ファーストコンタクト

 今から二年前――それはまだ俺たち夫婦が他人だった頃――


「真司、今日から行く学校で早く友達できるといいな」

「僕は友達はいらないよ……」

「そんなこと言うなよ、まだ前の学校の友達の事を気にしてんのか?」

「友達?そんなもんいなかったよ」

 刑事という職業柄、移動になることも当たり前なのだが、俺の場合は本当に突然移動になった。仕方なく移動先で早めに生活基盤を整えるために、息子の学校に近い場所を選んでアパートを決め、先週息子よりも先にアパートへと荷物を運び入れてようやく二日前に落ち着いた。その間息子は両親に預けていたのだが、なかなか心を開いてくれないとぼやいていた。

 両親の気持ちは分かる。妻が生きていた頃はまだ真司はすごくいい顔をして笑って過ごしていたから。

――今はもうあの頃の笑顔を見ることはできないのだ。


 一週間が過ぎ、両親からある話を聞いた。真司がアパートには一人でいたくないと言っている

 都の事。まだ子供なのだから一人で留守番は寂しいのは当たり前だと思ったのだが、両親からの話には続きがあった。

「アパートにいると、知らない人が入って来て、助けてくれと何度も言うんだ」と。

 これを聞いたときに「またか」と思った。

 この日、真司に事の内容を聞く。


「真司、ちょっといいか?」

「なに? お父さん」

 呼ばれた真司は素直に俺と向かい合うようにテーブル越しに座る。

「ああ、爺ちゃんから聞いたんだが……見えるのか? なぜ言わなかったんだ」

「うん。お父さんに言っても忙しそうだし。それに……お父さんあんまり好きじゃないでしょ?」

 この時の真司の[好きじゃないでしょ?」に含まれている意味を俺は理解できなかった。

「ああ、まぁ、そういう話は苦手だが。一応聞いておきたいと思ってな」

 息子は下を向きながら大きなため息をついた。まるで大人がつくようなため息だ。

「……じゃぁ話すけど……は毎日こう言うんだ。『俺を助けてくれ、俺はまだ死んじゃいない。死にたくない』って」

「じゃぁそいつはまだ生きてるのか?」

「それは僕にもわかんないよ。調べるのは父さんの仕事でしょ?」

――痛いとこをついてくるな……しかし身元が分からないんじゃその先俺達にはどうしようもない。


「名前とか言ってたか?」

「ううん」

 真司は大きく首を振った。

――手がかりがない以上は探しようもない。それにこれは真司だけの言う話だしな……

 俺が考え出そうとした時真司が思い出したかのように言い出した。


「でも、この近くの倉庫に閉じ込められてるって言ってたよ」

「ほんとか!?」

「うん」

――そうか……なら動けるな……

 すぐに同僚にウラ取をさせようかと電話を取り出そうとする。

 ふと真司の顔が目にはいった。普段は全く表情が変わらない真司が笑顔だったのだ。

「どうした?」

「ううん、何でもないけど、お父さん探してくれるんでしょ?」

「あ、ああ、まぁそのつもりだけど」

「じゃあ僕、少しは役にたてたかな?」


――ああ……言いたいことは分かった。妻の残した言葉をこの子はこの子なりに守ろうとしているのだな。


「そうだな。また聞くかもしれないから、今度はもう少し聞いといてくれるか?」

「う~~ん、頑張ってみるよ」

――すごく嫌な顔してたな。ちょっと無理させすぎかもしれないな……。

子供なんだから怖くて当たり前だ。慣れるはずない。いくら小さい時から見慣れているからって……


 息子から話を聞いたその日のうちに、現場に出ている同僚に電話して近いところでの行方不明事件や捜索願が出ていないか等の情報を、一通り洗ってもらうようにお願いしておいた。

 俺にはこの話が[事件]だと確信している。親バカとか周りには言われるだろうけど、俺は息子の言う事は信用している。特にこういう事をクチにするときの[真司]は、子供特有の妄想やウソをついたことが無い。それどころか以前にもこのチカラのおかげで、解決した事件もあるのだ。


 休日が明けた次の日から、任されている事件とは別に相棒と二人で、息子の言う件も並行して調べることにした。

 今は相棒と共に車に乗って移動中――

 

 この相棒も俺と一緒に前の警察署から移動になって、さらにまた同じ部署で相棒になっているという、腐れ縁的な相手の[村上良一]なので、気兼ねすることなく進めることができる。何よりこいつは真司の言うことを信じてくれている、俺以外では今は唯一の存在だ。

「おい慎吾、今追ってるこの件はもらった手元の資料には無いみたいだが何だ?」

「ああ、お前には悪いが息子絡みだ」

「そんなことだとは思ったぜ。今回はなんて言ってるんだ?」

目線だけを動かして質問してきた。

「今回のは自分を探して欲しいらしい」

「事件か?」

「たぶんな……」

 それだけの会話だが通じるから楽でいい。それにこの男は余り小さい事は気にしない。根が陽気な奴である。

「この辺は、もう他の奴らが聞いて回ったらしいぞ?」

「そうなんだけど真司は近くにいるって言うんだ。何か見落としてるかもしれないだろ? それに……」

「それに?」

「お前以外のヤツはあんまり信用できん」

「あはははははは。慎吾らしいな」


 少し広い駐車場に車を停め、所有者に断りの挨拶を済ませて二人で住宅街へと歩いて行く。

 少し歩くと、道の先で孫を連れたであろう老夫婦がキョロキョロと辺りを見回していた。

 道にでも迷ったかと思い、村上に目で合図を送りうなずいたことで承諾を経て声をかけた。

「どうなされました? 道に迷われましたか?」

 お爺さんがチラリと連れの二人を見てからクチを開いた。

「まぁ、迷ったと言えばそうなのですが……実は孫がですね、この辺りから助けてを呼ぶ男の人の声がするっていうもので、その人を孫に聞きながら探していたところなんですよ」

 お爺さんの話と、自分たちの調べていることが偶然なのか似たような感じがした。

 俺はしゃがんでその話の主であるお孫さんと目を合わせる。

「こんにちは。おじちゃんにその話聞かせてくれないかな?」

「あんた達は何者ですか?」

 お爺さんが孫をかばうように側に引き寄せると、怪訝な声で聞いてきた。

――あ、そういえば名乗りもいていなかったな。

 相棒に合図しようと思った時、それを悟ったように村上は警察手帳を手にして老夫婦に説明を始めてくれた。さすがは頼れる相棒だ。

「心配しなくてもおじちゃんたちは悪い人じゃないよ。女の子かな?」

「うん」

こくりと女子は頷いた。

「お嬢ちゃんお名前は?」

「いおり、かちらぎいおり」

 お婆さんが聞いていて「あ、すいません柏木です」って訂正してきた。


 そう、この時会った女の子こそがであり、後に自分の義妹いもうとになるなんてこの時は想像もできないほどお互いが子供だった。





※作者の落書きのような後書き※


この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

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