泊まる部屋

 夏休みに入って初めての金曜日。

 俺と伊織は一足先に〇〇市へと来ていた。

 ほとんど外出することのない俺にとってはかなりの長旅に感じた。

 待ち合わせの駅へと到着して頃には、暑さと少し疲れを感じて体が重く感じた。

 そもそもなぜ金曜日から来ることになったかというと――


「あ、いたいた!!」

「相馬さんお久しぶりです」

「あらぁ~、相変わらず伊織ちゃんはかわいいねぇ~」

「きゃぁ!」

――どこに行っても伊織は人気だという事を改めて思い知らされる。

 抱き合う二人を見ながらしみじみ思う。


「わざわざありがとう藤堂クン、伊織さん」

「いやいや、こちらこ日暮さんごめんね義妹いもうとまで連れてきちゃって」

 日暮さんは目を細めながら首を横に振る。

「大丈夫です。あ、今日と明日の宿泊場所は確保しておきましたので安心してくださいね」

「あ、ありがとう」

「こっちよ」って手招きされてそちらに荷物を持って向かう。

 相馬さんと伊織がまだじゃれあってるから伊織の分も一緒なので結構な荷物量になる。こう言っちゃなんだが、俺もそれなりに筋力はある方だけど結構プルプルと腕が震えてるのは何故だろう?

――伊織さん? どうしてこんなに荷物が重いのかな? 


 そう日暮さんの参加するお祭りが土曜日からで、土曜日はとても抜け出して迎えに行けないとのことで、俺と伊織だけが前ノリする事になったのだ。

 ちなみにカレンと市川姉妹はまっすぐ別荘に土曜日から向かうらしい。そして明日合流してそのままみんなで別荘に泊まるという計画に変更された。

 もちろん俺の意見が採用されることなく予定は着々と進められていた。


 しかしこの体の重さは――


「あの車に乗ってください」

 日暮さんが指したのは少し大きめの車で、運転席には男性の姿がある。


 コンコン

「お父さん、着いたわよ」

 窓ガラスをたたきながらそう合図すると、男性が車から降りてきた。

 メガネをかけたすごく優しそうな眼を持った方だった。見る限り四十代になったばかりくらいか。

「ようこそ。わざわざすまないね。藤堂クン……だったかな?」

「あ、はい。お世話になります。こっちは義妹の伊織です」

「よろしくお願いします」

 二人同時にお辞儀をする。


 荷物を車に積み込むと、少し待ってもらってトイレに行くことにした。

 この先何があるのか分からないから念のためだ。何しろ今日泊まるところさえまだ知らないんだから。

――何より一度この感じをどうにかしないといけない。


「お義兄にいちゃん大丈夫?」

 心配したのか伊織が追いかけて来てくれた。

「ん? ああ、大丈夫。伊織…感じてるか?」

「うん。でも私はそんなに重く感じてないんだ」

「そうか……なら俺は波長が合っちゃったって事だな」

 少し辛くなったので近くにあった椅子に腰を下ろした。


 俺の異変に気付いたのか車で待ってるはずの三人までが近くまで寄って来ていた。


「藤堂クン大丈夫?」

「平気。ごめんありがとう」

「すぐに休んでもらった方が良いな。急いで帰ろう」


 日暮さんのお父さんに肩を貸してもらいながら車へと移動した。



 駅から二十分くらい車を走らせると、大きな鳥居をくぐって中へと入って行った。どうやら目的地に着いたらしい。

 車の中から見るだけでも結構大きくて立派な社が建っている。


「さぁ着いた。今日はここに泊まってもらうからね」

「ありがとうございます。えと、ここは?」

「言ってなかったっけ? 今日は綾乃ちゃんのところに泊まるんだよ」

 相馬さんのクチからサラッと初めて聞く事が出てきたけど。


「えと、それって俺も?」

「何言ってんの!! もちろんみんな一緒だよぉ!!」

 背中をバシバシたたく相馬さん。すでに俺の調子のがあまりよくないことは忘れてしまってるらしいな。

――うんまぁ、そういうなんだけどね。


 お父さんが荷物を持ってくれて中へ案内してくれた。


 かなり歴史を感じる建物で、柱の一本いっぽんが凄く太い。装飾も細かに彫り込まれていたりしてなんだか少しでも傷なんてつけたらえらいことになりそうな、そんな価値の場所に来ちゃった感じ。


「すごいですぅ」

 伊織の眼がキラキラと輝いてる。この眼をするときは興味を惹かれてる時だ。

「本当にすごいね」

「ああ、気にしなくていいよ。ただ古くからあるだけだから」

 日暮さんが軽く手を振りながら返す。

「だいたい五百年くらい前の建物らしい。わしらの家が代々守ってきたんだよ」

 日暮さんのお父さんが少し誇らしげに胸を張る。


「さ、着いたよ。今日はここで寝てもらうね」


 案内された部屋はかなりの広さがあった。

 中にテーブルがあり、奥の方に布団が二組用意されて置いてある。


「ここで……二人?」

「問題ないでしょ? 兄妹きょうだいなんだから」

 相馬さんも日暮さん親子も不思議そうな顔をして俺達を見てるけど、それは当たり前か。この人たちは知らないんだっけ[血のつながらない義兄妹きょうだい]だって事。


「それじゃ、少し経ったら案内するから。ちょっと休んでてよ」


 三人が部屋を後にした。



 顔を赤く染めて下を向いたままの伊織と、荷物を肩にしょったまま固まる俺だけがその場に残された。





※作者の後書きみたいな落書き※

この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

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