ねこ伊織

 レイジと一緒にいたはずの砂浜には俺一人がそのままの場所に腰を下ろしていて、戻ってくるのが遅い俺を心配して浜まで来た伊織の姿しかなかった。


 レイジが俺に言っていた事。


「なぁ、伊織」

 俺の隣をポンポンとたたく。

 意図した事に気付いたのか伊織が素直に隣に腰を下ろした。


「なぁに 」

「この街ってどう思う?」

「どうって?」

「う~ん、変わった事とか気付いた事とかないか?」


――ん~~!! ってうなりながらアゴに手を当てて考え出す伊織。

この姿を見るだけでもかわいいと思う。決して兄貴のひいき目だけじゃなくて

何だろうこの感じ……


「あのね、気になってるというか気付いた事があるんだけど……」

「え? あ、うん。気付いた事って?」

「この街って……あの駅を降りてからだよね? ここに来るまでの間って綾乃さんの家の他に神社とか見当たらないなぁって思ってた」

「神社……かぁ」


 伊織の話を聞いて俺も思い出してみたけど、確かに日暮邸の社以外に神社のような建物や鳥居などが無かったような気がする。

 ただそれは、神社を探すって思いながらじゃないと気付かないかもしれないし、単に見落としているだけかもしれない。

でも、何かが少し繋がったような感じがする。


 日暮さんのお父さんが話していた事を思い出そうとするけど、どうしてもあの時一緒に寝た伊織の事しか思い出せない。

 それだけ強烈な印象を受けてしまったみたいで、その前の事をけっこう忘れてしまっている。


「もう一回話を聞きに行ってみる?」

「そうだなぁ……日暮さんに話してみるかな」

「そうと決まったら戻ろ!!」

「え、あ、いや!! わかったから引っ張るな!!」


 先に立ち上がった伊織がぐいぐいと俺の腕を引っ張って立ち上がらせようとする。


――そういえば……確か母さんが……


 急いで荷物を片づけ始めた伊織を見ながらその事を思い出した。


「似合ってたぞ、新しい水着」


 本当に小さな声でボソッと言ったはずなのに、伊織の方を見た瞬間にソレが普通に聞こえていたという事を悟った。


 目に映った伊織は、透き通るほどの白い肌がの日焼けしたかのように赤く染まっていて、首筋も耳までもが真っ赤になっている。


「あ、いや、深い意味は……」


「にゃぁぁぁぁ~!!!」


 ネコ伊織がいた!!

 その後に顔まで真っ赤にした伊織は突然猛ダッシュで浜を駆け上がっていてく。


「あ!! 伊織荷物は!?」


 言葉は波音に打ち消されていく。

 伊織は振り返る事もなく、その姿は消えていってしまった。


 俺はまた一人で荷物と共にその場に残された。






※作者の落書きのような後書き※


この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。

このお話は閑話休題的な回で短めです(^_^)


次回の通慣れ

再び日暮邸に向かう事に!!

真司たちは核心へと近づくことができるのか!!

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