子孫

 そこは思ったよりも険しいところで、かなり手こずりながら二人で登って行った。

 岩はむき出しだし、迂回しようとすると樹が邪魔して先に行けないし、波も被る様な端っこを気をつけながら渡ったり。

 アスレチックに来ているような感覚。

 明日は完全に筋肉痛で動けなくなるのは間違いないだろう。


 目の前に開けたt頃が出てくるころにはヘロヘロになっていたのだが、一緒についてきている伊織にそんな情けない所を見せるわけにもいかず、何もなかったように進んでいく。


 目の前に大きなくて太い幹を持った樹が見える。


 そのすぐそばには下で見つけた鳥居と小さな祠のようなものがある。

 その隣に寄り添うように座るレイジ。


「レイ……」

 声を掛けようとした俺の肩に伊織が手を添えながら横に首を振っている。

「お義兄にいちゃん、少しそのままにしてあげようよ……」

 レイジの方を見てから、もう一度伊織の方を振り向き俺は小さくうなずいた。

 周りの空気が、その雰囲気が少し待ってて欲しいと願っているような、そんな感覚が感じ取れたから。

 それだけでもこの場所が、この街に来てから体に感じるモノが他の場所とは少し違うような気がする。

――何か懐かしいような……清々しい様な不思議な感覚……


「お待たせしたね」

 目を閉じていたわけでもないのに、気が付くと目の前にレイジの姿があった。

「やっぱり……君たちならここまで来るとは思ってたよ」

「どういう……事だ?」

「話は後で……まずは君の持っているモノをほこらに戻してあげてくれないかな?」

 その言葉でハッと我に返った。ここに来る前に母さんに渡された石でできたモノをずっと持っていることを思い出して、レイジの言う通りほこらの中へ立てるように戻す。


「ありがとう」

礼を言いながらレイジが頭を下げる。

「君たちはこの辺りの事を聞いているんだろ?」

頭を上げたレイジがほこらの方を見ながら言葉を紡ぐ。

「うん。聞いてきたよ。君はその事に関係してるのか? 君は一体何者なんだ?」


「そうか……ならば話をしておこう。君のその体の重みはもう知ってると思うが、この結界の外から来る能力者を防ぐためのモノ。そして結界とは……我々を守るために亡くなった者たちのお墓なのさ。君の持ってきた石のモノ……お地蔵じぞうさんはそれと知られないために置いたもの。墓標ぼひょうだよ」

「我々を……守ってきた?」

「この辺りに生まれた能力を持つモノはすべて我々の子孫。私とあの方の……な」

 それからレイジはこちらに顔を戻し、音もなくゆっくりと近づいてくる。


 そして止まる。

 伊織の前で――


「え!?」


 そして伊織の手を取る。

 余りにも自然な動きだったので、俺も伊織も何もできずただ立っていただけ。


「シンジ……君はもうきづいているんだろ?」

「え!? お義兄ちゃん何に気付いたの? わたし? 私に何かあるの?」


 昨日、日暮家での話を聞いてる時に思った事。それは自分の体がこのような状態なのに義妹いもうとはそんなに影響を受けてないという不思議。同じチカラを有している二人の何が違うのか。

 そしてこの結界の事を聞いた。

 チカラを持つものを守るため、外界から入って来るチカラを使わせないようにするための結界。


――なら考えられること……俺は外界のモノ……伊織は守られているモノ……つまり……


「伊織……君は我々の子孫だな」

「え!? えぇ!!? そ、そうなの!?」

「ようこそこの集落へ。会えて本当に嬉しいよ」

 伊織の手を握りながら涙するレイジ。

 ワタワタとする伊織。

「レイジ、君はだれ?」

「私は……あの方の光栄なるおっとに選ばれし者」

「「おっと!?」」

二人でそろって変な声が出た。

「うむ」

「じゃ、じゃぁ君が探してるモノって……」


 間もなく潮が満ち始める時間。

 この場所にいられるのも後わずかだろう。


 だけど、俺と伊織はそこからレイジを見つめたまま動こうという気にはなれなかった。





※作者の落書きのような後書き※


この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。


実はこの章は前の章と対で考えていたもので、始まり(6章の始まり)と終わりは決まっていたのですが、真ん中を考えておらず苦戦しております。

作者の力量不足が一因ではあるのですが……


レイジの正体とは?

真司と伊織、仲間たちはどんな行動に出るのか。

皆様にも一緒に考えながら楽しんで頂けたら嬉しい限りです。

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