望んだこと

「『では遠慮はいらないって事よね』」

 その言葉と同時にいままでそこにいた菜伊籐さんがさんではなくなった。


「やっぱり、かれてたのは君の方だったのか」

 見上げてきた菜伊籐さんの目はもう別人のように赤黒く光っていた。

「『そう良くわかったね。あなた見かけによらず鋭いみたいね、さえないようにしてるのはフリなの?』」


「くっ!! 見かけって!!」

「そこ!? お、お義兄にいちゃん落ち着いて!!」

 後ろに居た伊織に両肩をつかまれて我に返った。


「き、君は……その体の中にいる君は誰なんだ」

「『ふふっ。私の事まで分かってるなんてすごいね。う~んこの子の願いをもう少しかなえてあげたかったんだけど、知られちゃったら仕方ないかぁ。私の名前は太田美憂おおたみゆう。このとは入学式以来の付き合いねぇ』」


 そういうと完全に菜伊籐さんの気配が消えた。

 辺りには重い空気が漂う。


『ちなみに聞くけど、どこで気づいたの?』


――何だろう? この幽霊ひとは見つかったことを喜んでいるように感じる。だからこそその顔は微笑みを浮かべてるのかもしれない。


「完全に気付いてたわけじゃない。理沙さんの家に行って部屋の前に着いたときに気になったんだ。前から流れてきているはずの重くて冷たい空気が俺の後ろから流れて来てるのに」

――あの引き返した時に気にはなっていたんだ。だから声をかけて振り向いたんだけど、まさか返事が伊織からではなく大野クンから来るとは思わなかったけどな。


『へぇ~。あれだけで気づいちゃったんだ……。気に入ったわ藤堂クン』

「ちょっとあなた!! お義兄ちゃんはあなた達のようなは苦手なの!! 近寄らないでもらえます!!」

 スーっと俺に近づいてきた太田。その間にズイッっと入り込んでくる伊織。

伊織の行動はありがたいが、周りから「シスコン」とか「ブラコン」とかいう単語が聞こえて来てるのが気になる。

 その間にも伊織と太田のにらみ合いは続く。しかし太田もそれ以上は俺と伊織に近づこうとはしていない。顔も若干だが嫌がっているような表情をしている。


『私は待ってたの。この学校で』

「ええ、あなたはこの中で亡くなったんですよね」

威圧に負けないように声を出す。

『あなた方がどこまで知っているのか分からないけど、別に取憑とりつくのは誰でも良かったの。私を必要としてくれているのならね。そしてこのが現れた。だから中に入ったのよ』

「あなたが必要と思ってるだけじゃないのか?」

背中に冷たい汗が流れる。


 ふふふっっと彼女が笑う。


『いいえ。このはこれを望んでいたのよ。周りから望まれるようになりたくて、クラスでも人気者になりたかった。だからありもしない力を有るって偽ってた。それに力を貸してあげたのよ』


 これには新井さんも皆川さんも驚いていた。


 俺が彼女達から個別に話を聞いていた時、彼女たちのクチからその事は出ていた。

 菜伊籐さんは入学した当初から、があって霊もえると言ってクラスでの人気者になって行ったのだと。だから当初、この話で俺達に相談に行くと聞いて驚いたのだとも言っていた。なぜその力を自分で使わないのかと不思議だったらしい。

 そして俺達は会った時から先ほどまで、彼女からそんなことを聞く事もなかった。

 たぶんこれは俺の想像でしかないが、菜伊籐さんは本当の力があるもの達を恐れていたのだろう。その力が自分には無いことがばれないかどうかを。


「あなたがここでできなかったことを菜伊籐さんでしたかった。そういう事ですか?」


 俺の問いかけに彼女は首を横に振った。


『そういう事ではないわ。私はただ寂しかったのよ。こういう事は毎年繰り返されるの。新しく人が入ってくるたびにね。でもそれも一時いっときだけ……。だから今までは少し動かしたり手伝ったりしただけだったんだけど、このは違ったわ。ずっと必要だと言ってくれたのよ』


 本来は地縛霊じばくれいのはずの彼女は動くことはできないはず。

 だから太田は菜伊籐さんにくことでこの場からも出られるようになったのか。

 俺は変に納得する。


『このの本当の願いを叶えるためにはね』


 それは俺にも分からない。菜伊籐さんからは聞くことが無かった本音の部分だ。


『それは……』

「『やめて!!』」


 彼女の中にいる本当の菜伊籐さんの悲痛な叫び声が教室内に響き渡った。





※作者の後書きみたいな落書き※

この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

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