楽しみにしてなさい
「私の姉は何かに巻き込まれたんです。そうじゃなきゃあんなところで……おかしい」
悲しそうに言葉を発する日暮さんの後ろで、その
「日暮さん、お姉さんの名前を教えてもらえるかな」
「うん、
「ありがとう。一応確認なんだけど……お姉さんとはこのままでいいの?」
「え!?」
下を向いて悩んでいる。
「一緒に居たい気もするけど、それは藤堂クンからすればダメな事なのよね?」
日暮姉妹が俺を見据えてくる。二人とも目に涙が溜まってるように見える。
「うん。お姉さんはできればいるべき場所に行った方がいいと思う」
「そか……うん、そうだよね。私もそう思うよ」
静かにうなずく日暮さん。
――改めて日暮さんに協力することを心に誓った。
夏休みと言っても特にいつもと変わったことは無い。
少し夜遅くまで起きてたり、昼過ぎくらいまで寝てるなんてことは、今までの週末となんら変わりないのだ。
違いなんていえるのは、[ 学校に行かない ]ってくらいのモノだろう。
その代わり宿題はたっぷりと出るからタチが悪い。コツコツやれば十分に終わるようにしっかり計算されてるみたいだ。
数日間はノートを開いて辞書を出して調べたり、インターネットを駆使して調べ物したりと真面目に取り組んできたものの、三日目あたりから飽きてきた。
この間に遊びにいくなどの用事もなければお誘いもなかった。結構凹む。
こんこん
「お
「は、はい?」
ベッドの上で一人モヤモヤしてると、開け放たれたドアを律義にたたきながら小さな顔が覗き込んできた。
「ちょっといいかな?」
「おう全然大丈夫!! なんの予定も今のところないからな」
「あ、う、うん てへっ」
――あ、今伊織が笑ってごまかした――かわいかったけど――少しショックだ。
テクテクと部屋に入って来てクッションの上にぽふっと座る。
「あのねお義兄ちゃん。今回の話なんだけど……たぶん私達だけじゃ解決できないとおっもうんだよね」
『そうねぇ……あなた達だけじゃかなり不安ねぇ』
「俺もそうは思ってるんだ。仮に日暮さんの話が真実だったとしたら事件になる。そんな事になった到底俺達じゃ解決どころか傷口を広げてしまうだけかもしれない」
「傷口?」
「うん。被害者だよ」
少し考えていた伊織が何かに気付いたかのようにクチに手を当てて目を大きくする。
「母さんはどう思う? あの日暮綾香さんの事」
腕を組んで少し考えるような姿勢を取ると、近頃は見せてなかった真剣な顔を向ける。
『彼女はたぶんこの事件における真実を知ってるんじゃないかしら。でも何かの理由でそれが言えずにいるとか。あの時話しかけようとしてたんだけど拒否されちゃったのよ』
「そうか……母さんでもダメか……」
三人で黙り込んでしまった。
部屋の外、壁際に張り付いたセミの鳴き声が部屋の中に響く。
「最悪の場合はまた父さんを頼るしかないな」
「そうだね」
『慎吾さんもアレで喜んでるのよ、あなたに頼ってきてもらえて』
「そうなの? 知らなかったよ」
『表に出す人じゃないから』
今度はしんみりとした空気が流れる。
――ちょっとこの空気には耐えられそうにないから話題を変えてみよう。そう思って考えもなしにクチにした。
「ところで母さん」
『なあに?』
――あ、なんかこのセリフとこの声――懐かしくて少し泣きそうだ……
「どうして
びくびくっ!!
――あれ? なんかまずいこと言ったかな? 伊織の顔が真っ赤になってくんだけど……
――母さんはそれを見てニヤニヤしてるし。
『それはね……』
「あ、ちょ!! ちょっと待ってお
伊織がわたわたしてる。
『大丈夫よ。それはね真司、伊織ちゃんと約束したからよ』
「約束?」
「そ、そう!! 約束!!」
『まぁ時期が来たらその時に教えてあげるわよ。今は内緒!!」
――ね~って意気投合しちゃってるけど――母さんあんた幽霊なんですよ? お忘れじゃないですよね?
そのまま部屋から伊織が出ていこうとした時、母さんが俺の方に振り返った。
『真司。伊織ちゃん新しい水着買ったわよ。すっっっごく!! かわいいやつ!!』
「え!?」
「きゃぁぁぁぁ!!」
絶叫しながら走って部屋から出ていった伊織。
残された俺はぼーぜんとする。
『楽しみにしてなさい』
――母さんてそんなキャラだっけ?
母親にウインクされるという微妙な状態で、俺は一人部屋に残されたのだった。
部屋の外ではセミが盛大に声を上げて鳴き出し始めた。
※作者の後書きみたいな落書き※
この物語はフィクションです。
登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。
誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。
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