骨折
「この辺で聞こえるってほんと?」
「うん」
その子はクリクリとした大きな目で俺を見つめていた。
この目には覚えがある。そう真司と同じ目だ。こういう時のあの子は嘘なんてついた事はない。
――だからこの
「村上、悪いけどこの辺の聞き込みをもう一度するから手伝ってくれ」
「ああ、構わんよ」
先ほどの老夫婦との会話を思い出す。あの娘は近くに住んでいるんだろうけど、あの老夫婦は「道に迷った」と言っていた。つまりはこの辺と土地を良く知らないのだ。ならば探していない場所も必ずあるはず。
俺はひらめきに似たこの感覚を疑うことなく行動するという行為で肯定した。
しかし俺の息子と同じような子もいるもんなんだなぁってふと思った。
相棒の村上と共にその辺りの聞き込みを続けていると、なにやら見かけない車や人が最近多い場所がある事を聞き出すことができた。
その場所へと村上と向かっていると何やら怪しい二人の男とすれ違う。
「あぁっと、申し訳ありませんが少しお話を伺えませんか?」
「な、なんだてめぇは!!」
突然その二人組に声をかけた俺を相棒はビックリしていたが、この男の返事にピンと来たのか瞬時に対応した。
「あ、私らこういうモノで、怪しいモノじゃないんですが事件の捜査をしてまして聞き込みを行っているんですよ。少しのお時間でいいのでご協力願えませんか?」
こういう時の村上は意外と素早くて頼もしい相棒なんだけど。
「るせぇよ! 時間なんてねぇよ!!」
と、聞いてる時だった。
ダッ
「あ、くそ! 逃げやがった!」
もう一人の男が突然走り出したのだ。これはドラマでもよくあるパターンで俺達もその辺は分かっている。
「俺が追うから後よろしく」
「おう! 後でな!」
俺はすぐに追いかけ始めた。
「くっ! この! 足早いなお前!!」
「なめんじゃねぇぞ、つかまってなんかやんねぇからな!!」
まだ捕まえられずに追いかけていた。
男は目の前の金網フェンスを乗り越え更に走りだそうとしていた。
「ま、待てこら!!」
ドスッ
ようやく乗り越えた俺はまた走り出した。男は先の路地を右に曲がる。
重い体をようやくと使いながら俺も角を曲がろうとした時。
ドゴッ!! ぼぎぃ!!
「あ、ぐわぁ!!」
先に曲がったはずの男がまだいて、手には鉄パイプのようなものを持っている。どうやら俺は注意が足りなかったらしい。まんんまとその鉄パイプによって足を殴られていた。
「ばぁ~か!!」
「く、この!!」
男はその場から走り去ってしまった。
ようやく自分たちが停めておいた車を運転して村上がやってきたころには、男はとっくに消えていた。最初の男は応援の仲間に任せてきたらしい。
「す、すまん。
「なぁ藤堂、悪いことばかりじゃねぇぞ。話によると鉄パイプで殴られたんだろ? ここに落ちてんのって
白い手袋をはめてひょいっと持ち上げる。
「これで指紋照合できるだろ」
村上はニヤッと笑って言った。
「藤堂、それ……折れてるよな?」
「いい。大丈夫だ。それよりもさっきの男の身元調べないと」
離している間も全身から嫌な汗が流れ続けている。
「おいおい、バカ言うなよ。俺は走れない奴とは組まんぞ」
「くそっ!!」
車はそのまま近くの病院へと向かっていた。村上は初めから有無を言わさずに俺を病院に連れて行く気だったらしい。
連れていかれた病院は近くにある救急外来のある総合病院で、お世辞にも[おおきな]とは言えない所だった。
「すいません、急患なんですが診てもらえますか?」
「どうなされました? あらぁ……足が折れてるかもしれませんねぇ。今、
「ありがとうございます」
そう言い残して、看護師さんは足早に奥へと歩き去って行った。
「割としっかりしてる病院みたいじゃないか」
「病院なんてどこも同じだよ。どこでもいい」
――痛みでそれどころじゃねぇんだよ……
「そうかぁ? まぁお前さんが動けない間に俺は少し聞き込みに行ってくるよ」
そんなことを言い残して村上は病院の中を歩いて消えていった。
まったくアイツは……
「藤堂さまぁ、藤堂慎吾さまぁどうぞぉ~」
「ああ、はい」
俺が車いすのまま手を挙げて返事をすると、押しますねぇっと看護師さんが近づいてきて後ろに回り車イスを押してくれた。
「藤堂さん今日はどうなさいました?」
「え?」
診察室に入ると、長い黒髪にメガネをかけたとてもきれいな女性が椅子に座っていた。
――どこか妻に似ている……
「藤堂さん? 今日はどうなされたんですか?」
「あ、ええ、失礼しました。実は鉄パイプで殴られまして」
「は?」
表情は変わらず聞き返している。
「いえ、ですから鉄パイプで殴られたんですよ」
「あは……あははははははは」
突然大声で笑われてしまった。しかし何を笑われたのかわからない。
「あ、あの、
「あはは……あ、し、失礼しました。まさか真顔で冗談を言われるとは思ってなかったので」
「いえ冗談ではなくてですね、事実なんですが」
「え? 本当なんですか?」
綺麗な顔に似合わない眉間にしわを寄せ、訝し気な表情で見返してくる目の前の女医さん。
そこまで話してから思いつく。
――ああそうか、この時間にこんなスーツ姿の中年男性がそんなことを言って病院に来るはずがないのだ。普通は。
「ああ、失礼しました。自分は〇〇警察署の刑事で藤堂というモノです。上着のポケットに手帳が入ってますんで確認してください」
看護師さんが言われた通りにポケットの手帳を取り出して確認し、更に医師にも見せて確認を取った。
「藤堂さん、失礼しました。改めて伺いますが、今日はいかがされたんでしょうか?」
「ええ、ちょっと事件の関係で男性を追っていたら、その男性に鉄パイプで殴られてしまって」
「そうですか……。ではまずはレントゲンを撮ってきてもらいましょう。これお願いします」
ハイっと看護師さんが
医師名[柏木唯]
頭に残る追憶――
柏木……といわれると「いおり、かちらぎいおり」
あの
※作者の落書きのような後書き※
この物語はフィクションです。
登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。
誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。
次回 センセイ
お楽しみに!!
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