感じる気配

 夏休みまであと二週間と迫った俺は机に向かって紙をにらみつけていた。


「――わかんねぇ。もう無理……」


 キーンコーンカーンコーン


「はい!! 終了!! そこまでだ!! 後ろから順に集めてきて!!」


 先生の声と共に集められる答案用紙。期末考査の真っ最中である。

 夏休み前にあるこのテストを潜り抜けなければ、高校生になって初めての夏休みに学校に登校するっていう苦行を強いられてしまう。


 ちなみに俺はここまでの成績から言うとちょうど学年の平均くらいの位置にいる。気を抜くとかなり危ない。

 特に苦しめられているのは数学だ。中学生の時から比べると、突然レベルが上がってるように感じる。もともと苦手意識があったのに、今では完全に嫌いで苦手な教科になった。


 つい最近各学校共にテスト期間が近づいているという事で勉強会ならぬおしゃべり会が市川邸で行われたのだが、そこでも釘を刺されてしまった。


「いい!! せっかくの計画なんだから、補習なんかで、潰さないようにね」

「な、何で俺に言うんだよ!! カレンだって人の事言えないだろ!!」

「残念だけど、カレンは成績いいのよ?」

「そうなのよねぇ、こう見えてけっこう頑張り屋さんなのよぉ」


 以外としか言いようのないカレンの成績評価だ。なのにどうして普段はああなのだろう? 


「普段からそれらしくしてれば、良い子なんだけど」

「確かに」

「普段はポンコツお嬢だからなぁ」

「きぃ~っ!! ポンコツ言うな!! みんなで何よ!!」

――きゃいきゃい相変わらずにぎやかだ。こんなんだから[おしゃべり会]とか市川夫人に笑われちゃううんだよ。


 この勉強会には伊織も参加しているが、テーブルは同じだけど何も話をすることなく、黙々と下を向いて勉強していた。さすが我が義妹いもうと真面目である。


「それで、いつから行くのか決まったのか?」


 カレンの頭に電球が浮かんだ。本当にもうピコーン!! って感じで。

「そうそう! それも話しておかなきゃね。予定は夏休みが始まってすぐの日曜日から一週間よ」


「「え!?」」

 理央と響子はうなずいてるだけなんだけど、俺と伊織が同時に驚いた。


「そんなに長い間大丈夫なのか?」

「そうですね。家族の方もご迷惑なんじゃないですか?」

「心配しなくても大丈夫ですよ。その分私達もあなたがたと一緒で楽しめますから」


 ちょうどそこへお茶の入ったカップを持って市川夫人が部屋へ入ってきた。

 伊織がそれを見て慌ててお手伝いへと向かう。


「ありがとう伊織ちゃん。これお願いね」

「わかりました」

「それと、どうせ行くのなら、濡れてもいいような格好だけは準備してきてね。あそこには近くに浜辺もあるから」

「泳げるんですか!?」

 カレンが食いついた。

「う~ん。クラゲ次第かしらねぇ。でも無いよりは……ね」


――あれ? なぜかこちらを向いてウインクされたような――気のせいだよなぁ? 


「真司君、ぜぇぇぇったい!! 補習とかやめてよね!!」

「な、なんで俺だけなんだよ!! お前も頑張れ!!」

 その場に明るい歓声とはしゃぐ声がこだましていた。



「うん……まずいな……」

 机の上に顔を伏せたまま一人つぶやく。

――先ほどの感触、自分では良くやったと褒めてやりたいぐらいなのだけど、点数的に怪しいかもしれな。みんなのあの様子から察すれば、夏の計画はかなり楽しみにしてるはず。俺だけが行かないとか言ったらどうなる事か分かったもんじゃない。それにそうなったらカレンから一方的になじられるに決まってる。それだけはどうにかして避けたい。


 しかし現実を見つめると、そう甘くはいかないかもしれない。


 その時フッと何かの気配を感じた。


 辺りを見回したけど、特別何かを感じる様子もない。

 気のせいだったのかと、この時は思っていた



 その日の放課後。

 明日も試験があるから一夜漬けででも何とかしなければと、学校からまっすぐ帰って勉強するために足早に下駄箱へと急いでいた。


「あ、藤堂クン!! ちょうど今からあなたに会いに行くところだったんだ!!」

 教室から出てすぐに声を掛けられた。

 ――振り向いた俺が見た……


「や、やぁ相馬さん」

「やっほぉ~」

 無邪気に手を振る相馬さんの横にもう二人。

 一人は相馬さんと同じくらいの身長の女の子。


 もう一人はその女の子を悲し気に見つめる


「相談にのってくれない?」


 相馬から放たれた言葉で、それまで持っていたはずの俺の勉強する強い心は折れてしまった。






※作者の後書きみたいな落書き※

この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

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