さっぱり

 荷物を持ってもらえるはずだった助っ人伊織のネコ化(謎の絶叫)により、結局は一人でビーチパラソルとレジャーシートを片づけてようやく砂浜から上がってきた。


そしてまた足を止める。

手に持ってる重いからってこともあるけどやっぱり気になるモノ。

伊織が触ろうとしていた石でできてるモノ。


見た感じでは邪念などは感じない。

むしろ何かを包み込むような感じがする。

たぶんこれはこんなところにあっちゃいけないモノなんだと思う。後で市川家のおじさんかおばさんに相談して、どこかしっかりしたところに持って行ってもらおう。


『これ……お地蔵様ねぇ。でも何かしらこの感じ……』


「え!?」

――真後ろから突然の女性の声にビックリした。

それにこの冷気で体がぞくぞくぅっと震える。

生きる人ではないから発せられる独特の感じは、最近多く接する機会があるものの全く慣れていく気配がない。いや慣れたいと思ってないから当たり前なのかもしれないけど。


ようやく声に反応して振り向いた俺が眼にしたひとは……


「あ、綾香さん……」


『こんにちは真司君。またお世話になってます』


日暮綾乃の姉、日暮綾香が丁寧に腰を折って挨拶してきた。


「あ、いえいえこちらこそ……て綾香さんに行ったんじゃないんですか?」

『向こう? あぁ!! 行って無いわよ?』

「だ、だってあの時消えて……」

『まだ行くわけにはいかないわよ。真司君は今も調べてるんでしょ? この事」


綾香さんは静かに腕を動かして一点を指さしている。

そうあの石でできたものだ。


「いえ、まだソレの事は全く分からなので、日暮さんのお宅に連絡して聞いてみようと思っていたところです。何かご存知ですか?」


首をかしげて考える綾香さん。


あれから今日まで、綾香さんを見ていないけど俺はそう思っていた。いやたぶん、あの時あの場所で目撃していた人たちは、消えていく綾香さんを見ながら[もう会えないんだ]と思ったに違いない。

だからこうしてまた近くで会えると、なんだろう…相手が人じゃないって分かってるのに、やっぱり嬉しい気持ちが込み上げてくる。 


『ちょっと聞いた事がある気がするのよねぇ』

「そ、それ覚えてます!?」

『いえ、さっぱり!!』

「おろ!?」


――ごめんなさ~いって顔されてもどうしたもんかな。

 そうなるとやっぱり日暮家にお邪魔して詳しく聞いてこなくちゃいけないんだろうなぁ。

 みんな楽しんでるのにこんなこと頼むのもなぁ……


『また何か悩んでるの? シンジ君はホントに優しいんだね。あそこに居る皆はそんなことを気にするたちじゃないと思うけどなぁ』


考え込んでる俺の顔を覗き込んでくる綾香さん。


「うおぉ!!」


――さすがに演舞の巫女様だっただけあってこのひともかなり綺麗な女性なんだよね。だからそんな顔で顔を近づけられると照れちゃうんだよな。

 人か霊かなんて関係なく女の人は苦手なんだと改めて思う。


『あなたは皆に信頼されてる。もっと自信を持って』

「俺が……信頼されてる? みんなに?」



 お~いぃ! 真司君手伝いにきたよぉ!!」


声がする方を見ると相馬さんと日暮さんそれにカレンが、こっちに向かって大きく手を振りながら走り寄って来ていた。


『ね?』


笑顔を俺に残してその場からスーッと消えていく綾香さん。


「あ!! まだ話が……」


「? どうしたの? 何かあった?」

「え!?」


すぐ近くにまで近づいていた皆が不思議そうな顔をして俺を見ている。


――いまここに綾香さんが居たことを目の前の日暮さんは知らない。話してしまおうかとも思ったけど、何かあってまだ消えたままなんだろう。なら俺のクチから今はいう事じゃない気がする……


『いや、何でもないよ! ありがとうみんな!!」


俺の抱えている荷物を手分けして持って運ぶ。それだけの事なんだけどなぜか俺は嬉しくなった。


「綾香さん。俺頼ってみるよ」

「え? 何か言った?」

「いや! 何も言ってないよ」

「へ~んなの!!」


青空にカレンの笑い声が吸い込まれていく。


そんな空をゆっくりと見上げる。

消えていないはずの綾香さんが微笑んでくれてる気がした……






※作者の落書きのような後書き※


この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。


いよいよ謎の究明に真司が動き出します。

綾香はナゼまだ消えていないのか?

レイジは何者なのか?


ここからの幽慣れをお楽しみくださいm(__)m


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