巨大な屋敷を維持できる財力に圧倒される。

さらに言えばこの屋敷、レオの街を収める領主の屋敷よりも大きい。その事からは、この国での地位の高さも伺えた。

普通に考えれば先日のお礼だろうが、如何せん相手は超のつく上級貴族様、どんな手のひら返しが有るか考えるだけで恐ろしい。


屋敷内を移動する途中、改めてクレオ様の自己紹介を聞きながら客室へと通される。

言われるがままドレスに着替えて、食堂に移動する。


「ノエミ様、この度はカーラ様たっての希望でこの席を設けさせて頂きました。作法などはお気になさらぬよう言付かっておりますが、くれぐれも失礼の無いようお願いします。」


そう言って私を見つめるクレオさんの目は、先程までの優しい眼つきから一転して鋭く光っていて、否応にも緊張してくる。


「は、、はい。わかりました」


そんな私の返事を聞いて、クレオ様は扉をノックした。


中からの返事の代わりに、静かに扉が開かれる。

10人掛け位の縦長いテーブルの先に、女性の姿が目に入る。

緩やかにウェーブしたターコイズ色の髪が、背中から差し込む光に反射してキラキラと水面の様に輝いていて、身に着けている白いドレスも相まって神々しく見える。


「ようこそおいで下さいました、ノエミ様」


青毛の女性が席を立ち、そう言いながら軽く頭を下げる。

視界の端に、片膝を付き頭を垂れるクレオ様の姿が見え、慌てて貴族流の礼をする。

そんな畏まった私の姿を見て、冷やかすアデルがとてもうざい。


「どうぞ席におつきください」


続き放たれた言葉で控えていたメイドさんたちが動き出し、私とクレオ様を席に案内してくれる。



「お招きいただき有難うございます」


「こちらこそ、ノエミ様に救って頂けたからこそ、今ある事ができるのです。こうしてお礼を述べる機会を頂けて感謝いたします」


席に座って早々にお礼の言葉を述べると、そんな言葉が帰ってきた。

その言葉から察するに、あの時の片脚を失っていた女性で間違いないのだろう。流石にこの状況からの掌返しは無いだろうとホッとした。


先ずは食事にしましょうという事で、出された料理に手を付ける。

過去出席した晩餐会よりも豪華な料理が次々出され、恥ずかしながら手が止まらない。


「カーラ様、お食事の途中ですが紹介を忘れておりました、私の方から紹介させていただいてよろしいでしょうか?」


「まぁ、私ったら、、、そうですね。クレオ、おねがいします。」


こんな声に、仕方なく手を止めて立ち上がるクレオ様に視線を向ける。


「それでは、改めまして、こちらカーラ・ブロット様、レグレンツィ王国第四王女様であらせられます」


クレオ様がそう言いながら、手のひらで指し示す先の青毛の女性に視線を送り、全身の血の気が引いていく。

カランと私の手から滑り落ちたフォークの音が頭に鳴り響く。


ベルトイア家のクレオ様が気を使う相手なのだから、それなりの人だろうとは思ってたが、私の想像では、精々上級貴族の娘さんだろうと当たりをつけるのが精一杯だ。

だって、王女様があんな森の中に居るなんて、想像できる方がどうかしてる。

たぶん、私が根っからの市民なら、ここまでプレッシャーは感じない。

なまじっか貴族社会に身を置いた経験が、目の前の人物に萎縮する。




その後のことは、あまり良く覚えていない。

クレオ様が何も言わないところを見ると、無意識なりに会話は成り立っていたんだろうう。

いかに放心していたかは今の状況が物語っていて、何故か私は王女様とクレオ様と共に馬車に乗っていた。


(ねぇ、どっちでもいいから何があったか説明してくれない、、、、?)


『カハハッ、やっぱりお前放心してたのか!カハハハハ』


アデルがそんなふうに私の脳内で爆笑してる。


『いきなり王女様と対面したんだから仕方がないよ、でも普通はあの髪の色を見て気がつくべきだったね』


カストは同情するようなことを言いながらもチクリと針を指してくる。

ターコイズ色の髪色は、ここレグレンツィ王国の王族だけに出る色らしく、言われてみればそんな話を習ったような気がしないでもない。

とは言え、底辺貴族の末娘が王族と会話する場面なんてお伽話にも出てこない、使わない知識を貯め込むほど私の記憶力は優れちゃいないんよ。


(ほっといて。んで、、、なんでその王女様と一緒の馬車に乗ることになったんよ?どこ向かってんの??)


私の疑問に答えてくれたカストが言うには、正式なお礼のためと王城に招待する話になったらしい。

王城があるこの国の首都ウベルティは、レオの街から馬車でも片道8日程の距離だ。それほど長くレオを離れるのは宿の支払い等を考えるととても厳しい。

そんな事が頭をよぎったが、無意識だった私もそこは考えていたようで、王女様に宿代を払って貰う約束をきっちり取り付けていたようだ。

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