握る

「レイジ……君の探しているモノ……いや探してる人はどうしていなくなったんだい?」

「うむ……それが、いなくなったわけではないのだよ」

「へ!?」

「どういう訳か感じなくなったというか……もともと私はあの方と対で眠っていいたはずなのだ。しかし気付いたら一人だけこの辺りでさまよっていた。あの方を感じられず声も届かず当方に暮れていたのだよ。そこに君が……いや君たちが現れた。これは何かのお告げなのだろう」


 しばらくほこらの前にいた俺達だったけど、本格的に暗くなる前に場所を降りていくことにした。すでに潮が満ちて来ていたから登った時に通れたところが無くなっていたりと大変だったけど、何とかレイジの指示のおかげで伊織と共に無事に浜辺に降りてくることができた。


 その間もレイジと話を続けていた。分からないところは聞いておかなければ、この先何をどのように動けばいいのか分からなくなってしまうから

 。


――それにしても伊織がレイジの子孫とは驚いたな。帰ったら義母かあさんに聞きたいことができた。まぁあの義母かあさんが知ってるとは思えないけど。でも今の母さんなら「知ってたわよ」なんて涼しい顔していいそうだけど……



「ところでレイジ」

「なんだね」

「いつから探してるんだい? その……お嫁さんを……」

「お嫁!? 恐れ多い!! あの方をそのように思ったことは無い!!」


 でも言葉とは裏腹に明らかに表情が緩んでるし、なんだか落ち着かないみたいだ。


「じゃぁレイジは好きじゃないの? そのお方の事」


「そ、それは、その……」

「それに伊織が子孫って事は子供もいるんだろ?」

「……うむ」

 別荘の中庭に通ずる道に差し掛かった時、別荘の中に残ったままのメンバーが俺達を待っていた。

 突然いなくなった俺達を心配して探してくれていたのかもしれない。

 現にカレンの表情がヤバいことになっている。


――完全に怒ってるな……アレは……


「ちょっと!! どこまで行ってたのよ!!」


――ほらな……


「ごめん!! その……海岸の先? かな?」

「海岸の先ぃ? そんなところに何かあるの?」

 すごい顔したままカレンが市川親娘の方に振り向く。

「えぇ~っと……何かあったかしらぁ?」

 相変わらずのんびりしてる響子が不思議そうに理央とお母さんの方を見る。

「う~ん。私はなのも気づかなかったけど……」

「あ!!」


 何かを思い出したような市川母。


「確か……海岸線の浜辺の先に登れる場所があって、ちょっと樹が生えてるあたりに小さな建物があったような……」

「「え!?」」


 一斉に視線を浴びる市川母。

 ちょっとびっくりしたのか顔が赤らんでいる。


「ちょっとお母さんそれを早く言ってよ!!」

「え!? だって……それを探してたなんて知らなかったんだもん。それに私は行ったことないから本当に有るのかわからなかったし……」

「もう!!」


――これだけの会話を聞いてるだけで市川家はみんな仲が良くなったんだと思える。あの一件でより一層深まった…というべきなのかもしれないけど、それに少しでも役に立てていたのなら自分としても嬉しいんだけど。


「いいかな……」


 仲良く話をしている間にレイジが歩いて行く。

 その後ろ姿を何も言わず見ている俺のそばに伊織がスッと寄ってきた。


「何か言うのかな?」

「さぁ……でも、もう怪しいひとってわけじゃないから心配いらないだろ」

「そうだね……」


 伸ばした指先に感じる温もり。

 伊織の指が俺の手の中に納まってきた。

 少しびっくりして伊織の方に顔を向けたけど、伊織は前を見据えたまま――そのまま前を向きなおして伊織の手をぎゅっと握り返した。



「皆さんにもう貸すしておくような事じゃないと判断しました。特にそこの藤堂義兄妹とうどうきょうだいとは浅はかならぬ関係と分かった以上、ここにいる皆さんは心許せる仲間だと思うので」


 静かに話し始めたレイジ。


 ちょっと気になる言葉が含まれていて、その言葉に反応したのであろうカレンと響子・理央、日暮さんがこちらに視線を向けてきた。


 それでもレイジの話は止まらない。

「私が探しているモノ……それはこの地に生まれし我がつ……で……」

「「なんっだって?」」


 小さくなっていく言葉にカレンと相馬さんがツッコミを入れた。俺達二人の時と同じようにまだその言葉に抵抗があるらしい。それとも恥ずかしがっているのか……


「ううん!! ゴホン!! あぁ~、我が妻をみんなに探して欲しいんだ!!」


 意を決したように大きな声で宣言するレイジ。

 その言葉を聞いたみんなは一堂に顔を見合わせる。


――そして出てくる言葉は予想がついている……ここにいる皆ならば……


「「「喜んで!!」」」

「「「もちろん!!」」」


 言葉が青空に響き渡って行った。



「それからそこ!! いい加減シスコン・ブラコンやめなさい!!」


――しっかりとカレンから俺達にツッコミが入ったのもいつものことなんだけどね。


 ぱっと手を放して顔を赤らめる伊織に苦笑いしながらただ立っている事しかできなかった。






※作者の落書きのような後書き※


この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。

ちょっとだけ進む方向性を示すレイジと、相変わらずなみんなを表してみました。


なんだぁ進まねぇなぁ…って思ってもお付き合いください(汗


ここから最後まではきっちりと閉めながら書いて行きます(^_^)

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