怖くないの?

「『やめて!!』」


 菜伊籐さん本人の声が響く。


「『それは、自分で言うからやめて』」


 太田はあきれたような顔をしてため息をもらす。

『いいの? バレたら、あなたは今のあなたではいられなくなるわよ?』

「『それでもいい。ううん。言わなくちゃいけない』」

『そう……なら止めないわ』

 菜伊籐さんの周りの空気がフッと少しだけ軽くなった気がする。それと同時に力の抜けた体がヨロヨロと崩れていった。


 慌てて皆川さんと新井さんが駆け寄り、その体を支える。

「ありがとう。ふたりとも」

 声がすでに菜伊籐さんに戻っていた。

 二人が何も言わずに首を横に振る。

 小さな声で彼女が話始めた。

「わ、わたし、クラスの中で人気者になりたかった。顔も性格もイマイチな私には、人気者の理沙がうらやましかったの。理沙みたいになりたかった。でも私には魅力になるものが何もない。あの日……神様を下ろそうって話になった時、理沙が興味有るって仲間に入ってきた。嬉しかった。でも……同時にチャンスだと思っちゃった。これで理沙に何かあったら私が助けたフリが出来るし人気も上がるかもしれないって」

「華夜もういい……もういいよ!!」

「ごめんね二人とも。許してくれるかな?」

 三人が抱き合いながら泣きじゃくっていた。

「理沙にちゃんと謝らなきゃだね」

「その時は三人で行こうね」


 三人を見ながら安堵した。もう菜伊籐さんはこんなに頼らなくてもしっかりと友達の力で立ち直ってくれるはず。



 問題はだ。

 そのモノは菜伊籐さんの体を離れて本来の姿をして教室の一番後ろ側に漂っていた。


「で? あなたはどうするんです?」

 身体を回転させて一番後ろでこちらを見つめている彼女に視線を移す。

 泣きじゃくる三人以外の視線がそれに合わせて一斉に移動した。


『この姿で会うのは初めてですね。皆さん初めまして太田美憂です』

 ペコっと頭を下げた。


 そこにいたのは小柄なで栗色の髪をしたかわいい女の子だった。


「そこにいるの?」

「やっぱりえないかぁ」

「でしょうね」

 女子組のそれぞれが、それぞれの気持ちを言葉にしていた。


「あなたはどうするんですか? あなたの願いもかなったはずですよね?」

『あなたどうしてそれを?』

首をちょこんとかしげて俺を見つめる。

「もちろん聞いてきたんですよ。あなたの当時の同級生たちに」


 初めて理沙の部屋を訪れた時に感じた重い空気。その中でこちらをのぞく彼女の顔が少しだけ俺には見えていた。それを元に彼女の噂を求めてネットで調べ、学校などを見ていたらソレらしい内容の書き込みを見つけた。

 その書き込みを元にして更に調べ、当時の同級生とコンタクトを取ってカレンや市川姉妹に話を聞きに行ってもらっていた。

 もちろん入手が女性という時点で俺が話に行かないことは確定事項だ。


「同級生の方が言ってましたよ。あばたは責任感の強い人であり優しい人だったって。だから放っておけなかったんでしょ? その事を思いながら病気で亡くなった後も」


 彼女は答えなかった。


「今回,菜伊籐さんは立ち直りましたよ。結果的にはあなたのおかげともいえるでしょう。それに……」

『それに?』


 俺は三人に視線だけを移して言う。

「彼女にはもう頼れる友達もいます」

 彼女は少しだけ微笑んだ。

『そうね……。わたしはもう必要ないみたい』


 校舎に沈んでいた夕日が隠れ始めると、開け放たれていた窓に涼やかな風が入り、そのオレンジ色の優しい光がカーテンの隙間から漏れて入ってくるようになっていた。


「あ!!」

「え!?」

「うそ!?」

 女子組から声が上がる。

「み、みんなどうした!?」

「み、視える……」

「視えるわ太田さんが!!」

「かわいいひとですねぇ」


――なんか後ろできゃいきゃいはしゃいでますけど……視えてるのに嬉しいっておかしくないか?


『あの……あなた達怖くないの? 幽霊な私が……』

 なぜか幽霊の太田の方がおろおろとしている。

 俺はそれに苦笑いするしかなかった。





※作者の後書きみたいな落書き※

この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。



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