後部座席で
「珍しいな藤堂。お前が俺に頼み事してくるなんて」
「ああ。本当言うと頼みたくはねぇんだが……ウチの署員じゃ信用できんから仕方なくだ」
「ほう……。では俺は信用していると……」
「仕方なくだって言ってんだろ!! 耳ついてねぇのか!!」
車の後部座席でお互い前を向きつつ俺と言いあっているこいつは
大学の同期ってだけで仲良くはないんだが、こういう時は何かと動いてくれたりとなかなか頼れるやつで助かっている。
しかもなぜか所轄の俺や村上の事を気にかけてくれているようで、今まで頼んだことは断られたことを数える方が早い。
それに今回の頼み事は内容が内容なだけに、ウチの所轄内はもちろん近くの所轄の人間でさえ頼み込めるだけの適合者がいないのが実情。
――背に腹は代えられないってとこかな。
「で、要するにお前のところの課長を探ればいいのか?」
「そうだ。頼めるか?」
「‥…
「……時と場合によってはな」
少し長い沈黙が車内に落ちる。
「いいだろう」
結城が真顔のままでこくんと小さく頷いた。
「本当か!?」
「条件がある」
「なんだよ……。めんどくさいのは無しだぞ。それと所轄の俺達に出来る範囲の事なら聞いてやるよ」
「この一件がかたずいたら……お前結婚しろ」
改めて説明することもないだろうけど、俺はこいつに何も話してはいない。
もちろん何もと言う件は[柏木さん親娘]の事だが、こいつがその事を指して結婚しろとか言ってるならとてつもなく怖い。
そんなことまで知ってるとすると、ストーカーか何かじゃないかと疑ってしまうレベルだ。
その時は俺が責任もって手錠かけてやるけど。
――まさかなぁ……
何も言わずに結城の顔を伺うが、先ほどからまったく動揺するわけでもなく、おかしな反応をしてるのが俺の方みたいな眼で俺を見てくる。
「なんだ? 何をそんなに驚いてる? ああ、柏木さんの事か?」
「な、なぜおまえが柏木さんの事を……まさかお前やっぱりストーカーか!?」
「ば、バカな事言うな!! ウチの女房の同級生だってだけだ!! この前ウチに遊びに来た時に……ああ、伊織ちゃんだっけか? と、なぜかお前んとことの息子が一緒についてきてそれから知られたってだけだ!! まぁ……その……色々聞かれたから、いろいろと答えてはおいたけどな」
――そのどや顔はウザいぞ結城!!
そうか……最近俺は柏木さんに甘えていたのかもしれん。仕事が有るって事を言い訳にして真司の事を彼女が休みのたびに面倒を見てもらっていたからな。
まさか、そんな繋がりがあるとは思っても見なかったし。
「その条件は飲みかねん」
「なぜだ!? おまえ彼女の事が好きなんだろ?」
「馬鹿野郎!! 彼女の気持ちが分からんのにいきなり結婚なんてできるか!!」
「それは……一理あるな」
それだけ言ってまた何やら考え事を始める結城。
コイツの頭の回転の速さには一目置いてはいるが、余計なことまで首を突っ込んで状況をすっ飛ばしてくるとは意外に面白いやつなのかもしれないな。
「いいだろう。ではその件は保留にして引き受けてやろう」
「お、おう!! なんか後が怖いけど仕方ない。助かる」
「決まったのか?」
それまで何も言わず俺と結城の会話を聞いていた村上が運転席から顔をのぞかせる。
「とりあえずな」
「そうだな」
むすっとした顔をして後頭部しか見えない運転席を見つめる。
「じゃぁどこまで乗せて行けばいい?」
村上が指だけを左右上下に振っている。
「今追ってるやつが〇〇町にいるらしくてな、そこにウチのモノが何人か行ってるはずだからそこまで頼む」
「りょうーかい!!」
街の中の隠れた場所にある地下駐車場から誰にも見られていないことを確認して、すぐに公道に出て大きな道に合流し、多くの車に紛れ込むようにしながら結城の指定した現場まで車を走らせていく。
運転している村上は性格はどうあれ、こういう細かい仕事に関しては文句がないほど事を運ぶのが上手い。
ほどなく車は安定した流れの中に溶け込んで何事もなかったように静かに走っている。
仲が良いとは言えない奴と一緒というだけでも気まずいのに、現場まではまだ少しかかりそうだ。その間はこの車の中は静まり返ったままなのかと小さくないため息をつく。
「これから大変な事になるぞ」
つぶやかれた言葉に反応して横を向くと、た結城はいつになく真面目な顔をしていた。
「覚悟の上さ」
小さくうなずきながらそれに答える。
「
俺にはその言葉に含まれている意味にこの時は気付いていなかった。
※作者の落書きのような後書き※
この物語はフィクションです。
登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。
誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。
次回 鋭い息子
お楽しみに!!
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