どこにでもいる兄妹(きょうだい)

「こんなところに……」

「お義兄にいちゃん、これってお地蔵様だと思うんだけど……」

「それはちょっと考えられないというか…。ここは個人所有の土地だからね、その敷地の中にお地蔵さまって普通はないよ。とりあえず一回みんなのところに戻って市川姉妹のお母さんにでも聞いてみよう」

「うん……そだね」


 その石でできた物体を掴みに伸ばしていた腕を静かに戻していく伊織。


 少しの間二人でその物体を見つめていたあと、後ろ髪をひかれるような感覚にとらわれながら屋敷の中へと戻っていった。

 中庭と屋内を繋ぐドアを開けようとしたノブに手を伸ばすと、ちょうど向こう側から開けられるところだったようで慌てて腕を引っ込める。


 出てきたのは日暮さんだった。

「良かった。伊織ちゃん見付かったんだね」

「あ、うん」

「ごめんなさい。心配をおかけしました」


 何も言わずにただ微笑む日暮さん。

 それから海の方を静かに眺める。


「あ、あの日暮さん」

「はい?」

「何かあったんですか? その……中で」

「ごめんなさい、特に何もないのだけど。私的にはものすごく楽しく過ごさせてもらってるわ。こんなに楽しい夏休みなんて本当に久しぶりだと思う。いつも実家に帰って演舞の練習とかしてたから」


 ふふふって感じに笑う。


「なんだか……ここに来た時からなんだけど、誰かが私たちを見てる感じがするのよ。だから少し一人で見て回ろうかと思って出てきたんだ。あなた達が居るとは思ってなかった。なんだかあなたたち兄妹きょうだいって不思議ね」

「そうかなぁ? 普通のどこにでもいる兄妹だと思うんだけど」

 伊織と二人顔を見合わせる。

「うん、やっぱり不思議だわ。あなた達二人には何か兄妹って感じ以上のモノを感じるもの。それが何かは私には分からないけどね。それじゃまた後でね」


 そういうと彼女は浜辺の方へと歩いて行った。


――どうだろうか……

――最近ではあまり考えなくなってしまっていたけど、改めて言われると俺と伊織はちゃんと兄妹に見えているのだろうか……

――外見は誰が見ても似ていないことは確かだ。性格もどちらかと言えば正反対のような気がするし、頭の良さなんて比べられるようなものじゃない。人気はもちろん伊織の方がはるかに高い。

――だけど――俺達は――兄妹なんだ。


「お義兄にいちゃん?」


 伊織から声を掛けられてハッと我に返ると、目の前はもうすぐ広間へと繋がるドアの前まで来ていた。


「どうしたの?」

「え? いや、何でもないよ」

「そうかなぁ? 考え事して悩んでるのは見ただけで分かっちゃううんだからね?」


 下から覗き込むように伊織が見上げてくるその顔は、小さい時から良く見知っている女の子の顔で義妹いもうとの顔なはずなんだけど。


「??」

「うん。本当に何でもないよ。ちょっとレイジの事を考えてただけさ」

「そう? ならいいけどね」


 そしてドアを開けて中へと入って行った。





「ねぇシンジ君」

「なんだよ」


 夕飯前に広間に集まってそれぞれに談笑していた時、隣に座っていたカレンから声を掛けられた。


「あのレイジクンだけど、なんだか悪い子には感じないのよ」

「ん、ああ、それは俺も同感だけどね」

「うん。むしろ話を聞いてあげるって感じよりも、聞いてもらってるって感じなのよね」

「うん? ちょっとソレ詳しく」


 今もテーブル越しの向かい側では相馬さんと日暮さん、そして伊織を含めた四人が仲良く相槌を打ったりして話し込んでいるのが見えている。


「どう言ったらいいのかわかんないけど、神社とかにお願いしたりするじゃない? あんな感じなのよね」

「そ……そうか!! カレン、時々いいこと言うなぁ!!」

「な!! 時々って何よ!! いつも言ってるでしょ!!」


 隣でムキー!! ってネコみたいになってるカレンをなだめながら、向かい側のレイジを見る。

 なるほど、もしかしたらカレンの言う事もそんなに間違いじゃないかもしれない。


――もしかしたらこのレイジは—―でも初めて会った時に――レイジは何故あんなことを?


 俺はまた考え込んでしまっていた。






※作者の落書きのような後書き※


この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。


今までにない構成に四苦八苦しております。

何が? と問われましてもネタバレになるので答えられませんが。

少しでも読んだ後に[ほんわり]していただけるように心がけて書いて行きたいと思っています。


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